190.先代と先先代
(え、エディオスさんとアナさんのお父さんにお母さん⁉︎)
そのお二人が近づくにつれて、周囲の喧騒も静まっていったんだけど……。
「ひっさしぶりー、ディオにジャスティンっ!」
空気読む時は読むのに基本マイペースな少年神様は、自分の方が高位だから気にせずに挨拶していた。
「フィー、久しいな? ここにはひと月前から居たそうだが」
「ご無沙汰しています、フィルザス様」
「まあねー? 離宮になんか行ったら、君とかレストの愚痴聞かされるでしょ?」
「はっは、バレていては仕方ないな」
先代の神王様は、目の色以外エディオスさんそっくりだ。ただ、性格はギルハーツさんくらいに穏やかな雰囲気。
エディオスさんももう何百年か歳を重ねればああなるのかな? 想像しにくいけど。
(お母さん、はアナさんにそっくりだ……)
髪の色はもう少し薄い紅色だし、目も水色だけど他はアナさんをもうちょっと美魔女にしたってくらい容姿とかがそっくり!
商人の娘さんだったって聞いてたけど、言われなきゃお貴族さんと思っちゃうよ。
「ところで、ディアが夢中になっている聖獣の主人があの子かな?」
「あ、そうそう。カティアー、セヴィルと一緒においでー?」
「え」
「……行くしかない、か」
こんな公の場で大声を出されちゃ行かないわけには、だものね。
あと、多分だけど、エディオスさん達の親戚ってことになってるからお父さん達ともそうなんだから、話しかけない方が不自然なのもある。
手は流石に繋がないが、ゆっくりとフィーさん達のところに歩いてる途中、痛い程の視線が向けられるのを感じた。
先代の神王様達の前だからひそひそ話も聞こえないが、向けられる視線のせいで緊張と不安がどっと押し寄せてくる。それでも、エディオスさん達から打ち合わせの時に堂々としておけと言われたので、自分なりに不安を見せないように顔を引き締めた。
そして、フィーさんの隣に立った時、いきなり強い力に引き寄せられた。
「この子がカティアだよ! 聞いてるだろうけど、レストに負けないくらい美味しいものを作るんだ」
「ふ、フィーさん⁉︎」
せっかくセリカさんに懇切丁寧に教えてもらったマナーを披露しようとしてたのに!
ボロが出るとマズイと思ったのか素なのか僕の肩を抱いて自分の胸に引き寄せたのだ。
美少年に抱きつかれるなんてそうそうなかったし、彼からも一度もなかったからびっくりしたしドキドキした。
けど、セヴィルさんに感じたような鼓動が早くなるのはなくて、単純に美少年に抱きつかれたからだろう。
あと、フィーさんってなんかいい匂いがする。
セヴィルさん達もいい匂いはするけど、なんかローズマリーかレモングラスのような料理に使うハーブみたいな。
羞恥心を紛らわすのに食べ物を思い浮かべるのは失礼なので、現実を見ることにした。
前を見れば、先王様と王妃様が少し目を丸くしてらした。
「……ふむ。フィーがそれだけ気を許す子はうちの子達以外でそう多くない。余程、気に入ってるのかな?」
「良い子だしねー?」
「まあ、とりあえず離してやりなさい。私達の顔が見えにくそうだが?」
おっしゃる通り、僕首だけ前になんとか向いてる抱っこ状態だ。
セヴィルさんもだけど、エディオスさん達もきっとぽかんとしてるか苦笑いされてるだろう。
フィーさんの破天荒振りは今更だけど、この場でこんなことが出来るのはこの人くらいだ。
「はいはーい。カティア、ごめんね?」
「い、いえ……」
お陰でがちがちだった緊張感は少しほぐれたから感謝はしているけども。
僕は、先王様達の方に向かって姿勢を正し、今着てる動きやすいドレスの裾を摘みながら軽く腰を折った。
「カティア=クロノ=ゼヴィアークと申します」
「先先代から聞いてるよ? 今まで身寄りのない生活をしてたそうだね。私達はエディオスとアナリュシアの親だよ」
「よろしくね、カティアちゃん」
「は、はい」
お母さんにもちゃん付けで呼ばれたと言うことは、マナーはきちんと出来てたみたい。
これで、今日のミッション第一段階はクリアだ。
「けれど、私達の縁戚であるなら……私はデュアリスと言うんだがフィーも呼んでたようにディオと呼ばれることが多くてね? 出来れば、ディオおじさんって呼んでほしいんだが」
「無茶言うでない、愚息が」
「あら、お義父様」
本当になんて無茶を!って思ってたら、レストラーゼさんが奥さんを連れてやってきた。
レストラーゼさんは来るなりデュアリスさんを軽く小突いたが、デュアリスさんはデュアリスさんで全然応えてないみたい。
「手厳しいですね、父上」
「儂とておじいちゃんと呼んでもろうてないのじゃぞ」
「親しいとは言え無理でしょう?」
「今呼ばせようとしたお前さんが言うか」
なんか、言い合いが始まってしまったが誰も止めようとしない。
フィーさんものんきに笑ってるだけだ。
「いつものことだから気にしなくていいよー?」
「そ、そうなんですか?」
「ここにいる者なら全員知っていることだ」
セヴィルさんも言う通り、ちょっとだけ周りを見ればほとんどの人が苦笑いしていた。
子供もいなくないとは聞いてたけど、たしかに僕くらいの子やフィーさんくらいの見た目の子達がちらほらいた。
その中で、少し大人しそうに見えた可愛いサーモンピンクの髪の女の子と目が合えば、向こうは少し恥ずかしがったが僕が少し笑いかければすっごく可愛い笑顔を見せてくれた。
(か、可愛い……っ)
上のお兄ちゃんの姪っ子はまだ乳飲み子だったが、あの子は外見だけだと5歳くらいかな?
