総力戦
「ちょっと先輩、一体どういうつもりよ! 何か特別な理由でもあるの?」
香帆はコクピットに仁王立ちして湊をにらみつけた。
「いいや、あの時、君をアルバイトに雇った条件は確かトロイスまでという事だった。その後あらためて契約を更新した覚えはない」
「そんな意地悪を言わなくてもいいでしょ。ほら!」
そのまま両手を広げ、まるで細長い巨大な卵が二つ並んでいるようなシンプルなコクピットを示す。
「耐Gシートだってせっかく二つ用意してもらったんだし、いまさら私を置いていくなんて言わないで! 連れてってよ」
「だめだ。絶対に駄目だ!」
湊は右耳の後ろを無意識にもみほぐしながら断言する。
そこには、大脳運動野に直接働きかけ、状況に応じて神経反応速度を一時的に高める薬品を分泌するという新開発のマイクロマシンが埋め込まれている。
だが、どうもまだしっくり落ち着いていないらしい。
脊髄錐体路に打ち込まれた脳波探針用プラグのせいか、首筋から耳たぶにかけて若干の痛がゆさも残っている。
「どうして!」
香帆はわかりやすくむくれた。
腕組みをして湊を睨み付ける彼女の左耳たぶにも、同様のプラントが装着されている。キラキラとオレンジ色に輝く薬液カプセルは脱着式で、一見したところではちょっと前衛的なデザインのピアスにも見えた。
ただ、その効能は二人の職務分担の違いから多少異なる。
もちろんこれも試作品で、二人はいわば
「香帆も判ってるだろ。今回のミッションはあまりにも危険だ。丸腰の民間船に平気で小惑星をぶん投げてくるような列強相手に、ちっぽけなアローラムたった一隻で渡り合わなくちゃいけないんだぞ。しかもアローラムには何の自衛兵器も搭載していない。いくらスピードと機動力で多少勝るとはいえ、不意うちが不可能になった今、あまりに分が悪すぎる」
「そんな事は最初から覚悟の上だから!」
「いーや、全然判ってない! いいか、君みたいな将来有望な若い航法システムアーキテクチャがもしここで無駄につぶれでもしてみろ。近未来の日本船舶業界は泣くぞ。ホントに」
「ほめてくれてとっても嬉しいけど、それを言うなら先輩だって同じでしょ!」
「俺はもう二度と船を造るつもりはない。引退した。日本の未来には一切、何の影響もない」
「じゃあ、あの夜先輩がこっそり描いてたクルーザーの図面は何なのよ! 本当はけっこう未練があるんでしょ?」
湊は反射的に言い返そうとして、そのままぐっと黙り込んだ。
よし、これで勝った。香帆は確信した。
撤収準備をしながらニヤニヤ観戦している技術者連中のひやかしの視線に耐え、十数分に及ぶ死闘を繰り広げたかいがあったというものだ。このまま一気に押しきろうとさらに言葉を続ける。
「それに、先輩は大事な事を忘れてるよ。この船の制御はすべて新型の半自律ニューロAIだよ。ハードもソフトもぜーんぶ特別製。先輩に操作法なんてわかる? それに、何かあった時適切に対処できるのは私だけだよ」
そう言って胸を張る。
「…悪いが、通常航行のオペレーション程度ならもう全部飲み込んでるんだけどね」
湊はすまして答える。
「え! 全部?」
香帆の額にすーっと冷や汗が流れる。
「いろいろいじり回されたけど、これでも一応俺の船だぞ。パイロットとしてそのぐらい把握してなくてどうする」
湊はニヤリと笑う。
「それに、万が一、君の出番になるような問題があったとして、最高秒速三百キロオーバーでかっ飛ぶ船にのんびりデバッグしてる暇なんかあるもんか!」
香帆にとって勝利の喜びはほんの一瞬だった。うっかり余計な事を口走ったばかりにあっさり逆転されてしまった。
「この前までとは事情が違うんだ。わかったら早く船から出ていってくれ。いつまでも居られちゃ仕事の邪魔だ! じゃぁま!」
「先輩…」
「議論は終わり。とっとと出て行きなさい!」
硬い冷ややかな声で湊は言い放った。まったく取り付くシマもない。
こうなったら最後の手段、泣き落としで行こう。香帆はそう心を決める。
「先輩は私がかわいくないのね」
「ああ」
ちゅうちょなく頷く湊。
あんまりあっさり返されて香帆は本当に涙が出そうになった。悔し涙だったが。
