180.御名手と勘付かれる
「どーしたのサイノス?」
「…………いや、ここまで来てお前さんに聞くのがいいかどうかわからなくなってな」
「何が?」
何を躊躇われてるのか、僕らにはさっぱりだから質問返しになってしまう。
サイノスさんは少しの間、『あー』とか『うー』とか唸るように言葉を詰まらせてたけど、それが終わると今度は『よし』って腹を括ったように大きく頷く。
未だ疑問にしか思ってないフィーさんはクラウを頭に乗せたまま、器用に首を傾いでいた。
「フィー、お前さんに聞きたいことがある」
「うん?」
「セリカのことなんだが……」
「セリカがどうかした?」
一瞬アナさんのことかなぁって思ったら、セリカさんについてだった。
何かあったのかな?と緊張感を持って次の言葉を待っていたら、
「…………エディの
「おや?」
「え」
なんでそれを知って⁉︎……いや、違った。質問だもの。
つまり、サイノスさんは何かがきっかけでそれを勘付いたのかもしれない。
「その根拠は?」
「エディもだが、お前さんセリカ捜索についてはかなり協力的だっただろ? あの頃のセリカは一応お前さんに懐いてはいたが、会う機会はエディらに比べれば少なかったのに」
それと、と軽く咳払いされた。
「エディ自身がセリカに惚れてんの自覚したからな?」
「え、エディオスさんが?」
いつから自覚されたんだろう?
少なくとも、食事中にご一緒されてる時に目立った仕草とか行動はされてないような?
(いや、待って?)
昨日の、ファルミアさんに女性だけで集められた後にとった行動。
あれ、いつものエディオスさんだったら特になにもないはずだから。
(けど、何がきっかけだったんだろう?)
僕がセヴィルさんとデートに行く前とかは、それに似た行動なんて特になかった。
「ふふ、カティアは知らなくて当然だよ。君とセヴィルが出掛けてる間に起こったことだから」
「え?」
「その様子だと、カティアも御名手の方は聞いてるようだな?」
「あ」
直接的には言ってないけど、フィーさんの言葉に反応したからバレてしまった。
「そーだよぉ? セリカはエディの御名手。だから、僕はずっと頑張ってセリカを探してたんだー」
「やっぱそうか……」
「さ、サイノスさん。いつ気づいたんですか?」
「さっきユティ達を見送った後だ。つか、お前さんはなんで知ってるんだ?」
「え、えーと……」
「この子とセヴィルが御名手でしょ? それと市井で育ってるから感覚が近いのはセリカだし、ちゃんとわかった時に同じような関係がある子が近くにいれば安心じゃないかなぁって」
「つーと、セリカの方は御名手はわかってないにしてもエディには惚れてるって訳か?」
「あれ、そっちは知らなかったの?」
僕もてっきり、はとこさんだから知ってると思ってたのに。
「……今は気にしなくていいが、セリカがいなくなった当時がカティアの外見より少し上くらいだぞ? エディの方もいつからかは知らんが、セリカの方は単に懐いてるとしか思わなかったしな」
その同じくらいの年頃だったアナさんに惚れられてるあなたが言えますかとツッコミしたい。
アナさんに聞いたところ、セリカさんがいなくなるずっと前から想いを寄せてたそうで。
本人のいないところで口にするのは失礼だから言いませんが。
「でも、サイノス。わざわざ僕に聞きに来たのは、将軍として? それとも幼馴染みとして?」
急に質問をしたフィーさんの言葉に僕は首を傾いだ。
何か、おかしなところがあったのかなって。
「…………それによっちゃ、俺のも言わないってことか?」
「基本的に神託を下すことはしないからねー? 今回は君自身が辿り着いたからエディ達のは教えたけどー」
僕の場合は、今の名前をつける必要があったからだけど……普通はどうなのかそう言えば聞いてない。
何か特別な理由がなければダメなんだろうか?
「……将軍としては、神王の御名手が知れたとなればゼルや大臣のおっさん達に報せなきゃならんが。今回は別だ。俺は、一個人としてあいつらを見守りたい」
最後はきっぱりと言い切った。
琥珀の瞳も、真剣にフィーさんを見ている。
それに対して、フィーさんはクラウを頭に乗っけたままだけど、同じように真剣な表情で黒い瞳をサイノスさんに向けていた。
言い方は悪いだろうけど、品定めをするような探るような感じに。
少しして、フィーさんが瞼を閉じてから小さく息を吐いた。
「偽りはなし。いいよ? 信じてあげる。けど、君のはまーだ教えない」
「それは承知だ」
サイノスさんの誠意が嘘じゃないのがわかってよかったけど、やっぱりサイノスさんの御名手がアナさんかどうかなのかは教えてもらえないんだ。
僕としては、アナさんの片想いが報われてほしいけど……それが叶うかどうかはわからないもの。
「っはー、ひっさびさに緊張した……」
フィーさんの真剣な表情とかが滅多にないからか、サイノスさんは緊張してたみたい。疲れたように大きく息を吐いた。
「ふゅぅ!」
「お?」
クラウがようやく動いたかと思えば、サイノスさんの胸にダイブしていった。サイノスさんはすぐに受け止めると、少し苦笑いしながらクラウの頭を撫でてくれた。
「心配かけちまったか?」
「ふーゅふゅぅ」
クラウは本当にサイノスさんが大好きみたい。
最初に会った頃、彼が行ってしまった後に寂しがってたのはサイノスさんに抱っこして欲しかったようで。
サイノスさん自身も聖獣とかに好かれやすい体質なようで、神獣のクラウも邪険にはしない。
今もあやすようにヨシヨシと撫でてくれている。
「けど、幼馴染みとしちゃゼルもだがエディにも先越されちまったか」
「あ、あははは……」
僕の場合は、くっついたかと言うと微妙な位置でセヴィルさんには申し訳ないけれど。
告白されてまだ二、三日程度でもすぐ自覚出来るかと言うとそうもいかない。
恋って、やっぱり難しい。
「きーみも、確かめたいなら伝えたら?」
「お前さんそう簡単に言うがな……」
「さ、サイノスさん、想う人がいるんですか?」
アナさんのためを思うと聞くのは複雑だけど、聞きたい気持ちも少しある。
ドキドキしながら待っていると、サイノスさんは目尻を赤らめてから空いてる指でほっぺを掻いた。
「あー、本人には言うなよ?」
「あ、はい?」
と言うことは?
「───────…………アナ、だ」
もう御名手決定でしょう!って、僕は叫びたいのを我慢した。
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