011.城とエディオス-②
◆◇◆
目の前にあるものに、僕は引きそうになったよ。
「おおう……」
執務室と言っていたはずだが、その扉はエディオスさんをふた回り追加したくらいに高く、材質なんかもとても良いもので出来ていた。
ますますエディオスさんの正体がわからなくなってきました。
「たーぶん、なんもねぇとは思うが……」
ぶつぶつ呟きながらも、エディオスさんはドアノブらしきとこに手をかけた。
すると、
バチィイィイイッ。
今静電気以上の音がしませんでしたか⁉︎
エディオスさんは痛そうではなかったけど、『マジかぁ……』と声を漏らしていた。
「あいつ、ここまでするってこたぁ……相当怒ってんな?」
「しかも、微弱とは言え雷撃の防御結界。君じゃあなかったら軽く全身焦げるよね?」
「えっ」
もし僕とかが触れてたら丸焦げ⁉︎
「僕の呼び出しはともかくとして、エディ、君何か忘れてないかい?」
「俺が?」
「あの子がここまで怒るってことは、それくらいしかないと思うんだけど」
そう言って、フィーさんは前に出て例のドアノブに手をかざした。
「この程度なら……」
ぱちんと指を鳴らす。
表面上は何が起こったかわかんないけど、多分さっきの結界?とやらを解いた感じだろうか?
「エディ」
「ん」
フィーさんはエディオスさんに開けるよう促すと、彼はためらいもなくノブに手をかける。
今度は爆ぜる音もなく、普通に触れていました。
重たそうな扉を少しだけ開けてから中を確認すると、
「中はさすがにあいつも仕掛けなかったみてぇだな? 入っていいぞ」
ギギィっと大きな音を立てて、扉も大きく開く。
「ふぉ……っ」
広い。
広過ぎます!
行ったことないけど、どっかの会議室のホールくらい広過ぎだと思う。
僕がぽけっとしている間に二人は入って行ったので慌てて続けば、エディオスさんはすぐに扉を閉めた。
「っし。とりあえず、ひと息つこうぜ?」
「そだね。そこのテーブルにお茶用意してもいい?」
「おう、頼むわ」
ひとまず小休憩と相成りました。
フィーさんが指した丸テーブルは来客用のらしく、4人掛けだった。
エディオスさんの了承を貰うと、フィーさんは人差し指を軽く回して紅茶セットを用意してくれました。
ただ、一点違うのはアイスティーだったってとこ。
僕のいたところとほとんど変わらないガラスコップに、氷と紅茶が。それにシロップのポット付きはお見事です。
「お、冷たいのにしてくれたのか?」
「僕も欲しかったし、長時間も竜の飛行じゃ喉乾くでしょ? 君もおいでよ」
「あ、はい」
まだ突っ立ってた僕に、フィーさんは手招きしてくる。
いけないいけない、僕も長時間の飛行で疲れてるのかも。先にテーブルの方についているお二人はもうアイスティーを口にしていた。
僕は一番手前が空いてたからそこにと思ったが、
「お、重いーーっ!」
絨毯っぽい布使ってるとこ以外は木で出来ているのはわかるんだけど、何故か異常に重く感じて引くことが出来ない。
「なーにしてんだよ?」
見かねたエディオスさんがひょいっと引いてくれた。
補填のお陰で力加減は大人くらいあるはずなのに、なんで出来なかったんだろ?
とりあえずはその椅子に座って、フィーさんからアイスティーを受け取った。味はダージリンのような風味の飲みやすい紅茶でした。
「っかし、あいつを怒らせた訳ねぇ? 公務は一応済ませてから出て来たし、問題ねぇとは思うんだがなぁ?」
首を捻らせながらも、エディオスさんは藍色に変えてた髪色を撫でることで元の緑色に戻した。
けれど、相変わらず『さいしょうさん』を怒らせた訳が思い当たらないようです。
でも、この部屋はともかく、エディオスさんの私室には罠たくっさん仕掛けてるらしいって聞いたし、結構短気な人かも。
ああ、またこわーいおじさん像を妄想してしまう。
「君のことだから、その公務に取り残しがあったんじゃないの?」
「あのなぁ。俺が未だへたっぴだと思ってんのか?」
「そーじゃなくて、書簡以外の方。前見た時、君そう言うの以外は書き置きしてても忘れてたじゃないか?」
「んん"っ!」
あ、なんか思い出したっぽい。
不機嫌そうなエディオスさんの顔が、さっきのお兄さんのように青ざめていく。
「あーあ、僕一応言ったけどね? ぜーんぶ終わってから来てって」
「……終わらせたと思ってたんだよ」
しかし、現実には忘れていたと。
「っかし、あれは無視しろって言ったやつだぜ? なのになんでまた?」
「そう言って結果重要ぽいんじゃないの? 君がよくても、周りはほっとかないからね」
僕は話に加わらない。と言うか、難しい話だから口挟めないよ。ただの料理人だもの。
あ、シロップちょこっとかけよう。
茶受けがないので、少し甘いものが欲しかったのだ。フィーさんに断りを入れてから、ポットをグラスに注ぐ。
ストローはないけど、入れてすぐに行き渡るようだったからそのまま飲む。甘くて美味しいです。
「しゃーねぇなぁ。
「あさに?」
刻限って言ってたから時間のことでしょうけど、何時を指すんだ?