「それにな、香帆は密航をたくらむ前に俺の事についてずいぶん調べたんだろ?」
「ど、どうしてそれを?」
「ほら、やっぱりな!」
湊は普段あまり強い物言いをしないかわり、いったんこうと思い込んでしまうと恐ろしく皮肉のきつい突き放したしゃべり方になる。
香帆は言いよどんだ。
どう切り返そう。悩む。
「調べたのなら君もわかっているはずだ」
小さくため息をつき、暗い表情で手元を見つめる湊。
「俺の設計した船の事故率のオーダーは平均と比べてかなり高かっただろう?」
「だって、あれは先輩の設計が極限作業用の特殊船舶ばかりだったから…」
「いや、そうじゃない。極限状態だからこそ、逆に船は信頼出来るものでなくちゃいけないと思わないか。でも、俺の船は残念ながらそうじゃなかった。自分じゃよく判らないんだけど、俺の設計はきっとどこかにもろい部分があるんだ。卒業前の教授の評価はある意味では正しかったんだよ」
「でも…」
「俺は、自分の手掛けた船でこれ以上人が命を落とすのを見たくないんだ。もう二度と」
うつむいたまま、湊は聞き取れないほどの声でつぶやく。
もしかしたら、彼は泣いているのではないか。香帆は疑った。
「…ごめんな」
それっきり、湊は何も言わず香帆に背中を向けた。
切ないほどの、しかし、かたくなな拒否の意志がその背中にははっきりとにじんでいた。
撤収する最後の技術者が香帆に気の毒そうな視線をむけると、目くばせで彼女を促した。
香帆はそれ以上何も言えずに技術者についてコクピットを出ると、アローラムのエアロックと多用途船のそれとを結ぶ気密キャットウォークのチューブにのろのろと足を踏み入れた。
「…先輩は一人で死ぬ覚悟なんだ。」
そう香帆が思い至ったのは、もはやチューブを渡りきり、多用途船のエアロックに足をかけたその瞬間だった。
「こちら辻本だ。湊、聞こえてるか?」
多用途船のブリッジに立ち、観測窓からその目でじかにアローラムを見つめながら辻本はマイクを握っていた。
深い暗闇の宇宙空間に浮かぶアローラムは、多用途船からのサーチライトを受けてキラキラと純白に輝いている。
独特の真っ白い船体とその優美なフォルムは健在だが、船体フィン外部に新たに取り付けられた7基の無骨な追加増槽がその優しいイメージをだいなしにしていた。
『はい。感度良好。係船索開放。キャットウォーク分離作業は完了しました』
「多用途船了解。係船索の巻き取りを開始する。続いてアンビリカルケーブル、及び燃料導管切り離し。アローラム、内部電源に切り替えてくれ」
『アローラム、アンビリカル切り離し終了。補助バッテリー、コンタクト。電圧異常なし、電流値正常…あ、いや、あれ、電圧若干プラスに振れてます。正常ですか?』
「その試作のバッテリーは満充電でちょっとばかり過飽和気味になる癖があるんだ。問題ない。すぐに落ち着くはずだ」
『こんなものまで試作!』
スピーカーから流れる湊の声のトーンが微妙にはね上がる。
しかし辻本は涼しい顔のまま眉一つ動かさない。
『…アローラム了解。アンビリカルコネクタ、導管接点、共に閉鎖完了。パイプライン回収して下さ…』
不機嫌な声にかぶさるようにザッという一瞬のノイズが割り込んでくる。二隻を最後までつないでいた有線デジタルリンクの光ケーブルが切り離されたのだ。
辻本は背後の通信オペレーターを振り返り、小さくうなずいた。
「よし、レーザースクランブル通信に切り替え。アローラム、メリットはどうだ?」
『…ットファイブ・ナイン。繰り返します。メリット、ファイブ・ナイン。感度、音質、共に良好です。スクランブルパケットのデータリンクスループットは毎秒一・二テラバイトを維持、アローラムオーヴァ』
辻本はその声を確認すると観測窓のシールドを降ろし、ブリッジ中央の自分の席に戻ってどっかりと座り込んだ。正面のマルチスクリーンにも肉眼に数倍する大きさでアローラムが映し出されている。
映像の周囲にはチェックリストがごっそり表示され、テストが終わった部署から次々に正常値を示すグリーンの文字に変化している。すでに七割以上がグリーンの中で、今だイエローのままなのはほとんどがエンジン関係のリストだった。
