010.城とエディオス-①
しばらくエディオスさんは無言のまま走っていたけど、目的地のお城が近づいてきた時には速度を落としていく。完全に止まった時には、門で待機してたらしいフィーさんが横に立っていた。
「遅かったねー?」
「マジの全力出したらちみっこが気絶すんだろ?」
本当に加減してくださったようです。感謝感謝ですよ!
とりあえず、ここからは徒歩と言うことで降ろしてもらいましたが、
「誰もいないですね?」
お城の門前なのに人っ子一人いません。
こう言うとこには門兵とかがいるんじゃないんでしたっけ?
「ああ。ここは裏門だからな? 夜になれば、一応守りにつくことになってるぜ」
「昼間はいいんですか?」
「全くないわけじゃあねぇが、ちょうど交代と打ち合わせだろうよ」
「そこにいるのは誰だっ!」
「ぴっ!」
エディオスさんと話してたら、門の向こうから誰かがやってきた。今言ってた兵士さんかな?
そろーっとフィーさんの脇から覗いてみると、やっぱりそんな感じだった。
銀色の甲冑に赤いマント。
ちょっとばっかし、映画に出てくるような兵士さんと被った気がした。
そんな格好した兵士さんが4人ほどやってくるんだけど……なんか不穏な雰囲気が。
「こんな夕闇に混じって……って、へい、ぶぉ⁉︎」
手前の兵士さんがいきなりぶっ飛んでしまった!
しかも運悪いことに後ろで一列になってたから他の兵士さんも巻き添えに。あららぁ。
「夜半じゃねぇが、それで今呼ぶんじゃねぇよ」
あれ、エディオスさん不機嫌そう。
手にはいつの間にか剣を握っていらっしゃる……って、今の攻撃らしきものってエディオスさんが⁇
「も、申し訳ありません……」
「ったく、フィーとこいつが居たから手加減してしてやったが、もうちょい
「「「は、はい‼︎」」」
おお、なんか時代劇っぽい。
欧米のだけど、主人が部下の養育するって感じみたいに。
でも、エディオスさん何者?
これだけ背が高いし体格もすこぶるいいから……近衛の騎士さんとかかな? 素行は荒いけど、基本優しいし。
「悪りぃな。騒がしくって」
「いいえぇ」
怪しい者がいたら警戒するものは仕方ないですから。
兵士さん達は何故か
彼のが上司だって言うのはわかったけど、職務はいいのだろうか。
ともかく、エディオスさんは僕とフィーさんを伴い、中に入ることになった。それと、兵士の横を通った時にフィーさん笑ってたけど、なんで?
「目立つと
それと、とエディオスさんは剣を柄に戻すとその手で頭の上を軽く振った。
途端、髪色が特徴的な緑色から一変して藍色に変化しましたよ。
魔法って、エディオスさんも使えるんだ。
「って、ちみっこのも目立つよな? 変えるか、フィー?」
「いいんじゃない? 君の後ろに隠れる形だから正面からじゃ見えにくいし」
「それもそーだな?」
あれ、僕も色変えたほうがいいの?
普通に黒髪黒目でしょう?と思って髪を見たら……純金化しておりました。
「え、えぇっ⁉︎ ぼ、僕の髪っていつからこんなんにぃ⁉︎」
「あれ、ちみっこ元々その色じゃなかったのか?」
「姿見で見てなかったし、ピッツァ作りで夢中になっていたからねぇ?」
言ってくださいよ、フィーさん!
ただの日本人が病気でもないのにこんな髪色に変化したなんていったいいつから?
だが、思い当たる節はあった。
「フィーさん、これって水の副作用じゃ」
「ううん。最初っからその色だったよ?」
「え」
元からこのまま?
じゃあ、やっぱりこの身体は転生したものなのか。
「まあ、なんでもよくね?」
「いいじゃない? 可愛いし、女の子らしいじゃん」
「そ、そーゆー問題では」
職場先の関係で染めた事はないけど、実は密かに憧れてはいた。こんな形で叶うとは思わなかったんですが、やっぱり違和感ありまくり。早く鏡が見たい。
「にしても、あいつは多分執務室にはいねぇな?」
「おやどーして?」
「どっかの奴が俺をいきなり呼びやがったから、城内でうろうろしてんだろ」
「あららぁ?」
フィーさん、楽しんでますね。
そしてお二人とも、僕を挟んで会話しないでください。
「っと、そーなると下手に歩いてても意味ねぇなあ? ひとまず、俺の部屋に行くか」
「さんせーい」
「お部屋?」
「おう」
着いてこいと言われたので、置いてかれないように早歩きでついていく。
てっきり宿舎とかに案内されるかと思ってたが……この廊下の様子見てると違う気がしてきた。
最初は石畳のような床から布が敷いてあるのに続いて簡素な絨毯。それから段々と豪華な絨毯の度合いが増えていくんです!
