188.散策と護衛(途中別視点有り)
◆◇◆
「ふーんふんふん、ふんふっふ」
「ふゅゆ、ふゅゆゆ……ふゅ?」
「クラウにはまだ難しいかもね?」
「ふゅぅ……」
レストラーゼさんに秘密を知られてから三日後。
お勉強会が終わってから、午後に本当はセヴィルさんとお散歩デートの予定だったのが。
『すまない! 急な書簡が立て続けに入ってきたのでまた次の機会にさせてほしい』
お仕事が増えちゃうのは仕方のないことだけど、セヴィルさんの落胆っぷりが凄かった。
僕に気持ちを伝えてから、セヴィルさんはちょっとずつ僕をお散歩デートに誘ってくれている。時間はその時によってまちまちだけど、大体は20分か30分くらい。
本当に短い時間ではあっても、僕も楽しみにしていた。
それがキャンセルになるのも今回が初めてじゃないのに、セヴィルさんは僕以上に残念な感じになる。
わざわざ僕に知らせてくださるのは嬉しかったが、識札でも良かったのに。見た目を裏切らず律儀な人です。
だから、今日は最近許可をいただけた裏庭散策にクラウとやってきたのだ。
セリカさんは家庭教師とちょっとお茶会をする以外は、すぐに家に帰ることが多いので今日もそんな感じだ。あと四日後の収穫祭に向けて、色々しなくちゃいけないこともあるそうなんだって。
「僕、何もしなくていいのかなぁ?」
「ふゅ?」
レストラーゼさんが提案してくれた、王族の縁戚だと言う嘘の発表は翌日にされたそうだ。
本当なら玉座の間でご挨拶しなきゃいけないだろうけど、外見年齢がこれだから免除してくれました。
と言うのも建前で、マナーをまだセリカさんから習い始めたばっかりだからボロが出ないようにするためです。あと、まったくじゃないがイシャールさんやセリカさんのように魔眼持ちの人もいるから、勘繰られないようにだって。
魔眼持ちだと、フィーさんの魔法で僕の虹眼を隠してても結界がかかったように見えるそうだから、余計に不審がられるみたい。
収穫祭ではその人達に会う事はなさそうなので、当日は大丈夫だってさ。
「……でも、ただの居候でいいのかなぁ」
料理は趣味と実益を兼ねてると言うか、元の世界での職業が調理師見習いだったから出来るだけ。
その時は毎日仕込みから完成まで師匠達の元で働き、家に帰るが当たり前だった。
こんなニートに近い状態で過ごしていたわけじゃない。
「お金、が欲しいわけじゃないけど」
一ヶ月と少し、式典中を除けば本当にニートと言うか勉強以外好き勝手に過ごしてる状態だ。
なんと言うか、自分の性格も関係してるだろうけど、もの凄く体がなまって来たようで仕方ない。
今外見が子供だからあくせく働かせる事は、庶民でもないのでダメだと言われてるからそれは出来ない。
せめて、だけどこうやって庭に出るとかして散策するくらいが限度だ。
「シュレインに行くことも、当分ないだろうし我慢かな」
「ふゅ」
とりあえず、今日の目的は裏庭散策だ。
ある程度歩いてから、クラウを離して宙に浮かせてあげた。
「何があるんだろうねー?」
「ふゅゆ」
収穫祭前日まで、裏庭の方も準備は特にないそうだから散策するなら今日くらいがいいだろうとエディオスさんが言ってくれた。
木も多いけど、茂みも多いから怪我に注意しろって言ったのはセヴィルさん。
到着すると、中庭のように手入れされた花木は多いが、言われた通り茂みが多い場所だ。
ここは、エディオスさん達が子供の頃隠れんぼだったり鍛錬をした場所らしく、収穫祭当日もメインは子供部門の会場になるそうだ。
と言っても、僕は本当の子供じゃないからエディオスさん達との行動が多い。
多少は他の人達のお子さんとも話すだろうが、秘密がバレないように本当に必要最低限のつもりだ。
それはまた当日近くに考えるとして、クラウは上から飛んであちこちの果物の匂いをくんくんと嗅いでいた。
「ふゅふゅぅ!」
「ちょっとはいいけど、あんまり食べちゃダメだよ?」
「ふゅ」
よーく言い聞かせておかないと、クラウの胃袋は底が見えないくらいにあるので、食べ尽くすとか考えられるもの。
「あ、木苺みたいなのだ?」
昔家の裏手にある森の中でもお兄ちゃん達や自分ひとりでも取りに行ってたっけ。
それでジャム作ってクッキーサンドしたのはいい思い出だ。
「……一個なら、いいよね?」
今日は収穫祭じゃないし、別に採っちゃダメだって言われてないし。
ひと粒だけ摘んで、顔の前に持ってくる。
大きさは、ラズベリーくらいに大きい。
品種が何かは解説してくれる人がいないから、こっちのラズベリーらしいダイラって果物かなぁって思った。
見るからにツヤツヤした綺麗な宝石に近い果物。
僕は、迷わずにぱくりと口に入れた。
「あ、甘酸っぱいー!」
酸味も程よくて、とっても美味しい!