その状態を認識しているうちに、また一群のリストがぱっとグリーンに変化し、同時にアローラムのフィンの先端に光る認識灯がぐんと明るさを増した。補助エンジンを始動させたらしい。
『アローラム、APU始動、電圧、
レーザー通信に特有のわずかなエコーを伴って湊の声がブリッジに響く。
辻本は、右手後方のコンソールにこわばった表情でおさまっている優子を振り返る。こころなしか顔色も青いように見えた。
『プレヒート完了。マークから十秒後にメインエンジン始動します。マーク』
報告するオペレータの声も硬い。誰かがごくりとつばを飲む音が、やけに大きく耳に入る。
すべての観測窓に分厚い対爆シールドが自動的に下がり、アローラムの姿はそれ以上肉眼で観測できなくなった。
照明が絞られた、ディスプレイの明かりだけの薄暗いブリッジ。最悪の事態に備えて誰もが身を硬くする。
もちろんテストは搭載前に何度となく繰り返してはいる。だが、この形式のエンジンの悲惨な歴史を知らない者はこの船にはいなかったからだ。
次の瞬間、メインスクリーンに映るアローラムの姿がわずかに揺れた。
『…エンジン始動成功!』
湊がどなるように報告してきた。
「内圧間もなく臨界、推力ゲージも正常値で推移してます」
同時に優子の弾んだ声がブリッジに響く。
最後まで残っていたエンジン関係のチェックリストがすべてグリーンに変化し、一瞬後には画面中央にきらめく〈ALL GREEN!!!〉の文字を残してリストはすべてクリアされた。
すっきりと広くなったマルチスクリーンの中で、アローラムのノズルから青白いプラズマ炎が次第に長く伸びていく。
『タービン回転数正常、電磁加速率ゼロコンマ二%、アイドリング安定しました。ノズルコーン温度正常値…百二十秒後に最終実航噴射自動試験を開始、特に問題がなければそのまま作戦行動に移ります。アローラムオーヴァ!』
ほっとした安堵のどよめきがブリッジに満ち、居並ぶオペレータ達の肩が一斉に下がるのがはっきり見て取れた。それを目にして優子もようやくほっと胸をなでおろす。
その姿を視界の端で確認しながら、辻本はゆっくりとマイクを取り上げた。
「よーし、この先は機密行動になるからな。よほどの事がないかぎり通常通信はご法度だぞ。湊、とりあえずの別れに何か言い残してる事はないか?」
しばらくの沈黙の後、ブリッジに声が響く。
『香帆に一言。そこでおとなしく待っているように、と』
辻本はクスリと笑うともったいぶった口調でそれに答えた。
「一体何の事かな? 徳留君は本船には乗務していない」
『なにーっ!』
スピーカーの向こうで目をむいている湊の顔が目に浮かぶようだ。辻本はそう思い、ニヤリとしながら早口で一方的に続ける。
「それではこれより作戦行動に入る。ちなみにライバル達の最新情報だが、数時間前にロシアのサルベージ船がエンジン不調で戦線を離脱している。他は相変わらずだ。では幸運を祈る。また会おう!」
アローラムの尾部がその言葉に応えるようにまばゆく輝いた。事前にインストールされたプログラムどおりメインエンジンがブーストを開始したのだ。およそ百秒間のプログラム加速中、湊は耐Gシートにめりこんだまま呪いの言葉でも唱えているだろうか。
そこまで考えた辻本はついにこらえ切れなくなって吹きだしてしまった。オペレーター達の視線がさっと集まるのも気にせず、彼は大声で晴れ晴れと笑った。
「よし、本船もそろそろ行くぞ。メインエンジン始動。まずはNASAのシルバーストリングだ。あのドラム缶のでっかいケツに喰らいついてやれ! 撹乱戦術でアローラムを援護するぞ!」
最終噴射試験プログラムは滞りなくなく終了した。
湊は加速Gが消えると同時に通信を回復させようとしたが、すでに多用途船の回線は閉鎖されていた。あわてて開いた映像回線も同様で、あの見飽きたロゴマーク以外は何一つ映し出そうとはしない。唯一、スクランブルパケット回線だけはまだリンクしていたが、これはコンピュータ専用で人間には使えない。
「ったく、あのバカは何を考えてるんだ!」
どなりながら湊はシートを飛びだすと貨物区画に向かう。