たしかフィーさんも、時間を『君風に言うと』って言ってたから刻み方が違うのかもしれない。
「ああ。朝になって4時間経過した時刻って意味だよ」
「って言うと、10時くらい?」
「じゅうじ?」
フィーさんの説明とエディオスさんが首を傾げたから、やっぱり時間の測り方は全然違うようだ。となると、他の常識も色々違うことが多いのかも。
食材の名前だったり……名前?
「あ」
「「ん?」」
「僕の名前、どーやってわかるのか調べに来たんじゃ……」
「「あ」」
どうやらお二人まで忘れていたみたい。
フィーさん達を見ると、それぞれそろーっと目を泳がせていた。
「ま、まあ、あっちがエディ探してるし、さっきの子が伝え回ってるようだから、もうこっちにも来るんじゃない?」
「え?」
『子』って、あのお兄さんエディオスさんとそこまで変わんない感じだったのに?
あ、そうだった。フィーさんは見た目中学生でも神様だから人の上に立つ存在。いくらエディオスさんが345歳でもその年齢はもっと上のはずだ。
「そ、そーだな? ここで待ってりゃすぐにーー」
「エディオスはここかぁっ⁉︎」
「ぴっ⁉︎」
エディオスさんの言葉に被って、誰かが扉の方から大声で叫んできた。
扉もバンって開けてきたからびっくりしたよ!
なんだなんだと振り返れば、
「エディオス……今までどこに行っていたっ!」
物凄い怒気を露わにしたお兄さんのご登場だ。
一瞬唖然となっちゃったけど、気迫に押されかけて僕はフィーさんの方に避難しました。
だって、目が据わってるから!
長くてフィーさんよりも艶やかな黒髪をこれでもかと逆立たせていらっしゃるんです! エディオスさんの時以上にはっきり浮かび上がっているからオーラとかを纏っているように見えた。
「ありゃりゃ、久々にキレてるねぇ」
「呑気に言わないでくださいっ‼︎」
しかも、言い終わったらすぐにアイスティー飲みに入ると言う……本当にマイペースだよこの神様。
「よ、よぅ……ゼル」
エディオスさんは及び腰状態。顔は真っ青です。
彼もあのお兄さんの怒り具合には思わずたじろいでしまうようだ。
さっきまでの態度が180度以上違ってこっちもびっくり。
「私室に行くと思ったがこちらだったか……結界を解くのが苦手とするお前が何故入れた?」
「そ、それは、フィーが……」
「フィー……? フィルザス神が?」
フィーさんの名前を出したことで、ふっと、その言葉で部屋全体を包み込んでた威圧感が和らいだ気がした。
お兄さんの逆立ってた髪も凪いで、さらさらと背に流れていく。
(……どーやら、危機は脱したのかな?)
だけど、それは僕の勘違いで、お兄さんは据わってた瑠璃色の瞳をきっと鋭くさせてフィーさんの方に向かって睨みつけてきた。
「フィルザス神、エディオスを何故こちらに入れたのだ⁉︎」
「えー? だって、そっちの部屋がすごいことになってるって聞いたからこっち来ただけだけど?」
「なっ⁉︎……知らせてきた先程の者か」
フィーさんの反応にお兄さんは長いため息を吐いた。
あれだけの鋭い視線だったのに、フィーさんはけろっとしていらっしゃいます。が、僕はびくびくして彼の腕にしがみついているしかなかったよ。
ディシャスが最初怖いと思ったのとは違う『恐怖』に、僕は圧倒されていたのだ。
ところで、年齢は違ったけどあの人が『さいしょうさん』だと思う。物凄く探し回ったって感じで息切れ状態だもの。
「まさか、フィルザス神のところとは……」
「お、俺一応書き置き残しただろ⁉︎」
「このようなものでわかるか‼︎」
と、お兄さんは右手に握り締めた紙を両手でしっかり広げた。
距離があるので字は見えにくいが、何か書いてあるのはわかった。
そう言えば話すのには不自由はしてないけれど、書き物に関してはまだ確かめていないや。
「えーっと……? 『出かけてくる、あとは任せた』って、エディ、これはさすがに君が悪いよ?」
「うっ……」
エディオスさんがフィーさんの言葉にたじろいでいる。
多分だけど、フィーさんに急いで呼ばれたから慌てて短文で済ませたのだと思うね。やっぱり、ちゃんと報・連・相していかなかったんですね……。そりゃ心配かけるでしょう?
僕も加わり、全員で見つめてやるとエディオスさんが縮こまってしまう。
実際は首を項垂れただけだけど、かなり効果があった模様。
特に、ゼルってお兄さんのきっつーい視線は突き刺さるんじゃないかってくらいだもの。僕は見ませんよ? 怖過ぎてすくみ上がりそうだから絶対振り向きません‼︎
「……まあ、君もひと息ついたら? ずーっとエディ探してたよーだし、冷たいお茶でも飲みなよ?」
「………………そうさせてもらう」
お兄さんは睨んでもどうしようもないと悟ったのか、開けっ放しだった扉を閉めてからやってきた。
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