022.着せ替えごっこ

 あり得ない。

 なんでこの見た目にこうもマッチするんだ。

 僕は着せ替えられてしばらく、鏡の前で項垂れていた。


(この金髪の性もあるだろうけど、どうしてドレスがこんなにも似合うんだ!)


 七五三さんの頃は全部お着物だったから、今風にお洒落着は着せられなかった。

 成人式の時は二次会くらいはドレスにしたけども、それもあんまり華美でないごく普通のレンタルドレスだった。

 何が言いたいって、こんなフリルやレースふんだんのドレスなんか着たことがないんですよ!

 だけども、アナさんさっきから黙ってるよね?

 くるっと振り返ると、僕はカチンと固まってしまった。

 だって、いつに間にか後ろの扉が開いていて、向こう側にギャラリーが出来ていたのだから。


「え、ちょっ……なんで全員いるんですか⁉︎」


 フィーさんとエディオスさんはしげしげ見つめてくるし、セヴィルさんはぽかんと口を開けていらっしゃる。


「おいアナ。よく良いのが見つかったなぁ?」

「一度しか着なかった物がちょうどありまして。わたくしの紅では空色はあまり似合いませんもの」

「まあそうだな。って、ゼル。お前何固まってんだよ?」

「っ、あ、あぁ……」

「カティア可愛ーい!」


 賛辞もらえるのはいいけども、僕固まってて動けません。しかも、振り返ったままと言うあまり良い体勢ではございません。


「あらあらカティアさん。みなに見つめられてしまって緊張なさいましたの?」


 ええそうですよ。だからこっち来て立たせてもらえませんか?

 じーっとアナさんを見つめてやると、気づいたのかこちらに来て立たせてもらえました。


「なんで皆さんいるんですか?」

「面白そうだったからー」

「一応はお前の救出に来たんだぜ? なあゼル?」

「あ、ああ……」


 フィーさんの言うことはわかった。この神様は面白いことがあれば何が何でも面白い方向に持って行きたがる。今日の半日程度でそう言うのはなんとなしにわかったのです。

 かく言うエディオスさん達は僕救出に来てくれたようだけど、セヴィルさんが何故か歯切れが悪い。


「っかし、服一つでここまでなるとはなぁ? こう言うの着せたんなら宝石一つくらいつけてもおかしくなくね?」

「でしたら、白の洸石イルマなどいかがです? お目のお色がこのようですからシンプルなのが良いと思いますわ」

「だなぁ?」


 あれ? エディオスさん僕を救出してくださるんじゃないんですか?

 根本的にこの人もフィーさんとそっくりだってこと忘れてたね!


「……っ、おい。カティアを部屋に戻す為に来たのだろう。お前まで乗じてどうする」


 あ、セヴィルさん復活?

 エディオスさんに軽く小突いて諌めてくださいました。


「へいへい、そうだったな。つーわけでアナ。もう終いだ」

「まだ1着目ですのに……」

「明日もあるだろ? 今後の予定も組んでねぇんだ。フィーもカティアもしばらくはうちに居ていいしな」

「それならさー? 明日のお昼ご飯はカティアのピッツァ食べようよ」


 今思いついたようにフィーさんが手を上げた。


「お、いいなぁ。カティア頼めるか?」

「えっと……厨房をお借り出来るなら」

「許可は明日の朝に俺があそこの料理長に出すから、あいつらと作ってくれよ。新人は喜ぶぜ?」

「そ、そうでしょうか?」


 あの絶品料理をお出しする宮廷料理人と僕が渡り合えるなんて思えないけども、エディオスさんがこう言うのなら気さくな人達なのかな。


「ピッツァ?」

「なんですの、それは?」


 この二人にはまだ説明すらしてなかったね。

 けど、その前に着替えたいので脱衣所に駆け込んで着替えに行くのであります。

 脱ぐのは大変だったけども、なんとかばっさり脱いで寝間着に着替えます。

 コルセットとかなくて良かったぁ。と言うか、この幼児体型にそんな頑丈な下着はいらない。あったとしても、苦しすぎておうふになるよ。

 着替え終わったらドレスを持って部屋に戻ります。

 が、なんかあれぇ?な光景が目の前に。


「これとこれも良くありませんかお兄様?」

「紅と白金プラチナかぁ。そのサイズ変えたら似合いそうだな?」

「こっちの緑のもいいんじゃない?」

「あら、忘れていましたわね。是非とも着ていただかなくては」


 あのー、着せ替えごっこは終わりじゃなかったんですか? セヴィルさんは参加していないけども何故にまだ選んでいらっしゃるのでしょうか?


「ゼルお兄様、これなんかいかがです?」

「……は?」


 とか思ってたら、アナさんがセヴィルさんに聞きに行ってるし。僕の着替えを待ってたのか、セヴィルさんは少しだけ反応が遅れた。


「ですから、この紅はカティアさんに似合いません?」

「……これをか?」


 あんまり賛成ではないご様子。

 たしかに、僕もあんまり紅は好きくない。

 濃い目ではないけども、ちょびっとくどそうなお色だ。どちらかと言えば、元からの持主のアナさんの方が断然似合うと思うよ。

 すると、セヴィルさんは少し考え込んでからフィーさんの方に向かった。


「……俺としては、この若草だと思う」


 えっと、セヴィルさん僕を救出してくださるんじゃなかったんですか?


「まあ、でしたら是非ともお着替えを」

「だから、それはもう終いだとエディオスも言っただろう。カティアにも大分遅い時間だ」


 良かった。本来の目的は忘れていませんでしたね。

 ほっとすると、隣で笑い声が聞こえた。

 あれって思ってそちらに振り返ったら、セヴィルさんの目の前に居たはずのフィーさんがくすくす笑っていた。いつの間に瞬間移動して来たんだこの神様は。


「セヴィルもまんざらではないみたいだねぇ」

「え?」

「まあ、今晩は遅いしもう寝よっか? 明日も君には頑張ってもらわないとね」

「あ、はい」


 そうですね。ピッツァ作りが明日も出来るもの。気合いを入れて作らねば。ただし、場所が気兼ねなく出来る場所じゃないから緊張は高まりますけども。


「それと、先程のピッツァとはなんだ? 執務室でも聞いた気がするが?」


 アナさんに片付けを先導させたセヴィルさんがこっちの輪にやってこられた。


「んふふー。とっても美味しいものだけとは言えるけど後はなーいしょ。今教えたらつまんないじゃない」

「そ、そうか……」


 有無を言わせずな感じでフィーさんが質問を止めさせた。これには、セヴィルさんも口を挟めないでいた。

 とりあえず、今日はそれでお開きとなり、僕はゲストルームに皆さんで送ってもらいました。

 アナさんはまだ着せ替えごっこをやり足りない感じでいたけども、エディオスさんとセヴィルさんに釘を刺されてしまったので泣く泣く断念された。

 まあ、昼間ならいいですよ。まだね?

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