あれほど広かった貨物区画は、今や増設された内部増槽とそのパイプラインで足の踏み場もない有り様だった。もちろん空調は最初から切ってある。
「こら! 香帆! さっさと出てこい!」
どなり声にこたえ、誰かが”わざと”置き忘れたらしき梱包材の山から小柄なパイロットスーツ姿がよろよろとはい出して来た。
寒さに全身をガタガタと震わせ、氷のように青白い顔の彼女は、それでも苦笑いを浮かべて小さく右手をあげた。
「やあ、元気?」
「やあ、じゃない! このバカ野郎! どうして素直に戻らなかったんだよ!」
「それより、早くそっちに入れてくれないかな? ここは寒いよ」
「…おまえ、毎度毎度やることがめちゃくちゃだよ。それに、あの加速でよく平気だったな…」
湊は開いた口がふさがらなかった。そんな彼の脇を素早くすり抜けた香帆は、エアコンの吹きだし口に貼り付くようにしながら顔と両手を温風にかざしている。
「あー、あったかーい」
「あ、あのなぁ…」
「だって、こうでもしないと先輩は私を連れて行ってくれないでしょ?」
額に青筋を浮かべた湊に向かって、香帆は悪いのはそっちだと言わんばかりに口をとがらせる。
「…で、また司令の入れ知恵か?」
「違うよ!」
不意に振り返り、強い口調で否定する。
「違うよ。今度は私の自由意志。絶対に先輩を独りで行かせたくなかったもの」
「どうして? なぜそこまで無茶をするんだ!」
「ひみつー」
香帆はそう言って小さく首をかしげ、いたずらっぽい表情を浮かべるとにっこりと笑った。
その仕草に湊は一瞬どきりとした。
「おまえ、それ…」
「なに?」
無邪気に尋ねる香帆に、うまく答えられず口ごもる。
「い、いや、何でもない」
その表情も、しゃべり方も、美和とは全くと言っていいほど違う。
なのに、なぜこれほど驚かされるのだろう。
「どうしたの?」
湊はしつこく突っ込んでくる香帆を無視し、内心の動揺を必死におさえてコクピットに戻る。だが、思わず表情が硬くなるのは隠しようがなかった。
「ねえ、本当にどうしたの?」
「いいから早くシートにつけよ。今度はフル加速だ。つぶれても知らないぞ」
「…変な先輩」
口をとがらせた香帆は、しかしそれ以上突っ込む事はせず、右側のシートにおとなしくおさまった。
「準備いいか?」
「はい」
自分もシートに滑り込み、首筋のプラグをヘッドレストのAuコネクタに押しつける。
ピリッとしたショックが全身に走り、アローラムの船体全体に自分の両手両足が引き伸ばされたような不思議な感覚がじんわりとわいてくる。
まるで船と自分が一体化したような新鮮な感覚にとまどい、湊はそのままむっつりと黙りこんだ。
正直、悩んでいた。
この急ごしらえの捕獲作戦はそもそも最初から無理が多い。
民間船であるアローラムの徴用も、辻本が言うような隠密作戦の一部であると考えるより、一から高速艇を設計、新造する時間的な余裕がないための言い訳と考えた方がより自然だ。
湊自身は、辻本司令に対する多少の義理と、個人的な興味もあってここまで付き合った。
だが、技術的にも戦術的にも決して有利と言えない状態で、列強の捕獲隊と互角に張りあわなくてはいけないのだ。この先、なりふり構ってなどいられない。
人類史上類のない、つぎはぎだらけの有人超高速宇宙船。
満足な動物実験も済んでいない怪しげなケミカルプラント。
脊髄や頭蓋に髪の毛よりさらに細いナノチューブ・Au複合ワイヤーを何十本も差し込み、文字通り脳細胞と直接繋がれたデータリンクシステム。
試作品の耐Gシート、ベータテスト中のニューロAI…
あらためて考えなくてもいくらでも出てくる。不確実な要素があまりにも多すぎる。
辻本司令は自身の守護女神に頼ってどうにか乗り切る腹らしいが、無事に今回の任務を達成できる確率なんておそらくまともに計算すらしていないに違いない。
これが、自分一人なら別に気にしなかった。
これまでずっとそのつもりで星を渡ってきたのだし、あの事故以来、生き続ける事にそれほどの執着も未練も感じていない。
だが、そんな場所にまだ若い香帆を付き合わせて本当にいいのだろうか?
