175.デス・ザ・アクアス

 

「ふゅ、ふゅゆぅ!」


 早く食べたい食べたいって感じに手足や翼をバタつかせながら、クラウが大きな声を上げた。

 最近?は、聞き分けがちょっとよくなったからすぐにはがっつかないけれど我慢は相変わらず出来ないみたい。


「おー、そうだな? 最初は普通に食うか?」

「そだねー? カティア、好きに切ったりして食べればいいの?」

「はい。ただ崩れやすいんで気をつけてください」


 と僕が言えば、大食らいメンバー達は本当に好きなようにナイフとフォークで切り分けていきました。

 見るも無残はお約束、僕とかファルミアさん以外料理人じゃないからね。


「ううーーん、美味しい! シカゴピザって敷居高いイメージあったから食べたことなかったのよね」


 そのファルミアさんは崩れながらも綺麗に召し上がられていた。他女性二人も同じく。皆さんお育ちがいいからね。


「焼く時間が結構かかりますから、お店じゃ料金高いですもんね」

「小さくてもコストが高いから頼みづらかったわ。これはどれくらい焼くの?」

「生地で作る時と同じですよ? 四半刻かかります」

「リース達が我慢出来るかしら」

『う』


 ユティリウスさんや四凶さん達は半分くらい食べ終えてましたが、ファルミアさんの言葉に肩が大きく跳ね上がった。お代わりご希望でも、作るのにはとっても時間がかかるから少しほっと出来た。


「ふゅ、ふゅぅ!」


 クラウにはミービスさんのお店で食べさせた時と同じようにした。今日はミートソースだから、汚れがいつも以上に心配になるので僕がひと口ずつ食べさせている。合間に僕も食べているけど、予想通り美味しい。

 しかも、自分で好きに作れるからチーズたっぷりだしボリューム満点。

 女性サイズ用の食パンでも一人じゃ食べ切れないから、残りはクラウにあげる予定でいます。


「せっかく作ってくれたんなら、それ使ってみるか?」


 男性のほとんどが半分食べ終えた頃に、エディオスさんが言い出した。


「もう一度説明しますが、薄い赤はオイルベースで他二つはお酢です」

「んーー、じゃ俺オイル」

「僕普通のお酢!」

「フィー、俺にも後で貸して」

「俺もそっちにすっか」


 瓶は二箇所に全種類置いてますが、セヴィルさん以外青いのには手をつけませんでした。

 やっぱり、相当辛い唐辛子だからかも。


「ほんの一滴にしておきなさい。ゼルも、かけ過ぎたら酸っぱ辛いからピッツァの味がわからなくてよ?」

「……そうしておく」


 ファルミアさんが言わなきゃ、もっとかけるつもりでいたのだろう。

 人それぞれだけど、セヴィルさんの場合予想しにくい。

 まだ僕だけが、セヴィルさんの辛さの好みとか限界を見ていないから。


「せっかくだから、僕にもいいですか?」

「あ、ああ」


 普通のタバスコやピッカンテもいいけど、異世界産の特殊なのも興味はあるもの。

 セヴィルさんが一滴かけてから受け取り、慎重に自分のに一滴かけてみた。一滴だけじゃ色が変わることはないけど、問題は味だね。


「ふーゅ、ふゅぅ!」

「え、クラウも欲しい?」

「ふゅぅ!」


 ちっちゃい神獣に辛いものって大丈夫だろうか?

 フィーさんを見ると、苦笑いしてました。


「味覚音痴ではないと思うけど、多分大丈夫だよ」

「じゃあ……」


 自分の時以上に慎重になり、かけ終えてから瓶の栓をしっかり閉めた。コルク栓みたいなのだけど。


「はい、あーん」

「ふぁー」


 かけたところをいっぺんには入れずに、ちょびっとだけにしてフォークでクラウのお口に入れてあげた。

 むぐむぐと口を動かしてる辺り、辛味を感じてないのかあんまり辛くなかったのか。どちらかわからないけど、ごっくんをしてからいつも通り喜んで手足や翼をばたつかせた。


「うっめ! ちぃっと辛いがちょうどいいな?」

「本当ですわ! お酢の方はさっぱりしてます!」


 赤い方はどちらも上手く出来てたみたい。

 セリカさんやサイノスさんももう一滴かけながら食べ進めていた。

 ユティリウスさんは詰まったのか咳き込んでたけど。


「辛いのがかえって食欲が湧くよ! アクアスは嫌だけど」


 何故?と思ったら、フィーさんはお行儀悪くフォークでセヴィルさんを指した。

 なのでそっちを見れば……さっき注意されてたのに何滴も青いタバスコをかけていたセヴィルさんがいました。


「だ、大丈夫なんですか⁉︎」

「一滴じゃよくわからなくてな。この方が美味い」

「え、えぇ?」


 それがわからなかったので、自分のをひと口食べてみることにした。


「か、辛いぃい⁉︎」


 本当にひと口だけなのに、これまで食べて来た辛い物の中でも別格な辛さだった!

 舌に乗せただけで辛味が伝わり、ガツンと脳にまで辛味以外の刺激が突き抜けていく。

 それだけの辛さに耐えきれるわけがなく、見兼ねたフィーさんが用意してくれた氷水を勢いよく飲み干した。


「い、いちゃぃ……」

「ふゅふゅぅ⁉︎」


 同じようなモノを食べたはずなのに、クラウはセヴィルさんのようにへっちゃらってなんでだろう。

 僕は、一杯飲んだだけでも耐え切れないので、フィーさんにお願いして用意してもらった牛乳も飲んだがやっぱり舌が痛い。


「だ、大丈夫……では、ないな」


 セヴィルさんは僕の状態におろおろするばかり。


「ゼルだから平気なのに、無理に合わせるからよ。残りはもうゼルかクラウに食べてもらいなさいな?」

「じょうじまず……」

「ふーゅぅ?」


 まだお腹はいっぱいじゃないけれど、これ以上舌を壊したくないので素直に頷いた。

 と言うことで、残りはクラウにちまちま食べさせてあげました。


「カティアちゃん、私の少し残しそうだから食べる?」


 セリカさんが三分の一くらいのピッツァをお皿ごと持ってきました。


「い、いいんでふか?」

「ええ。私はもう大丈夫だから」


 にっこり可愛い笑顔で言われては断りにくい。

 せっかくだからご厚意に甘えることにして、僕はそれを受け取った。


「ありがちょぅごじゃいましゅ」

「いいのよ。作り方を見てたけれど、タバスコって面白い調味料ね」

「味が濃いものには色々使えたりするわね。麺だとロシッタソースの方が合うけれど」

「だから今日はロシッタになったのか?」


 サイノスさんに聞かれると、僕は返事がまだしにくいので首を縦に振った。







*・*・*






企画部屋では、クラウを辛い物が苦手としましたがアクアスは別物とさせますノ

その理由等を明らかにするのはまた別の機会にノ

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