062.クリームチーズ解禁-②

 これをどうするかと言うと、溶かしバターと併せてから型にクッキングシート的な紙を敷いたものの底に敷き詰めて、ギュギュッと押し込む。それが終われば氷室に冷蔵保存しておきます。

 この作業は僕が任されて、その間にファルミアさんはパルルの湯煎掛けをしています。


「よし、溶けたわね」


 この次は出来たクリームチーズをホイッパーで滑らかにするんだけども、これは既にライガーさんに頼んであったので出来ています。


「このような具合でよろしいでしょうか?」

「ええ、大丈夫よ」


 これに卵と卵黄一個ずつをときほぐしたもの、砂糖、生クリームを順に加えるけど、その都度ホイッパーでよく混ぜておく。

 そうしていけば、綺麗な卵色のクリームが出来上がった。


「これに次はカティが水切りしてくれたパルフェ、オルジェのクァント、パルルを溶かしたのと粉をふるったのを順に入れてその都度混ぜればいいの」


 クァントはどうやらリキュールのことらしい。

 僕は成人してるけど、今は8歳児サイズの身体だからお酒は飲めません!

 と言うのも、一応は子供の振りしてなきゃいけないのと万が一アルコール中毒になっちゃ大変だからと、身体が元に戻るまでは禁酒とセヴィルさんに言い渡されてるからです……。

 どうでもいいことは置いといて、出来上がったクリームをし器でこすことになった。

 こうすると小ちゃなダマがなくなって滑らかな口当たりになるからだって。


「あ、いけない。お湯沸かすの忘れてたわ」

「お湯?」

「これを湯煎焼きするのに使うのよ」

「ほへー」


 なんだかクレームブリュレみたいな感じだな?


