177.それぞれの恋愛事情(ユティリウス視点)

 







 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(ユティリウス視点)








 ミーア達がカティの部屋にお呼ばれ?している間、俺は執務に向かう予定だった皆を食堂に無理矢理残ってもらい、フィーには音漏れがしない結界を張ってもらった。


「なーにしてんのさ、エディ?」


 俺は少し怒っていた。

 何がって、さっきのエディの態度に。

 ゼルは自分のことを話されたと思ってるからわからなくないけど、エディの方はわけがわからない。

 まあ、理由はなんとなく察せたけど。


「どーせ、セリカが何話してるのか気になったんでしょ?」

「っ⁉︎」


 はい、やっぱり当たりだった。

 昨日のうちに自覚はしたようだから、こう言うのはわかりやすい。

 エディは言葉を詰まらせてから頬から耳、首筋にかけて俺かアナの髪色くらいに赤く染まっていく。


「ん? ゼル、お前さん知ってたのか?」

「……昨日知った」

「帰ってからか?」

「フィルザス神が様子を見に行けと言ったからな」


 ここでフィーに注目が集まると、彼はのんきにコフィーを飲みながら片目を瞑った。


「いやー、エディが籠ってるって言うからさ? 僕じゃどーにもならないと思って」

「と言うか、お前さんは知ってた・・・・だろ?」

「僕が答えてもいいだろうけど、エディは自分で気づかないとねー?」


 と言ってから、瞬間転移をしてその場から消え失せてしまった。

 つまり、この中じゃ俺だけが知ってる御名手みなての事実は言わないってことか。俺もまだ言うつもりはないけどさ?


「だからってなーにも睨む事はないでしょ? セリカもだけど、カティだって怖がらせたんだから」

「……悪かったって」


 ふいって視線を逸らしても顔とかはまだ赤い。


「………なんか、むしゃくしゃした」

「嫉妬だね」

「思いっきり嫉妬だな?」

「あれがか?」

「ゼルも初心者だからわかりにくいよね」


 カティに対しての庇護欲は人一倍で済まないけど。

 エディの場合は、あからさまな悋気りんきだからどうしようもないが。


「セリカにはあとでもう一度謝れよ? 180年も離れてたんだ、今のお前さんと接する機会を自分で減らそうとするな」

「……わーってる」


 あ、その態度まずいかも。

 俺が気配を察してエディから離れれば、すぐに傷の目立つ拳がエディの脳天に叩きつけられた。


「っで⁉︎」

「気持ちの整理がつかないのはしょーがないにしろ、制御出来ないもんはなんとかしろ! ま、俺も言えた側ではないがな」

「だったら、本気で殴んな……」

「本気じゃなきゃわかりにくいだろうが」


 とは言っても、出来るのはゼル以外じゃサイノスくらいだろう。幼馴染みの中でも一番近い位置にいるから。

 隣国の王の俺では、まだまだその位置に近づくことは出来ない。今のままでも十分ではあるし。


(サイノスが代わりにしてくれたから、俺の出る幕ないなぁ……)


 怒ってたのもほとんど萎えてしまったしね?

 ゼルもゼルで俺と同じようだからか、傍観側でいるのか何も言わないでいた。


「…………他人事で思い出したが、お前達。特にサイノスはこれまで幾度も誘えただろう? 何故しなかった?」

「うっ」


 あ、ゼル気になってたのそっちの方か……。


「「さ、誘えるかっ‼︎」」


 サイノスもだけど、エディまで慌てる状態。

 たしかに、エディは自覚したのは昨日だけどサイノスの場合は違う。

 下手したら、セリカが行方不明になる前かどうかってくらいだしね?


「ゼル、サイノスの方も知らなかったのかい?」

「公私混同にしないのが俺達だからな。と言うか、誰の場合も気づかないようにしていたのかもしれない」

「自分のこともあったから?」

「……そう、だな」


 カティとの事は、フィーとエディが連れて来なきゃ生涯叶うはずがなかったからね。

 俺としては、フィーかフィーが知らないところでなにかが動いていそうだと思ってるけど今は置いておこう。


「なーら、ゼルのこと言えないじゃない? エディはすぐには無理でもサイノスはなんで誘わなかったのさ?」


 ゼルと似たことを言えば、サイノスは目元を赤らめて俺から目線を逸らした。


「……一応、誘おうとはしたさ」

「……つーと?」


 エディも気になったのか平素に戻りかけてた。


「……気づかれなかったんだ、誘いって事に」

「「「は??」」」


 サイノスならゼルより女性の扱いはむしろ上手い方なのに?


「城の中じゃ、ほとんど仕事の関係かと思われたのか……ことごとく潰された」

「アナが原因かよ⁉︎」


 たしかに、アナって結構鈍いとこがあるかも。

 仕事に関しては統括補佐を任されるくらい若手でもやり手の人材だから真面目ではある。そこに、お茶の誘いをかけても彼女の場合打ち合わせかどうかと勘違いしそうだ。


「サイノス、どんまい!」

「唯一既婚者だからって、余裕ぶんな!」

「おーれだって、ミーアを射止めるには随分時間かけたんだよぉ?」

「……お前さんの場合は苦労で片付けられんからな」

「まーね?」


 ここにいる全員は俺とミーアの事情は彼女の前世込みで知ってるからね。後の方は、カティのことがなければずっと秘匿にしてるつもりではあったが。


「……具体的にお前の場合どうしたんだ?」


 聞いてきたのはエディだったが、他の二人も聞きたいのかこっちを見てきた。


「んー、そうだね……」


 俺の場合は、自分で言うのもなんだけど結構強引だった。

 ずっと忘れそうになってた四凶達を見れば、あんまりいい思い出じゃないから苦い顔をしてたよ。特に、窮奇。


「まあ簡単に言うと押して押して押しまくった!」

「「「わかりにくい」」」

「事実なんだけどなぁ?」


 実際四凶達にもだけど、ミーア本人にもうざがられたくらい。


『……仕方ないわね』


 折れた時の、砕けた口調になった時とか俺すっごく嬉しかったんだよね。

 ミーアの方が少し歳下だけど、気にしてないもん。


「積極的に誘いをかけた俺のが参考になるかはわからないけど、まずは頑張ってお茶でも誘ったら?」

「それで断られたんだが……」

「私室に誘うとかはやり過ぎだろうけど、中層でも個室のとこでいいんじゃない? カティに協力してもらってお茶菓子をサイノスが作るとか」

「俺が?」


 俺自身は明日帰ってしまうから教えることは出来ないけれど、ここには強い味方がいるしね。


「エディもゼルも出来そうだったらカティじゃバレるから、イシャールに……あ」


 イシャールと言えば、セリカの兄だったね。

 その事実を伝えればどう出てくるか俺も交流がそうないからわからない。

 エディを見れば、やっぱり頭を抱え込んでいた。

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