それでも、実年齢は僕よりずっと上だろう。
ボロが出ないように、出来るだけ子供らしい素振りでいよう。
その前に交流出来るかわからないけどね?
「「で、カティアちゃんはどう呼んでくれるんだ(じゃ)⁉︎」」
「え、あ、はい?」
ヒートアップしてた言い合いの矛先が、いきなり僕に向かってきた。
ほんとに急な事だったし、僕に視線が集まるので落ち着いてきた緊張感が高まってしまった。
けれど、それを落ち着かせようとあったかい大きな手が僕の頭を軽く撫でてくれた。
「無理に呼ばずとも良い」
「セヴィルさん」
見上げれば、ほんのちょっと口元を緩めていた。
少し久しぶりに見る笑顔に顔に熱が集まるのがわかるが、周囲が一気に騒ついた。
「あら、本当に気に入ってるようねセヴィル」
「この幼子は他と同じではありませんから」
ジャスティンさんの問いかけに、セヴィルさんは淀みない口調で答えました。
こんな公衆面前で僕らが御名手って間柄なんて絶対言えないから、そこはお口チャックです。
「セヴィル、甥とは言え口を挟んでくるとは珍しいな?」
デュアリスさん、穏やかな雰囲気が一変してちょっと怒ってるみたい。
そこだけは、やっぱりエディオスさんのお父さんってところなのかも。
「……カティアが困っているところに追い打ちをかけられる先代が悪いと思いますが」
「お前が決めることではないだろう?」
「カティアちゃん、儂はおじいちゃんと呼んでくれぬか?」
「なっ、父上!」
「こら、二人共。完全に王族だけの集いではないのですから、いつものようにされるのはやめなさい。見苦しいですよ?」
「は、母上」
「……ティナさん」
真打ち登場?
レストラーゼさんの奥さんで、エディオスさん達のおばあさんのご登場だ。
どんな人かなって、レストラーゼさんの向こう側を覗いてみると……若い頃はさぞかしラディンさんの隣でお似合いだってくらいな綺麗な銀髪のおばあさんだった。
目はサファイアって色がぴったりな濃い青の瞳。
僕が今水面とかの青色なら、おばあさんは水底の深い青って色合いだ。
それとスマートな体型なのに、おばあちゃんって感じはすぐわかるのに、なんて素敵なお胸をお持ちでしょう。
グラウディアさんのお母さんってすぐわかるくらいにご立派です。
「まったく、怯えはしていなくてもゼルの言う通り困ってるじゃないですか。ごめんなさいね、カティアちゃん」
「あ、え……は、初めまして、カティア=クロノ=ゼヴィアークと申します」
「あら、丁寧に出来て偉いこと。私はこの放蕩息子と貴女の守護獣をまだ可愛がってる娘の母で、エディオス達の祖母よ。ティナロッサと言います」
「よ、よろしくお願いします」
笑顔も素敵なおばあさんって可愛いって、本当に実感出来ちゃう。
レストラーゼさんとデュアリスさんは後ろでしょぼんとされてますが、どうして?
「すまんの、ティナさん」
「申し訳、ありません」
「ええ、本当に。このように可愛らしい子に呼んでほしいのはわかりますが、いい大人が情け無いですよ? それに、エディ? 今の神王は貴方なのだからさっさと止めなさいな?」
「そうは言ったって、実力行使していいのか?」
「あらそうね。カティアちゃん以外初めての子もいるから、それは見せない方がいいわ」
実力行使って、例えばフィーさんがこの前レストラーゼさんを止めたような感じかな?
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