味はやっぱり木苺でも、日本で食べた野イチゴに近い甘さだった。
これでジャム作って、セリカさんと一緒にクッキー作りたいくらい美味しい。
「ほ、他のも味見したいけど……」
収穫祭までのお楽しみにしておこう。
それと、僕以上につまみ食いしてるクラウを回収すべく急いだ。
「こーら、ちょっとならって言ったでしょ?」
「ふゅぅ?」
そして、これまた予想通りに口の周りは果物の果汁まみれ。
念のために、大きめのハンカチを持ってきて正解だった。
ごしごし拭いてあげると、僕はあることに気づいた。
「紫っぽいの……?」
赤に混じって紫の果汁も付いていた。
時期的にはおかしいけど、ブルーベリーも採れるのだろうか?
少し探してみたけど、目に見える範囲にはなかった。
「クー、どこまで行ってたの?」
「ふゅ」
ぴっ、と少し奥を指してくれたので抱っこしながら行ってみれば……たしかにブルーベリー特有の低い木がたくさんあった。枝にはこれでもかと完熟とその少し前くらいのブルーベリーが実っていた。
「上層にあるフェイって、ここで採ったのかなぁ?」
「ふゅぅ?」
まあそれはさすがにないだろうけど。
だって、群生はしてても規模が小さ過ぎるから。
これも食べるのは当日まで我慢することにして次へ行こうとしたら……。
「やっほー、カティアちゃん!」
「シェ、シェイルさん……?」
どうしてか、茂みを進んでた途中でシェイルさんと再会してしまった。
式典初日以来だけど、相変わらず元気いっぱい。
この人が、先日知ったことだけどフォックスさんの娘さんって言うのは、よく見たら納得出来る箇所はいくつかあった。
(元気いっぱいなのは、シェイルさんの方が目立つけど……口調はもちろん、マイペースさとかは?)
親子だから似てて不思議じゃない。
それはさて置き、なんで近衛さんの人がここにいるんだろうか。
「聞きたそうな顔しとるな?」
「え、ええ……」
「この前、君の発表があったやろ? なもんで、うちが君の護衛につくことになったんや。常駐じゃないけどな?」
「へ?」
なんでわざわざ僕に、と思ったが、すぐに考え直した。
僕は、今はかなり遠縁でもエディオスさん達の身内だったんだ。
今まではお城の中から出る事がほとんどなかったから、お庭でも外に出るなら護衛さんが付いてても不思議じゃない。
でも、
「い、いいんですか?」
この人は、僕の秘密をほとんど知らない。
おまけに発表前から数回交流があるとは言っても、不思議に思うだけで済まないはずだが。
「事情持ちなんはオトンから聞いとるし、気にせんでええよ」
「え?」
「うちも、ちょっとばっかしオトンの部下の一人でもあるんや。カティアちゃんの事は聞かされてないけどな?」
「そ、そうなんですか?」
フォックスさんも職業を兼業されてるから、その娘さんもそうなんだろうか?
とりあえず、あんまり大声で話しちゃいけないから頷いておくことにした。
「けど、どんどん奥に行くから回り込むの大変やったでー? まあ、ここで遊びたくなる気持ちはわからんくもないわぁ。うちもオトンに連れられてちょっとだけ遊んだことあったしな?」
「フォックスさんとですか?」
「あんま似とらん親子に見えるやろうけど、盗める技術は結構盗んだつもりや」
それは自慢していい事なのかどうだろうか。
けど、お父さんが大好きなのはよくわかりました。
だって、とってもいい笑顔だもの。
「ふゅ、ふゅ!」
クラウは久しぶりに会ったシェイルさんにも手を振って挨拶しようとしていた。
「おー、クラウちゃん久しぶりやなぁ?」
「ふゅ!」
シェイルさんが屈んでクラウの右手を握ってくれれば、クラウはきゃっきゃとはしゃぎだした。
「まだ遊び足りんやろ? うちと遊ぼか?」
「ご、護衛のお仕事は?」
「それもやるけど、カティアちゃんここいらの順路わからんやろ? 案内ついでに遊んだるから!」
「目的が後者じゃないですか……?」
それでも、散策ついでに案内を買って出てくれるのはありがたいですが。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(????視点)
いた。
見つけた。
何故近衛が近くにいるかはわからないが、裏庭に出てくるとは思わなかった。
(……やっと、見つけたっ)
だが、一人か守護獣と一緒ならともかく、近衛が一緒にいては連れ出しにくい。
遠目にしか見えないが、あの髪色は女でもやり手の騎士だと噂には聞いてたから。
「…………だけど、はやく聞き出さないと」
自分じゃなく、家族が大変な事になってしまうから。
実行するのは、あと四日後しか難しいだろう。
その時なら、なんとか出来るかもしれない。
「待っててくれ、親父……」
自分の責任は自分でなんとかしたい。
ひとまずは、一旦この場を去るしかなかった。
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