019.花風呂と語らい
「次にクローゼットですが……いつもはお隣の国の王妃様しかいらっしゃらないので、少し変えますわね」
なんかとんでもない単語が聞こえたけどスルーしましょう。
クローゼットを開けたアナさんは、ハンガーにかかってる、今の僕じゃ着れない服達を前に手をかざし出した。
「
なにか呪文を唱えたのか、フィーさんの時のような聴き取れない言葉じゃないのが耳に入ってきた。
するとどうでしょう? アナさんが手を右にさっとずらせばあれ不思議。ハンガーは同じだけども、服が僕くらいの子供サイズに変わっていました。
「わぁ……」
「サイズが大丈夫か、一着だけ試着してくださいます?」
「そうですね」
この後お風呂入った後の着替えもないし。
どれにしようかなと思って悩んだけど、今着てるのと似た上下セットがあるのを見てそれを掴んだ。
色はベージュ生地に焦げ茶糸の刺繍があるのです。
「これにしますね」
「あら、ちょうど良かったですわ。それは寝間着ですの」
ただ持っててもしょうがないので、一旦ベッドの方へ向かいます。
このベッド、無茶苦茶デカイです。テレビで昔見たキングとかクイーンサイズってこんなかしらってぐらいに。
着てた青い服にはボタンもないので一気に脱ぐ。下も同じくって、下着は着たままだけども。脱ぐまで気づかなかったが、キャミソール的なのを着てました。靴と靴下はって思ったけど、靴下はそのままに。
「素晴らしく手触りの良い生地ですわね……」
僕が着替えてる間に、アナさんは青い服を手に取っていた。
今着ようとしてる服も勿論手触りいいけども、今まで着てたのには少し劣る。
元々自分のじゃあないけども、やっぱり凄いんだね。
で、着る方の服はと言うと、少し大きめだったけど問題なく着れました。ズボンは紐で調節するタイプだったから、縛ってウェストも調整オッケー。
「大丈夫みたいです」
「そのようですわね。下着や小物などはクローゼットの下の棚にありますので、サイズも変えておきましたわ」
「ありがとうございます」
至れり尽くせり感謝です!
んでもって、次はアナさんのお部屋に。
と言うのも、お風呂は他に大浴場しかないそうで、この時間だと他の使用人さん達に出会う確率も高いからやめた方がいいと止められた。
それにゲストルームに来る人は、大抵アナさんの部屋のお風呂を使うんだってさ。
僕は下着類を入れた袋を手にして、そちらに向かう。
そしてアナさんのお部屋ですが……たしかにゲストルームよりもバカ広いです。
これで普通だとしたら、王様のエディオスさんとかのお部屋ってどんだけ広いのかと想像してみたけども、すぐに止めにした。早々入る事はないだろうし、考えてたら疲れるからだ。
「少しお待ちください」
と言って、アナさんがいきなり僕の前で法衣を脱ぎ出した。
えぇって思ったけど、下には普通のシャツを着込んでいましたよ。上に来てた法衣は、多分制服みたいなのかな?
脱いだそれを軽く畳んで、クローゼット脇にある椅子の上に置いてしまった。
「さあ、我が城自慢の花風呂にご招待致しますわ」
は、花風呂ですか⁉︎
それもテレビや雑誌でしか見た事がないけども。
普通に思い浮かべてしまうのは薔薇……だとしたら、寝る前にはフローラルな香りに包まれているのね。
お風呂は洗面所の脇にある扉から繋がってるそうで、ちょっとドキドキした。
扉を開けるとまずは脱衣所。いきなり湯船が見えたらどうしようかと思ったけども、大丈夫でしたね、はい。
「服はこの籠に入れてくださいな。タオルはこちらのを使ってください」
「ふかふか……」
口に出ちゃうくらいのふかふか度ですよ!
どうやって洗うんだろう。乾燥機かけてもこんなの無理だが、この世界は魔法が発展している……クリーニングばりの乾燥できる魔法とかあるのかも。
突っ立ってても仕方がないので、服を脱ぎます。それまで着ていたのは、ゲストルームのクローゼットにありますよ。別で洗うためだとか。
しかし、アナさんのお胸は物凄かった。
スーパー銭湯とか温泉とかで他の人の裸は当然見るけども、アナさんのお姿は一線を画してらっしゃる。
(ナイスバディ過ぎて逆に眩しいでふ!)
