第12話 いつもとは違う日常
石でできた城のとある部屋に二人の男がいた。その部屋は、地面も石で壁も石で出来ていて物はほとんど無い。それに、明かりも壁にあけられた穴にろうそくが数本たっているだけで、相手の顔をギリギリで把握出来るくらい薄暗かった。
一人は
もう一人は、その部屋の一段高くなっている石の台の上に置いてある椅子に膝を組んで座っていた。近くには、机がありそこにはチェスボードとその上に白と黒の
椅子に座った男はチェスの駒を動かしながら見下ろす形で少し下にいる男を見る。
「それで? なんの用だ?」
穏やかで低い声が下の男に向けられる。
下を向いていたマントを着た男がゆっくりと顔を上げた。
「エルステイン王国に送った邪竜が倒されました」
次の駒を置こうとした手が止まる。男は、駒を持ったまま黙り続けているが目線は下の男に向いたままだ。
だが、ゆっくりと駒をボードの上に置いて椅子の肘掛けに肘を置き頬杖をつく。
小さく椅子に座る男の口角が上がる。
「ほう……。邪竜が倒されたか。ふっ、ふふ、フハハハハハハハ!!」
頬杖をついていた方の手で自分の顔を覆い高笑いをする。部屋にはその男の笑い声が響いていた。
「
楽しそうに聞いてくる男に無表情のまま淡々と跪きながら答える。
「邪竜を倒したのは、邪竜と同じ使い魔だそうです」
「使い魔が使い魔を……? 竜種と同等の力をもった使い魔か……」
「その使い魔は、銀髪の黒い鎧を着た男だそうです」
「……なに?」
さっきまで楽しそうにしていた男は、睨むようにしたの男を見る。
「貴様、何を言ってる。使い魔で人は召喚されないはずだ」
「その者は、人間ではありません」
「人間じゃないだと? 」
「はい、その者は……魔王です」
その言葉を聞いた男の表情が変わる。
「銀髪、黒い鎧……そして魔王」
フッ、と鼻で笑うと椅子から立ち上がり紺色のマントを着た男に喋りかける。
「ダイス、今すぐに|アレ(・・)の準備をしろ」
ダイスと呼ばれる男は、少し困惑した表情する。
「アレはまだ、未完成ですがよろしいのですか?」
「構わん。アレを使わねば恐らくその使い魔には勝てん。いや、使っても怪しいかもしれないな」
「? ギーツ様は、邪竜を倒した使い魔のことをご存じなのですか?」
「まぁ、多少はな……。そんなことは、いい。早くアレの準備をしておけ」
はぐらかすようにダイスに準備を急かす。
ダイスは、少し聞きたかったがギーツと呼ばれる男の機嫌を損ねないように素直に言うことを聞いた。
「はっ!
ダイスは、立ち上がり後ろにある出口へと歩き出す。
ダイスが部屋から出たところでギーツは、椅子に座り背もたれに寄りかかる。自然と口角が上がっていき笑い声とともに独り言をもらす。
「エルステイン王国に邪竜を送り込んで破壊しつくそうと思っていたが……。まさか、
自分の声が部屋全体に響く。
薄暗い部屋の中でギーツは、置いてあったチェスの黒の駒を一つ手にとり勢いよくとボードの上に置く。乾いた音が部屋中に反響する。
「会うのが楽しみだ……」
その後、部屋から愉快な笑い声がずっと響いていた。
***********************
ジリジリジリ。
朝を告げる目覚ましが部屋中に響く。その音でニックは目を覚ました。
「もう、朝か……」
時計の針は、六時を指していた。
体を起こしてあくびをしながら体を伸ばす。まだ、寝たいという欲望に襲われながら無理矢理ベッドから出る。
カーテンを勢いよく開けると朝日が差し込んできた。その朝日の眩しさに一瞬目を
「いい天気だなー」
窓から見える青い空。雲がゆっくりと動いているのが分かる。
ニックは、学校に行く準備をしようと服を脱ごうとしたがここであることに気が付いた。
「これ、一昨日着てた制服だ……。ってか、僕お風呂入ってないじゃん」
二日前に突如として現れた黒い
シルヴァは、
気づいたときには、ユートリアス学園にある学生寮いた。その後、ロゼリアの部屋に行き
助けてもらった後は、自分の部屋に戻りベッドで眠った。
一気に色々な事があって疲れてたのか眠ってから一度も起きることなく今日の朝を迎えたのだ。
「とりあえず、お風呂に入ろう」
ニックは、部屋にある備え付けのお風呂に向かい体の疲れと汚れを落とした。
風呂を出たニックは、タンスにある制服を取り出してそれに着替えた。着替え終わったところでニックのお腹の虫が鳴る。
「ご飯も食べてなかった……」
ユートリアス学園には、食堂がありそこに行こうとニックは自分の部屋から出た。
部屋を出たあと一度シルヴァも呼ぼうと思ったが、朝早くに起こすのも悪いと思い食堂に向かう廊下を一人歩いていた。廊下には、ニックが歩く足音だけが響いている。
歩いていたニックだが、ふとシルヴァの事が頭に浮かぶ。
「僕もそうだけど、リナもロゼリア先生もいきなり現れたシルヴァに何気に親しく接してるよな……」
思えば不思議な話だ。
魔王が使い魔なんてそんなもの信じられるはずないのに。そもそも、この世界に魔王なんているのか? 突然現れて何で僕らすんなり受け入れてるんだろう。
