178.ヴァスシードとの別れ(途中別視点有り)

 







 ◆◇◆








 とうとう、ヴァスシードの皆さんが帰国する日が来ました。

 だけど、僕はエディオスさんのお客様扱いでも公式の場に出る事は出来ないからと、朝ご飯が終わってからファルミアさんが借りてたゲストルームにてお別れの挨拶をすることに。


「短い間だったけど、楽しかったわ」

「僕もです」


 今日だけは少し我慢して、チュニックじゃなくコロネさんに手伝ってもらって淡いピンクのドレスだ。ついでにクラウも晩餐会の時のドレスを着せられている。

 対するファルミアさんは、移動重視だからお会いした時と似たような動きやすいチャイナドレスとズボンに淡いクリーム色のマントを羽織っていました。

 ユティリウスさんも男性用のチャイナ服に同じマントでした。四凶さん達はいつもと変わりません。


「外出許可が出れば一番にうちに来て欲しいなぁ?」

「それはそうだけど、しばらくは私達も執務で忙しいのよ?」

「そーだけどねぇ?」

「けど、メル友……文通相手にはなりましょう? 識札の練習にもなるし」

「メル友、ですか」


 蒼の世界じゃ、SNSが発達したから廃れかけてる文化ではあったけどこっちの世界じゃ普通だもの。


「いーんじゃない? カティアにまだ識札の練習させてないし」


 フィーさんも今一緒です。

 彼はいつも通りの真っ黒な装束でいるけど、フィーさんの正装はやっぱりこれだそうなので。

 彼も公式の場にいると騒ぎどころじゃ済まないらしいから、僕と一緒にお別れの挨拶に来たのだ。


「いーい、カティ? ゼルのこととかゼルのことは他の皆がいるでしょうけど、私やリースにも相談したい事が出来たらすぐに報せて?」

「あ、あははは……」


 そのセヴィルさんご本人は、この後に控えてる公式でのヴァスシードの皆さんの見送りの準備で忙しく動いてるそうだ。


「そうだね。御名手の今の形式については、この中だと俺達だけだから」


 たしかに、ユティリウスさんの言う通りだ。

 エディオスさんとセリカさんのことはまだ内緒だけども、実質御名手について実体験されたのはこのお二人しか知らない。

 なら、今のうちに聞いておこう。


「ユティリウスさん」

「ん?」

「男の人にとって、御名手ってすぐにわかっちゃうんですか?」


 セヴィルさんから具体的に聞けなかったけど、他の人のもちょっとだけ気になっていたから。


「そうだねー……俺の場合、ミーアや四凶達と出会って割とすぐだったなぁ? こう、感覚的にミーアだって言う具合に」

「ひらめくような?」

「そうそう、そんな感じだった。ゼルはどうだったか教えてくれなかったの?」

「え、えと……あんまり」

「その様子じゃ、代わりに良いコト言われた?」

「うっ」


 告白についてはまだ誰にも言っていない。

 ファルミアさんに言ってしまうとどんちゃん騒ぎなんかおっ始めそうだったから。


「あー、もっと女子会やガールズトークでもしたかったわ! 時間があればレクチャーしたかったのに」

「まあ、また識札でも話し合いなよ。カティのはまだわからないけど、君なら半日で届けれるでしょ?」

「そうね、仕方ないけど」


 今言及がなくて良かった。


「ふーゅゆ、ふゅぅ!」


 ここで頭に乗っていたクラウがぴょんとファルミアさんに抱きつきに行った。


「クラウともしばらくお別れね?」

「ふゅぅ、ふゅ」


 クラウはひとしきり撫でてもらってから、次にユティリウスさんや四凶さん達にも順に抱きつきに行った。皆さん嫌がらずにクラウを抱きしめてから頭を撫でてくれました。窮奇さんはちょっと寂しそうに見えました。