けども、極力見ないようにして僕は自分の下着を脱いでいきます。だって、人様のとは言え裸を見るのはやっぱり恥ずかしいもの。あとは、自分のぺちゃんこボディが虚しくなるからです。
「さ、行きましょう」
ボディタオル的な布を手に、いざお風呂へ。
曇りガラスの扉をアナさんが開けてくれると、外はもくもくと湯気立っていた。
(この感じ、まさか温泉⁉︎)
って、一緒に入るような流れで薄々感じてはいたけども。凄いな、このお城。
もくもく湯気に視界が覆われるけど、アナさんの案内で足元はなんとか大丈夫だった。
「着きましてよ。ここで身体を洗いますの」
覗いてみると、シャワーはやっぱりないけどバスチェアや洗面器はありました。すべて木製なのが素晴らしい。今の現代社会じゃ埋もれて珍しいもの。
それとびっくりしたのが、ボディソープやシャンプー類はガラスっぽい容器に入っておりました。こ、壊さないよね僕……。
「どうかなさいましたの?」
「あ、えと……その容器がガラスっぽいんで壊さないかなぁって」
「あら、大丈夫ですわよ。これは魔法で強化してある特別製ですの。ここの高さから落としてもヒビ以前に欠けたりもしませんわ」
なんと、ここでも魔法が。
フィーさんが魔法でピール(巨大ヘラ)創ってくれたのも見てたし、こっちの世界じゃやっぱり科学より魔法が発達してるんだろうな。
と言うか、ものに魔力が宿ってる時点で科学顔負けだよね。
とりあえず、アナさんに
しかし、素晴らしく泡立ちの良いシャンプーですよ。僕の髪が見えないくらいだね。洗面台の鏡が曇ってるから見えないけど、感覚からそう思ったのだ。
お湯とかはトイレにあったような蛇口から出てくるのに、シャワーはないのね。ちょっと残念だ。
だけど、それを覆す出来事が起こった。
ブワン。
アナさんの方から風が吹いてきたのでなんぞやと振り向くと、彼女の紅い髪がなびいていた。
これももしかして魔法?
「あら、どうなさいましたの?」
風に髪をあおられていながらも、アナさんがこちらに気づいてくれた。なんだか、その仕草が一枚の絵か映画のワンシーンに見えますよ
「?」
「あ、すみません。僕の世界だと魔法って全然ないから凄いなぁって」
「まあ、そうですの⁉︎ 一体どのように生活なさっていらっしゃいますの?」
「えーっと……科学って言う技術が発達してまして、こっちの魔法みたいな力でものを動かしたりするんですよ」
具体的な説明を求められると困るけども。
「でしたら髪を流すことが出来ませんわね。お手伝いしますわ」
「あ、ありがとうございますっ」
王女様にしてもらうのは申し訳ないと思うけども、ここはご好意に甘えておこう。でないと、洗面器で何回も流さないといけないから手間がかかるもの。
僕の髪もブワンって風にあおられて、お湯とシャンプーが流れていった。さらさら流れていく感覚がなんとも言えないですね。
髪が洗い終わってからボディタオルで身体を洗い、こっちは洗面器で普通に流します。
そしてタオルでまとめてから、いざ湯船へ。
「ほわぁ……」
湯気で見えにくいんだけど、その隙間からピンクや白に赤といった色が見えた。これがメインのお花かな?
「ふふ。驚かれまして?」
「あ、はい」
「でも、見ていては風邪をお召しになりますからつかりましょう?」
「そうですね」
つかってゆったり疲れを取りたかったよ。
ちゃぷんと湯に足を入れるとちょうど良い温度が感じ取れる。そのまま真ん中くらいまでざぶざぶ進んでいき、アナさんがつかり始めた辺りで僕もつかる。
ちょっと熱かったけど、段々と体に染み渡っていく。
「ふふ。ちょうどよろしくて?」
「はい」
ぽかぽかしてくるからちょっと寝ちゃいそうだけど我慢我慢。
「けれど、驚きましたわ。ゼルお兄様が
エディオスさんもだけど、アナさんも相当意外みたいに思われている。セヴィルさん、あんなにも美形だからモテそうなのに?
「セヴィルさん人気ありそうですけど……」
「ふふ。見た目はですけどね。あの『冷徹宰相』として名高いお兄様ですもの。女中達や淑女の憧れの的ではありますが、ご自身がまったく興味を持たれていませんでしたのよ」
「へぇ……」
もったいないと思うけれど、現在は『僕』の婚約者さんだ。
また考えちゃったけど、僕なんかでいいのかなぁ?
成長してたらまだいいけども、いかんせん見た目8歳児だ。釣り合う以前に、範疇外な気がするよ。
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