やはり、多用途船が追い付くのを待ってでも、断固として彼女を追いだすべきなのではないだろうか?
結論が出ないまま、湊は香帆の顔をまじまじと見つめた。
何事かと目を丸くしながらも、彼女は大きなはしばみ色の瞳で湊をじっと見つめ返してきた。
いつも何かに挑戦するような、それでいて純粋なまなざし。そこには強烈な意志の光がにじんでいる。半端な説得なんかにはとうてい応じそうにない。
「どうかしたの?」
一体何事かと不安を感じたらしい香帆。
「いや、何でもない」
湊は思わず苦笑する。
いつの間にか、アローラムのナビシートに彼女が座っている事がしごくあたり前の風景になっていた事に気付いたからだ。
そして、湊自身、隣のシートに誰もいない、かつての日常を思いだすのが次第に難しくなってきている事にも。
かつて、造船技術者であった湊が自覚無く引き起こした数々の過ち。その被害を受けたのは湊自身ではない。
美和の他にも、湊の造った船を信じ、それを唯一の命綱に暗黒の宇宙を渡る何人もの若き宙航士がその命を虚空に散らしていたことを、湊は美和を失った後で初めて知った。
だから、これ以上貴重な彼らの命を巻き込まないため、彼らの未来を閉ざさないため、自分は二度と船には関らない。
それが唯一最善の解決法であり、あの日以来、自分に課せられた背負うべき十字架なのだと湊は確信していた。
その気持ちは今も全く変わってはいない。
美和を失い、みずからの力だけで絶望に立ち向かうと決心したあの日以来、湊は極力他人との接触を避け、何も生みださず、いかなることにも深く関らず、星々と人の間を、まるで漂うように生きてきた。そのはずだった。
でも…。
湊は心の中で反問した。
もしかしたら心の片隅ではずっと、香帆のようなずうずうしい相棒の出現を待ち望んでいたのではないのか?
人の迷惑を顧みず、どこまでもまっすぐ突っ込んでくる物怖じしない性格。底抜けの行動力。
どう控えめに表現しても“無鉄砲”としか言えない彼女の行動はひどく迷惑なはずなのに、その一方でなぜか救われたようなひどく安らかな気持ちさえ感じてしまう。
「…俺はひどい」
湊は迷いを振り払うように大きく首を振った。
「…とんでもなく卑怯な人間だ」
湊は長い思索の末、ぽつりとつぶやく。身勝手な自分を確認するように。
そして、いぶかしげな顔を向ける香帆に、まるでささやくように呼びかけた。
「…よろしく頼むぞ、相棒」
そのまま返事も聞かずにHMDを装着すると素早く筐体のカバーを閉じる。
彼女の答えを聞くのが照れ臭く、同時にひどく怖かったのだ。
「え?」
香帆はその言葉に一瞬絶句する。
だが、次の瞬間満面の笑みを浮かべ、弾んだ声でそれに答えた。
「こちらこそ! よろしく、相棒!」
---To be continued---
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