181.御名手の見分け方?

 エディオスさん達は無理もないにしたって、なんでアナさんとサイノスさんは未だに両片想い状態なんだ!


「カティア、どうした? 顔色がころころ変わってるが」

「え、あ、いえ!」


 いけない。

 声には出してなくても、態度でバレそうだ。

 ここは、お口チャックもだけど、出来るだけ表情にも注意しなくっちゃ!

 普段のセヴィルさんのように出来るかは非常に怪しいが。


「それはともかく、最低150年も想ってるんだからいい加減に言いなよ? 君にも多少神王家との血脈もあるんだし、六大侯爵家の一員なら反対もされないんだろうに」

「い、言えるかっ」

「肝心なところで照れ過ぎて言えないから?」

「フィー‼︎」


 あ、図星だったんだ……。


「そ、それより、もう一つ確認と言うか協力して欲しいことがある」

「僕に?」

「お前さんもだが、カティアにもだ」

「僕にもですか?」


 何を協力すればいいんだろう?


「御名手はまだ告げないにしても……セリカの方じゃある意味最大の難関があんだ」

「え、何があるんですか?」


 まさか、貴族間での反対派とか?

 緊張が高まって大きく唾を飲み込んだが、何故かサイノスさんはクラウを撫でながら苦笑いしてるだけ。


「そう固くなるな。問題って言うのは……イシャールだ」

「へ?」

「あー……イシャールねぇ?」


 なんで、いきなりイシャールさんの話になるんだろうか?

 フィーさんはわかったようにため息を吐いてるけど。


「僕あんまり覚えてないけど、リチェルカーレで一番セリカ溺愛してたのってイシャール?」

「そう。年が離れてる分余計にな? シアはすぐ下でも生意気なとこが多かったしよ」

「シア、さん?」

「セリカの姉でイシャールの上の妹だ。正式にはシアリーシャってんだ。歳はエディとゼルより数年下だな」


 それと、イシャールさん達にはもう一人お兄さんがいるんだっけ。イシャールさんの風貌から長男に見えても、実際は次男さんらしいし。

 それはさておき、


「えと……もし、セリカさんがすぐにエディオスさんのところに嫁がれることになったとしたら、イシャールさんが猛反対されるんですか?」

「エディに限らず、誰でも蹴散らすぜ? セリカはちっさい頃から言い寄られることが多かったから、そう言う虫共を追い払うのが大体あいつだ」


 俺も手伝わされたが、とどこか遠い目に。

 だが、物凄く想像しやすい。

 シスコンのテンプレが、まさかイシャールさんであるとは思わなかった。けどそれは、セリカさんの事情を知る前の印象だ。知った今だと、なんだか納得出来ちゃう。


「ってことは、セリカさんとエディオスさんが御名手だって事がバレたら?」

「まず、イシャールがエディに決闘を申し込むだろうな?」

「……うわぁ」


 父親から許可を得る前に、俺を倒せってテンプレ?

 セリカさんがまだ戻ってきてつい最近だけど、エディオスさんのところにお嫁に行くとなれば、シスコンのイシャールさんはきっと黙ってない。

 わかりやすいくらいに想像出来た。


「で、僕らは何を協力すればいいの?」

「いつかは、エディもセリカに言うだろ? まあ、御名手抜きにしてくっついた時にイシャールが食ってかからないようにな?」

「ああ。僕は神、カティアはセリカの教え子だから牽制?って言うか味方につくため?」

「大体はそんなとこだ。俺ももちろんセリカ達の方だ」

「が、頑張りますっ」


 それがいつになるかはわからないけれど、その時が来たら喜んでお手伝いしますとも!


「んじゃ、俺の用事はこんなとこだ。さっき騒がしかったが何してたんだ?」

「あ、聞いてよーサイノス! カティアの識札練習してたんだけど、僕に宛てた内容がさぁ!」


 まだ手に握ったままの識札をサイノスさんに渡すと、読み終えた彼はすぐに小さく吹いた。


「はっは! 違いない!」

「あ、ひっどーい⁉︎」

「俺もあんま言えないが、お前さんの早食いはなんとかしないとな?」

「だって、カティアが作るの全部美味しいもん」

「もんって、お前さんなぁ?」


 サイノスさんはそれから少し雑談をされてから帰っていかれた。

 一応退勤はしてても、まだ勤務時間内だからだって。

 クラウを返してもらって、サイノスさんの姿が完全に見えなくなってから、僕はフィーさんに振り返った。


「フィーさん!」

「ん、何?」

「この際聞きたいんですが、御名手ってどう言うタイミングでわかるんですか?」

「タイミング??」

「あ、えっと……時間を見計らうとか、機会とか」

「ああ。君とセヴィルの場合は例外だもんね?」


 とりあえず座ろうと、僕は勉強机の方に、フィーさんは魔法で用意した椅子に座った。


「どの基準でかな? エディ? サイノス?」

「どっちもですね」

「いいよ。まず共通する点は、お互いの絆かな? 恋愛とかで言うと、絶対に離れたくない気持ちとかそう言うの」

「はい」

「君の場合はまだセヴィルとの交流が少ないから自覚が薄いけど、そこは置いといて」

「あ、はい」


 たしかに、僕にはまだ御名手の自覚が薄い。


「サイノスで例えるなら、アナに婚約の申し込みをした時に絆が魂同士で呼応して幸せな気持ちになるはずなんだ。エディの場合もほとんど同じだけど、神王だからそこは僕からの神託がセリカの口から伝えられる、かな?」

「直接言わないんですか?」

「野暮な事聞かないでよ。二人っきりの空間に割り込むのは声だけで我慢してるんだし」

「本音ダダ漏れですけど……」

「ふゅ」

「あっははー、ごめんごめん」


 まったくマイペース過ぎる神様だ。


「けど、一般の人達でもわかりにくいんですよね?」

「検証は色々してるけど、今のところの僕の考えでは輪廻転生を繰り返したせいかなぁって。蒼の世界に比べれば長命でも、この世界も他も時の流れって結構早いから」


 なのに、僕とセヴィルさんはどうしてか異世界同士。

 これについては封印の関係でフィーさんはよくわからないそうだから、しばらく考えないでおくしかない。


「それともう一つなんですが」

「うん?」

「さっきはぐらかしましたけど……サイノスさんとアナさんも御名手同士じゃないんですか?」

「あっはー、鈍い君にもバレたか?」

「いくら鈍くてもわかります!」


 これで二つも御名手の秘密を知ってしまった。

 しかも、どっちも両片想いって、僕より面倒じゃないか!


「……まだ他にもいそう……」

「あ、いるよー? イシャールとか」

「だ、誰ですか⁉︎」

「中層で会った事がある子」

「え、じゃあ……」


 また一つ増えてしまった!

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