(エディオスさん本当にどーゆー方ですか⁉︎)
さっきの兵士さんもすぐに跪く感じだったし……まさか、騎士さんじゃなくて将軍様とか? もしくは貴族様だからお城の上位の場に部屋があるかもしれない。
「あ、へいーーぶふっ⁉︎」
「へ?」
「お?」
いきなり前方から誰か来たと思ったら、その人が吹いたよ?
横から覗いてみるとエディオスさんが、グレーの服着た人の顔面に拳かましてました!
「ちょっ、何されてるんですか⁉︎」
グレーの服の人はそのまま後ろに倒れてしまい、床にどうんと横たわってしまった。
「……あのー、兵士さんの時と言い、エディオスさんこのお城で攻撃しまくっていいんですか?」
「不用意に役職口にされたくねぇんだよ」
おや、やっぱり高位の御人なのかな?
「あ、痛た……何故いきなりこんなことを」
あ、起きたみたい。
顔を見てみるとそんなに腫れてないから、一応は加減してたようだ。でも、痛いものは痛いよね。
「ちっ、もうちぃっとぶちかましとけばよかったぜ」
この人になんか恨みあるのだろうか?
あ、もしかして探してた人ーーではないね、うん。
そうだとしたら、こんな態度取るわけがない。
「物騒なことをおっしゃらないでください!」
殴られたお兄さんの顔が青ざめちゃった。
いやぁ、そりゃ嫌だよね。痛いものは誰だって嫌さ。
ただ、エディオスさんをもう一度見ると、ばって体を起こして跪いてしまった。
「何故
「そりゃわーってら。見かけたか?」
「あ、はい。先ほどは調理場辺りで……それよりも、いったいどちらに? 閣下は元より昼過ぎから皆で探しておりましたが」
「場所はあいつに聞いてなかったのか?」
エディオスさん、書き置きもせずにそのまま出てきたのかな?
ところで、さいしょうって聞いたことはあるけどどう言う役職なんだろ。フィーさんに振り返っても、しーって人差し指を口元に立てられたから教えてもらえないみたい。
「はい。閣下は……何かの書簡を握り締められていてあちこち行かれてましたが?」
「あ? おっかしぃな? フィーのとこに行くって残したはずだが……適当に書いたせいか?」
「はぁ……」
グレーの服着たお兄さんにここは同情しちゃうよ。
何事も報・連・相が大事なんだから、ちゃんとしたメモも残さずに勝手に飛び出せばそれは心配されて当然。
「それより早く行こうよー?」
「無視しちゃダメですよ!」
なに勝手なこと言うんですかこの神様!
「だって、あの子が血眼になって探してるんだったらさっさと探しに行かなきゃ」
「え?」
誰のことを言ってるんだろうか?
「まあ、とりあえず部屋行こうぜ?」
「お、お待ちくださいっ! 今お部屋に行かれては閣下が」
「あ? あいつがどーした?」
「このまま行かれては、罠が大量に仕掛けられているはずです。いかに貴方様でも、あの方の術式には」
「……俺、なんかしたか?」
出かけただけなのにと頬をかくエディオスさんだが、お兄さんの方はまた顔を青ざめちゃった。
一応は書き置き残したようなのに、まだエディオスさんを探している感じだ。だからって、部屋に罠を仕掛けるなんて物騒な。
なので、そのさいしょうさんがこわーいおじさんかなぁとか思わず想像しちゃったよ。
「しゃぁねぇ。執務室に行くか?」
「そちらは……いえ、おそらく仕掛けられてはないかと」
「だろうな。お前は俺が帰還したと伝えろ。あいつには……まあ、裏門から来たからバレてねぇとは思うが」
「はっ。……道中お気をつけて」
「ああ」
と言うわけで、お兄さんとはそこで別れることになりました。
けどすっごかったよ。懐から紙切れ出したら、ヒュンって消えちゃったもの。あれも魔法かなぁってわくわくしながら、僕らも先に進むことにした。
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