国民番号

灰色平行線

国民番号

 昔、高度な文明を持った国があった。

 科学的に発展していたその国では、国民全員が生まれてすぐに、1人の例外なく脳に小さな機械を埋め込まれるのだ。

 その機械は「国民番号」と呼ばれ、国民1人1人に違う番号が与えられ、機械が全ての国民の行動を監視していた。

 国民の行動は「国民番号」を通じて、全てが国のメインコンピュータに送信される。この監視システムのおかげで、この国の犯罪数は他国と比べてかなり少なかった。

 さらにオンラインのサービスにおける複数のアカウント所持者やオンラインゲームでの迷惑行為を繰り返すプレイヤーを「国民番号」を通じてブロックすることも可能となり、インターネット上の平和もある程度保たれるようになった。

 犯罪数は減ったが、ゼロにはならなかった。

 金で解決を図る者、権力で罪を揉み消してしまう者。あらゆる方法を使って罪を逃れようとする者が一定数いたのだ。

 罪を隠すのではなく、なかったことにしようとする。ただ、目的が変わっただけだ。


 一見、便利そうな「国民番号」だが、問題点もあった。

 例えば、プライベートの侵害の問題だ。国民の行動を全て監視する「国民番号」は、国が全ての国民のプライベートを自由に覗き見ることができてしまうというモノだった。当然、「国民番号」の廃止を訴える声は何度も現れ、その度に「国民番号」は必要かという議論がなされてきた。

 当然、賛成意見、反対意見、共々多くあったが、中には

「どうせ反対してる奴らはストーカー目的の気持ち悪い奴らばっかり」

「SNSで何食ったとか挙句の果てに犯罪自慢までいちいち投稿してる奴がプライベートとかぬかすな」

 などと暴力的な意見もあり、話は平行線のまま終わらない。


 そんな「国民番号」によって発展したその国は、今はもう存在しない。国民が1人残らず死んでしまったからだ。

 原因は単純で、ハッキングだ。「国民番号」を管理するメインコンピュータが何者かの手によってハッキングされたのだ。

 メインコンピュータに常に情報を発信し続ける「国民番号」は、メインコンピュータと24時間365日休むことなく繋がり続けている。

 さて、もしも繋がった2つの内片方がウィルスに侵されたりした場合、もう片方はどうなるだろうか?

 答えはいくつかあるだろうが、今回の場合の答えは「もう片方もウィルスに侵される」だった。

 ハッキングによってウィルスに侵されたメインコンピュータはその情報を全ての「国民番号」に逆発信したのだ。ウィルスに侵された「国民番号」は脳の中で爆発を起こした。

 結果として、全ての国民が一斉に頭を破壊されて死んだのだ。


 人が消え、文化の跡だけが残ったその土地は、今ではもう他の国々の土地となっている。

 その国の過去を知る者はこう語る。

「成長することばかりに囚われて、自分を見つめることを忘れてしまった。だから簡単なハッキング1つで国が滅んだのだ」

 外部から常に見られていた人類は、内部から見ることをしなかった。「国民番号」は、人類には過ぎたシロモノだったのかもしれない。

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