ほどくひと② ~彼女より~
群馬県は雪が多いと思われがちですが、南部はそうでもありません。
雪が降るのは、草津町や渋川市、みなかみ町など、北部や山間部です。
もしかしたら、南部より東京都の方が雪が降るかもしれません。テレビで気象情報を見ていますと、そんな気がします。
本日の群馬県南部は、快晴。空気はからりと乾いています。
寒いです。
白小袖に緋色の切袴という薄着で、髪をしばっているものですから、体中が寒いのです。
言い忘れました。
明けましておめでとうございます。
お正月も働きます。
三が日の私は、巫女さんなのです。
家族に散々迷惑をかけてきました。今更実家に戻ることなどできません。
だからといって、お正月休みに遊んでいるなど、もったいないです。
それなので、お正月のアルバイトを探して応募、採用して頂けました。
高崎市の神社で、巫女さんのアルバイトです。
上信電鉄の駅から近いので、大変助かります。交通費も支給されます。
貴重なお正月です。稼ぎます!
お正月にアルバイトをすることは数人にお話しましたが、巫女さんのアルバイトであることは誰にもお話していません。
それなのに、朝一番で兄と瑞樹くんが来ました。
他人のふりをしてほしいと願うも「あれ、みづき?」と兄に話しかけられます。
「アルバイトって、ここだったのか」
「……そうです。明けましておめでとうございます」
「みづきちゃん、交通安全のお守り、ふたつ下さい。あと、写真撮らせて」
「……社務所を通して下さい」
瑞樹くんからお金を受け取り、交通安全のお守りを2体お渡しします。おじいさまの分も買ったそうです。
兄曰く。この神社のお守りは、今回からデザインが変わったそうです。
それを目当てで初詣に来るお客様もいるかもしれない、と。
兄も瑞樹くんもお守り目当ての参拝だったそうで、私がいることは全く知らなかったと言っています。
兄は色違いの「御守」を1体ずつ買ってくれました。紅色のを彼女さんにお渡しするのだそうです。
ふたりは「無茶するなよ」と言って帰ってゆきました。
翌日、1月2日も、知った顔に会いました。
青柳さん、内海さん、布施くん……長谷川さんも一緒です。
授与所ではなく境内の案内係なので、昨日の兄達のように距離を置くことができません。
「はなちゃん、巫女さんの方が合っているんじゃない?」
青柳さんは、さらりと言ってくれます。
とんでもないです。所作が大変なのです。
そんなことより、布施くんにお礼を言わなくてはなりません。
秋頃の千羽鶴の件で、知らないうちに布施くんにお世話になっていたのです。
布施くんは「気にしなさんな」と言ってくれました。
内海さんは、春に大学院に進学するのだそうです。高校でも勉強が好きな人でした。まだまだ学びたいのでしょう。
長谷川さんは、定時制高校に通っているそうです。大学に進学したい、と話してくれました。
……それと、根岸さんのことも。
秋以降、根岸さんは自然と大人しくなったそうです。従妹の多胡さんも、SNSではすっかり勢いを落としているようでした。
ところで。元・クラスメイトが集まったのは、布施くんが受け取ったメッセージが発端なのだそうです。
「撮ったどー」というメッセージの後に、離れた場所から撮られた写真。
そこに写っていたのは、授与所で破魔矢を渡す私の姿だったのです。
送信主は「須藤瑞樹」。
いけません。私は腹を立てそうになりました。
我慢です。
二度あることは三度ある、と申します。
1月3日。会いたかったあの人も現れました。
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