 四凶さん達の中だと、一番遊んでもらってたのが窮奇さんだからかも。クラウもちっちゃな手で窮奇さんの胸元をしっかり握ってたけど、時間も限られてるから割とすぐに離れて戻って来た。


「じゃあ、私達はこのまま城門に向かうわ」


 ここからの移動は徒歩じゃなくて、初日に窮奇さん達がやった転移魔法だそうだ。

 荷物はもう既に運び終えてるから、あとは身一つで大丈夫だそうな。

 挨拶も済んだから僕も頷き、フィーさんとクラウとちょっと扉寄りに距離を置いた。


「我行かん、【翔玻しょうは】」


 窮奇さんが代表して、手を何度かポーズするようにして組んだ後に呪文。

 その後すぐに部屋全体が真っ白な光に包まれる。


「またね、カティ!」

「ゼルとうまくやりなよー?」

「あ、はい! お気をつけて!」

「ふーゅふゅぅ!」

「またねー?」


 光の中で僕にかけられた声に、咄嗟にはいと返事しちゃった。

 光は僕が言った後に消えてしまい、皆さんの姿ももうなかった。


「しばらく賑やかからは遠ざかっちゃうね?」

「ですね……」


 一緒にお料理を出来る人がいないからもだけど、同じ世界出身の人がいなくなるのは少し不安だ。

 でも、これっきりの関係じゃないから、不安に思ったって仕方ない。


「お見送りは、少し時間がかかるんでしょうか?」

「うーん、まあ他の国の子達はもう帰ってるから半刻くらいじゃないかな?」

「セリカさんも、今日はお家の用事で来れませんしね」


 この後どうしていようか、少し悩む。

 セリカさんはご自分の教養についての再指導などで、今日から二、三日は来れないそうだ。


「じゃあ、今から識札の練習しようか?」

「今からですか?」

「うん。僕も今日はする事ないし。君の部屋に行こう?」

「わかりました」


 早速、魔法の練習が出来るのは有り難かった。






 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(サイノス視点)







 ヴァスシードの見送りは滞りなく終われた。

 来た時と違って特にユティが騒ぎ出す事もなく、平和的に終われたんだ一応。

 ただ、至近距離だと聞こえる台詞を奴が置いてきやがった。


『はーやく言いなよ?』


 あからさまにエディを煽るだけの一言。

 それに対してエディは一瞬だけ動きを止めたが、すかさずユティの頭に一発拳を振り下ろした。

 当然、奴が受けるはずがなくさっと避けてファル達と転移方陣へと向かっていったが。


(……古参のおっさんや爺さん達が近くにいなくて良かったぜ)


 バレたら速攻問い詰めて、無理にでも御名手かどうか調べてとんとん拍子に婚約まで漕ぎ着けるに違いない。

 今フィーが城に滞在してっから、奴に聞く手段はあるだろうがフィー自身がその話題を避けてるからかなかなか聞けないでいる。

 が、俺的にはそれが正解なんじゃと思っていた。


(セリカが、エディの御名手かも……か)


 年の差は特に申し分ない。

 容姿も器量もはとこの俺から見て素晴らしい貴婦人だと思える。

 唯一の欠点と言うか、行方不明から市井で過ごしたと言う事実だけが認められるかどうか。


(あと、エディはモテるからなぁ?)


 神王と言う肩書きもだが、女性への気配りは上手い方だ。

 昨日の、セリカやカティアが保有地の海へ行くのは気が重いだろうと言うのを見抜いたのもあいつだった。

 他にも、性格はサバサバしてて付き合いやすいし、顔もゼルと比べれば多少劣るものの、男前としては申し分ない。

 セリカ自身は行方不明になる前はエディによく懐いていたが、今はどうだかわからないのが難儀だ。


(変わらなければ、好いてるだろうな……?)


 それが、憶測の御名手としてか一個人としてか。

 たしかめるために、俺は執務を早く終わらせようとエディやゼル達の後を追った。

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