061.クリームチーズ解禁-①
「マリウス達には聞かせたくないの?」
「いえ、マリウスさんとライガーさんはいいんですが他のコックさん達にはちょっと」
「一体どんな材料なの?」
「あの、その前に一個聞いていいですか?」
「いいわよ?」
「自己紹介の後におっしゃってた転生者や日本人って言うのは?」
それ確認してからじゃないとさすがに話しにくい。
すると、ファルミアさんはぽんと手を叩いた。
「ああ、そこは中途半端にしてたわね」
「どう言うことなんですか?」
「言った通りの意味でいいわよ? 私はこの世界に転生する以前はただの日本人だったのよ」
「えぇっ?」
やっぱり聞き間違えじゃなかった。
「しかも前世の記憶持ちで生まれた後は大変だったわ。家の事情もだけど、まるっきり世界観が違うこの世界に馴染むのにもそれなりに時間がかかったから」
「前の世界って、蒼の世界ですよね?」
「ええ。フィーにはまだ言ったことはないけど薄々気づかれてると思うわ。蒼の世界のことは彼がよく話してくれてるから、ああ自分はそこから来たのねって程度しか認識してないけれど」
嘘ではないようだ。
つっかえることも言葉がよどむこともなくスラスラと言っている。
「で、カティは転生者じゃないの?」
「まだこっちに来て数日ですが……」
時間もないので、簡単にこのお城に来るまでの経緯を話してみた。
「……それで転生じゃなくて異世界トリップにしては身体がそんな子供ってのは変ね? おまけに髪と目もまるっきり変わってるし」
「まだそこは僕もフィーさんから詳しくは聞けてないんですよね」
とは言え、今追求しててはデザート作りの時間がなくなるので本題に移ろう。
同じ日本人同士ってことならば、気兼ねなく聞けるもの。
「僕が好きなのはクリームチーズを使ったケーキなんです」
アルグタ(キウイ)のおやつ作った時にサンドイッチで試作はしたけど、中層や下層にも広めるのは憚られると吟味された食材。
レアチーズケーキとかニューヨークチーズケーキとか大好きなんだよね。
「クリームチーズ? うちのヴァスシードだと普通の食材よ?」
「え?」
なんですと?
「呼び名はカッツクリームにしてあるわね」
「えぇっ⁉︎」
「あれって保存の魔法を使っても輸出しにくいから、そんなに貿易では出回ってないのよ。こちらでは、未だ作られていなかったようね」
……秘密にしようとしてた時の焦燥感返して。
「パルフェ……ヨーグルト作る際にほっといたら出来ちゃったって言うのが最初なのよね。ヴァスシードだけじゃなくてあそこ近郊の国々じゃ割とオーソドックスな食材よ。需要も最低400年はあるし」
「そんなに需要があるのに、このお城とかじゃ知られていなかったんですか?」
「多分、おつまみで食べれる方の柔らかいチーズが好まれてたからかもね。推測でしかないけど」
なんでだろうと二人で首を傾いだけど、ならば僕らが広めちゃえ!と決まりました。
「チーズケーキねぇ……しばらく振りに作ってないけど、そうね。あのケーキならカティも初めてだろうから作っちゃおうかしら?」
「僕も初めて?」
「クリームチーズにホワイトチョコを混ぜたものなのよ。こっちだとホワイトチョコはパルルって呼んでるんだけど」
「ふぉお」
なんだか美味しそうなケーキだ!
でも、チーズケーキなら甘さ控えめだしセヴィルさんもきっと気に入ってくれると思う。
婚約者優先にしたわけじゃないよ?
僕が好きなケーキはチーズ系とチョコ系なのは本当だよ?
「でも、グラハムクラッカーを焼いてる時間はないからそこはクッキーで代用ね」
「レアチーズケーキですか?」
「いいえ、焼くから見た目は普通のチーズケーキに近いわね」
と言う訳で、まずは材料調達から始めることになりました。
砂糖とクッキーにパルル(ホワイトチョコ)に
ファルミアさんはパルフェ(ヨーグルト)から僕が作ったようにクリームチーズ作りから準備に入られた。
マリウスさんやライガーさんには僕に教えてくれたようにクリームチーズの需要のことはお伝えしてくれました。
「ならば、我が国で作るのも問題なくなりましたね」
と言うことで、ファルミアさんのクリームチーズ作りを見学されています。
作り方は超簡単。
パルフェを限界値まで水切りするだけ。
普通じゃ数時間から一晩はかかる方法だけど、ここは魔法が行き交う世界。使えるものは使うべきなのです。
だから、キッチンペーパーみたいな紙を笊の上に敷いてパルフェをたっぷり入れるんだけど、水切りは魔術で中の水分を引き出せば良い。
その水切りした時に出てくる液体のホエーは料理やパン作りに使えるので瓶に入れて保存。
「うちやツェフヴァルとかではまた違う作り方だけど、基本はこんなとこよ」
「何故我が国では作られなかったのでしょうか……」
「城下町なんかではひょっとしたら出回ってるのかもよ?」
「時間がある時に練り歩くのも有りですね、料理長」
「私は難しいからお前や中層のイシャール達と行ってきくれ」
「わかりました」
そう言えば、食堂はここだけじゃなくて中層や下層にもあったんだった。
行く必要がないから限られた場所しか行ってないけど、絶対迷子になるから止めておいている。だって、戻って来れる自信ないもの。館内図的な案内表示なんておそらくないだろうから。
初日のエディオスさんの案内がなきゃこの区画にも来れなかったしね。
「こっちのパルフェはさっきよりは軽めに水切りすればいいんだったよね」
僕もヨーグルトを軽く水切りさせています。
こっちは完全に水切りせずに適度に水分が残ればいい程度で大丈夫だそうだ。
ただ、普通にしてたら一時間はかかるので魔法で時間短縮。100g程あったのが、半分近くまで減る具合でいいそうな。
「カティ。それが終わったらバターを溶かしてもらえるかしら?」
「はーい」
電子レンジなんてこの世界にはないからお鍋で溶かすしかない。
僕がそうしている間にファルミアさんはパルルを包丁で細かく砕いています。
しかも、とっても早い。
「……こんなところね」
「え、もう終わったんですか?」
溶かしバター作るのに5分もかかってないけど、その間にもう終わっちゃったの⁉︎
「クッキーを砕いて土台する方が時間かかるもの」
と言うと、パッと魔術で布袋と麺棒を取り出された。
この世界じゃビニールって素材もないから、それが妥当だろう。持ってきたクッキーを袋に入れ、ファルミアさんは袋の上から粉々に砕き出した。
ダンダン!
パキッ、バキッ!
……なんか音だけは普通なんだけど、ファルミアさんのお顔が険しくなっているのは気のせい?
いかにもストレス発散!な感じでクッキーを砕いています。
ちなみにクッキーは普通のプレーンクッキーを使ってるよ。
ある程度砕いてから袋を覗き込んで、荒いところがあれば集めてまた袋の上から砕くを何回か繰り返したとこでこれも準備完了。
魔法で
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