176.誕生日について?

 セリカさんにいただいたピッツァがはチーズがまだ伸びて温みもほんのり。

 今度は普通のタバスコやピッカンテをちょびっとずつかけながら食べたけど、大変美味しかった。


「わたくしも全部は難しいですわ」

「私もね。リースいる?」

「いるいるー」

「では、わたくしのもどうぞ」


 女性二人もやっぱり食べ切れないようなので、まだまだお腹に余裕のあるユティリウスさんに渡しました。

 他の人達が割り込んで来ないのは珍しいけど、エディオスさんやフィーさんはのんびりお茶を飲んでいました。


「けど、お前らの滞在期間もあっと言う間か。次は、最低半年後だな」

「その少し後にエディの生誕祭だねー?」

「エディオスさんのお誕生日?」


 この世界でも、誕生日に祝うって習慣なのかな?


蘭笙らんしょうの半ばね?」

「さあ、カティアちゃん。その月はいつ頃だったかしら?」


 セリカさんに質問を投げられたので、ぱっとは出て来ないけども頑張って思い出してみた。


「夏の、二番目の季節ですよね?」

「正解よ」

「ですと、蒼の世界じゃ七月ですか」

「海開きのシーズンよ。せっかく今年は女子が増えたのだから全員で海に行かない?」

「み、水着ですか?」


 この体型がまだ続くようなら、その時着れてもキッズサイズかもしれない。


「神王直轄の保有地ならいいだろうが、この面子全員でか?」

「護衛も兼ねてならいいんじゃないかしら?」


 ただ、そのお役目をサイノスさんと四凶さん達だけで大丈夫だろうか?


「俺としては、普通のとこ行きてーけど」

「「「『却下』」」」

「ちぇ」


 エディオスさんの我儘はほとんどの人によって一蹴されてしまいました。


変幻フォゼさせるにしたって、王族がほとんどだろーが!」

「つか、そこだって完全に人っ気がねぇわけでもないだろ? 普段は貴族どもに解放させてんだし」

「あー、あれか? セリカやカティアが緊張するからか」

「それもあんな」


 貴族御用達のプライベートビーチ。

 ホテルのとかも行ったことがない僕にはどこだって緊張しちゃいそう。

 だけど、サイノスさんの言葉を聞いたセリカさんは少し顔を曇らせた。

 まだ戻って来て数日程度だから、元のご友人さん達とお会いになられてないだろうしね。


「まあ、あくまでも提案よ。一年近くもあるのだから、追い追い決めていきましょう?」

「そだねー」


 ファルミアさんとフィーさんが話題を変えてくれたので、僕やセリカさんもちょっとほっと出来た。


「生誕祭って具体的に何があるんですか?」


 舌がだいぶ戻ってきたのでしゃべりやすくなってきた。


「大雑把には式典とそんな変わりないよー? ただ、違うのはエディにちょっと長い休みがあるくらいかなぁ?」

「お休みですか?」

「他の奴ん時もあるぜ? っつても、王太子時代とそう変わりねぇな。一週間くらいだ」

「ちょっとした夏休みですね?」

「「夏休み??」」

「夏季休暇のことよ、学園でもあったような」


 夏休みより、春休みや冬休みくらいの期間でも王様が一週間も休みを取れるのは贅沢かもしれない。


(……昨日、そう言えばセヴィルさんに誕生日がいつなのか聞いてないや)


 今聞くのはよしておこう。

 絶対ファルミアさんとかが突っかかってくるだろうから。


「先にゼルやサイノスとかだけど、二人には識札で贈り物を運ぶしかないかー」


 とか思ってたら、旦那さんのユティリウスさんが爆弾投下されてきた!