「カティ、私が準備しておくから型を持ってきてこの液を入れておいてくれる?」

「わかりましたー」


 ささっと氷室から型を持ってきて、濾した液をターナーを使って全部入れてます。

 竃の方ではファルミアさんが沸いたお湯を天板のようなバットに入れられてた。


「じゃあ、焼くわよ」


 その上に僕が型を乗せて、竃のオーブンに入れて焼くことに。

 ただここで、


「いつもなら半刻焼かなきゃいけないんだけど、今日はそうしてられないから時間操作するわ」

「半刻って、たしか一時間くらいでしたっけ?」

「本当はあんまりしたくないんだけど、うちの旦那が待ちきれないでしょうから。ただ、蒸し焼きの時はそのままにしておくけど」


 どうやるかと言うと、竃オーブンの外側から魔力を送って火とケーキの焼ける時間を早めるそうです。

 けど、やり過ぎたらお湯の方が蒸発しちゃうそうなので、僕は術を施してる最中はお声をかけません。

 昼間の時フィーさんは簡単にしてたけど、あの人神様だから規格外も当然。

 ファルミアさんは5分くらいかけて時間操作に集中されていた。


「はぁ……これでとりあえずいいわ。火は消して予熱で蒸し焼きにすれば、後は冷却で冷やせばいいし」

「じゃあ、僕洗い物してきます」


 蒸し焼きには砂時計を使われて、約20分程かかるようだからと僕はシンクに向かった。

 洗い物はそんなに多くないからすぐに終わるけど、ファルミアさんは魔法で創った簡易椅子に腰掛けられています。どうも、時間操作の魔法で少し疲れちゃったようなので。


「悪いわね、カティ」

「大したことないですよ?」


 僕も疲れてないわけじゃないけど、急ピッチでヴァスシードから移動されてきたファルミアさんの方がきっと疲れているもの。

 それなのに、わざわざデザートを作られるってことになって時間操作の魔法を使ったら、気疲れは半端ないと思う。

 洗い物をして布巾で水気を取って、コックさんに場所を聞きながら片付けていけば20分なんてあっという間。

 ファルミアさんも砂時計の様子を見ながらお水を飲んだりして休まれてから、ミトン片手に竃オーブンへと向かう。


「久々だけど、どうかしら?」


 カチャンと蓋が開けば、もわっと湯気がオーブンの中から湧き出て来た。

 熱くないかなって心配になったけど、ファルミアさんは全然大丈夫なようで天板ごとケーキを取り出せばうんうんと頷いた。


「上々ね」

「おぉ、ち……カッツケーキですね!」


 危うくチーズケーキって言いそうになったのを言い直したよ。

 だって型の中には綺麗な焼き目がついたチーズケーキがあったもの。

 それを別のバットに入れて、ここからは冷却で粗熱を取って冷え冷えにして、型を取れば出来上がり。


「これで完成よ」

「わぁ! フォークよりもスプーンが良さそうですね?」

「そうね。どっちかと言えば固めのプリンに近いし」

「あ……ファルミアさんプリンって作られます?」


 こそっと聞けば、ファルミアさんはこくりと頷いてくれた。


「ああ、こっちじゃカスタードって珍しいものね」

「なかったんですか?」

「私は前世からよく作ってたから、こっちでも作ってるけどね」

「プリンを?」

「いいえ……シュークリームよ」


 なんか間が空いたけど、後に出てきた魅惑的なデザートの単語に僕はゴクリと唾を飲み込んだ。


「シュークリームっ!」


 手作りお菓子の中でも難易度がトップ5に入るんじゃないかってくらいの洋菓子。

 僕は残念ながら作ったことはないけど、あれは大好き!


「カティもやっぱり好き?」

「本音を言うとエクレアの方が好きなんですが……」


 プラスしてチョコカスタードが中身なら言うことなし!

 一般的なホイップとカスタードのダブルクリームも好きなんだよね。ああ、思い出したらヨダレ出ちゃいそう。


「じゃあ、ここに滞在させてもらう間に一度は作ろうかしら?」

「いいんですか?」

「ここしばらくは忙しくて作れてないしね。シュークリームもいいけど、エクレアなら私も食べたいし」


 前世もだけど、電化製品や既成品が全くないこちらの世界でよく一から作れるのが凄いと思う。

 特に火加減を魔法で調整出来たって細かい温度管理なんて難しいですまない。温度計なんて皆無なのにご自分の勘だけを頼りになんとかさせちゃっているもの。

 僕なんかが作るピッツァも火加減は大事だけど、あれは焼き加減見たりすればあとは慣れだからそこまでは難しくもない。

 専門学校時代の教授やレストランのオーナーシェフに言ったら絶対に怒られるけど、いないからスルーですよスルー。


「まあ、それはまた明日とかに予定は考えるとして。出来上がったことだし戻りましょうか?」

「はい」


 何はともあれ出来立てチーズケーキが食べられるのが先決!

 お皿やサーブは給仕のお兄さんお姉さんにお任せして、僕とファルミアさんは食堂に戻ることにしました。

 食堂に戻ると、なんだかもんわりと心成しか暑い空気が漂っていた。


「あら、ちょうど盛り上がっているところかしら?」

「何がですか?」

「あそこを見てごらんなさいな」


 ファルミアさんが指した先には、上座でエディオスさんとユティリウスさんが難しい顔をしながら何かを見て?いるようなのが見えた。

 他の人達も見てみると、アナさんはフィーさんと。

 セヴィルさんはしきょうさんのうちの薄紫の髪の人と……あの人はこんとん?さんだっけかな? こちらもテーブルの上に何かを置いてあるようでそれを見ているようだ。他のしきょうさんはこんとんさんの後ろから覗き込んでる感じ。

 クラウは見当たらないと思ったらアナさんの膝上でまだ寝ちゃってるのが見えたよ。


「⁇」

「まだカティは来て間もないものね。あれはチャイルって言って、一種のシンケイスイジャクのようなゲームをしているのよ」

「それにしては範囲が狭いような?」


 シンケイスイジャクってもっと机にカードを広げてやるゲームのはず?


「使ってるのはカードじゃなくて、木製の四角いチップに模様だったり絵が描いてあるものなの。それを多種多様な図に盤上に積み上げて、ペアになるものを抜いて崩せばいいのよ。勝敗は単純に速さを競うの」

「……あれ、なんか似たようなの僕したことが」

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