「くれるだけでもありがてぇが、部屋埋め尽くすようなのは勘弁してくれよ?」

「いいじゃない、目出度いことなんだから。ゼルにもツェフヴァル特産の辛い物詰め合わせとか贈るねー?」

「ああ」

「今年はカティもいるんだから控えめになさいな?」

「あ、そっか」


 一斉に注目が僕に集まってくると、僕は僕で恥ずかしくなって縮こまることしか出来ないでいた。


「……カティ、その様子じゃ昨日色々話し合ったと言っても誕生日についてはお互い話し合ってないようね?」

「お、おっしゃるとおりです……」


 ここで嘘をつくわけにはいかないので素直に白状した。


「んもぅ、ゼルも婚約者が出来たんだから教えておきなさい!」

「い、いや、特に言ってもどうかと」

雪消ゆききえの半ばなんだからそう遠くないじゃない。あ、そうだわ」


 ぱんっとファルミアさんが手を叩くと、何故か僕だけでなく他の女性二人も手招きして部屋の隅に移動しました。


「どうされましたの?」

「ふふ。ゼルの誕生日ではあるけれど、その時期には女性にとっていい日でもあるのよ。蒼の世界特有のね?」

「まあ、そうですの!」

「女性にとっていい日?」


 セヴィルさんの誕生月がこっちの二月らしいと言うのはわかったけど。

 って、あれ?


「もしかして、バレンタインですか?」

「そうよ、カティ。ちょうど誕生日も彼その日なの」

「「バレンタイン??」」

「詳しいことはまた後にしましょう? こっわーい人がこっちを睨んで来ているし?」

「「「え?」」」


 誰?と僕らは振り返ってみると、セヴィルさんもだけどもう一人僕らの様子を窺うように睨んできていた。


(な、なんで、エディオスさんまで?)


 珍しくセヴィルさんのように不機嫌そうでいる。

 そう、って思ったのは、セヴィルさんよりも明らかと言うか少し微妙で。

 でも何故僕らの方を見ているのかがよくわからないのもあったから。


「エディお兄様、いかがなさいまして?」

「…………別に」


 妹のアナさんが代表して聞いてもこんな具合だ。

 ますますよくわからない。


「お前さん睨むとゼル並みに怖いんだからやめとけ。セリカやカティアが実際怖がってんだしよ」

「っ!」


 ええ、はい。

 初日ほどではないんですが、実際怖かったです。

 セリカさんもぷるぷる震え上がっててアナさんの法衣にしがみついている状態でした。


「…………悪りぃ」


 そう謝罪されると、エディオスさんは不機嫌さを解いて苦笑いしてくれました。


「じゃあ、昼一以降にリュシアは時間が取れるかしら?」

「その刻限でしたら問題ありませんわ」

「セリカは?」

「と、特に問題はないです」

「カティも同じかしら?」

「そう、ですね」


 これと言ってすることは特にないから。

 場所は僕の部屋と言うことになり、話は一旦打ち切ってから食休みの時間を楽しむことになった。








 ◆◇◆








「バレンタインと言うのは、簡単に言うと好いてる相手に手作りのココルルを贈る日なのよ」

「まあ、素敵ですわ!」

「ココルルを、ですか?」


 お昼ご飯タイムを終えてから少し。

 予定通りに僕の部屋へ移動してちょっとした女子会を開きました。

 クラウはピッツァを食べ終えてからころんと寝転がってたので、今はベッドでお眠だ。


「と言っても、元の謂れなどは大分違うわ。そっちはこの際気にしなくていいけれど、私やカティがいた国ではココルルを女性が想い人に贈る習慣の方が根強いの」

「ココルルだけじゃなくて、雑貨だったり他のプレゼントもありましたよね」

「そうそう。で、そのひと月後に今度は贈った相手がお返しの意味を込めてココルル以外のお菓子だったり贈り物をしてくれるの。こっちは白い贈り物なんかの意味で『ホワイトデー』って言うのよ」


 マシュマロだったり、飴だったりクッキーなどなど。

 お返しのお菓子の意味なんかで変わってくるが、この場合も今回は無視していいだろう。

 それよりも、


「い、意中のお相手、ですの……」

「え、エディお兄様に、贈り物……」


 アナさんとセリカさんが渡すシーンを想像しちゃったのかお顔が真っ赤っかだ。


「アナさんにもいらっしゃったんですか?」

「結構身近な人よ? 今日もいたから」

「ファ、ファルミア様⁉︎」

「今日もいた?」


 四凶さん達は除外するとして、あと該当しそうな人と言えば……?


「サイノスさん?」

「正解よ、カティ」

「うぅううぅっ」


 当てずっぽうに言ったわけじゃないけど、本当にそうだったとはちょっと意外。

 サイノスさんとも食事の時以外ほとんどお会いしないから、アナさんとの接点は少ない。だから、余計にわかりにくかったのだ。


(けど、アナさん首まで真っ赤っか)


 いつからかは僕は知らないが、本当に好きみたい。

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