そんなことを考えていると食堂にたどり着いた。
食堂に入ると中はユートリアス学園の生徒が数人ご飯を食べていた。まだ、日が登ってそれほど経ってないので生徒の数は多くなかった。
ニックは、二日間ろくにご飯を食べなかったがそれほどお腹が減ってなかった。お腹の虫が鳴いているのに全く不思議な事だ。
パンとコーンスープを一つずつ厨房にいる優しそうなおばあちゃんに貰ってから空いている席に座った。
白い長机に置いてある香ばしく焼けたパンとほのかに香るコーンスープが、食欲をそそる。
ニックは、最初にパンをかじってその後コーンスープをスプーンで少し飲んでそれを交互に繰り返していた。
食べ終わった後は、食器をおばあちゃんに渡して食堂を出た。一度自分の部屋に戻り今日の授業の道具を持って学生寮を出る。
学生寮を出ると朝なのに何やらユートリアス学園の外が騒がしい。
「あ……
あの時、ほとんど街は半壊していた。
ユートリアス学園の付近は特に破壊が酷かった。若干シルヴァのせいってのもあるけど……。基本的に
横目で街の方を見ながらユートリアス学園の本校を目指す。
数分後には、本校に到着してニックの教室がある二階に向かう。
教室に着くとそこに見知った人がいた。朝早いのに机の上に足を乗せて顔に教科書を開いて乗せて眠っている金髪でオールバックの少年。
正直なところ、ニックはその人の事があまり好きではなかった。
その人に気付かれないようにゆっくりと自分の席に向かった。ニックの席は、一番後ろの端の席で金髪のオールバックの少年はニックの席の一つ空けた隣の席だ。
ニックは、静かに魔術の本を開いてそれを見ていた。
一瞬の静寂。後少しすれば生徒がぞろぞろと入って来て賑やかになる。ニックは、そうなるまでただ静かに本を読んでいた。
「よぉー、ニック。挨拶くらいしてくれよな~。寂しいじゃねーか」
その声にニックの体がびくつく。
声がした方にゆっくりと顔を向ける。
「お、おはようエバン」
エバン・ホーキン。ニックと同じ十六歳。金髪のオールバックに耳にはエメラルド色の宝石が埋め込まれた小さなピアスを付けていてる。首には、ギラギラ光る銀のネックレス。
エバンは、ニックのことをとことんバカにしてくる。二日前もそうだ。それよりも前からエバンは、ニックのことをバカにしていた。もちろん、大半のクラスの人がニックをバカにしていたがエバンは特にそれが酷かった。
そんなエバンのことは、どうしても好きにはなれなかった。
「な、何か用かな?」
エバンがこんな朝早くに教室にいることは珍しい。ニックもいつもこんなに早く来ることは無かったが、エバンがこの時間帯にくることはまずあり得ない。ニックが、知る限りエバンが毎回来るときは授業が始まるほんの数分前だからだ。
エバンは、机に足を乗せて教科書を顔の上に乗せていたがニックが反応すると顔に乗せてある教科書を取ってニックと目を合わせた。
キツネのような尖った目尻。狩人のような目がニックに向けられ、体に少し力が入る。
エバンは、机から足を降ろすとゆっくりとニックに近づいてくる。
ニックは、正直逃げたかったが今は、椅子に座っている状態。何か、理由をつけて退出することも出来たかもしれないがこの状況で教室を出ていくのはあまりにも不自然すぎる。よってニックは、エバンが近づいて来るのを黙って待っているしか出来なかった。
エバンが、ニックの側まで来るとゆっくりとエバンはニックの机に手を置く。
「なぁ、ニック」
「な、なに?」
「お前よ、上位魔術使ったんだって?」
少し不満げにそう言ってきた。
「なんの事かな?」
「しらばっくれてんじゃねーよ」
思わずしらをきったがあっさりバレてしまった。
エバンは、眉間にシワを寄せる。
「噂になってるぜ? お前が、使い魔召喚をしてあの黒い
ニックが使い魔召喚をしたのは、間違いではないが倒したのはニックではなく、召喚されたシルヴァが勝手に倒した。という方が合っている。
「なんで……。なんで、『落ちこぼれ』のお前が上位魔術なんて使えんだよ!」
いきなり、怒鳴り声を上げ机に置いてあった手を上げて机を叩く。
「使い魔召喚は、自らの魔力によって召喚される獣は変わる! つまり、
どうやら、シルヴァのことは知らないらしい。
ニックは、素直に「魔王を召喚しました」などと言えるはずもなくただ黙っていた。まず、ニック自身なんでシルヴァを召喚できたのかさえ分かっていない。そんな魔力が自分にあると思ってさえなかったのだから。
「おい……答えろよニック」
低く冷血な声がニックに向けられる。
ニックは、何も言えずエバンから目をそらす。
「──っ!! てめぇ!!」
その行動がエバンを
エバンは、机に置いていた手でニックの胸ぐらを掴む。もう反対の手は、力強く握られている。
その手を勢いよく上げニックの顔に拳が直撃、する寸前で後ろから声が聞こえる。
「エバン……?」
小さくエバンの呼ぶ声は、聞きなれた声だった。
その声で、エバンの拳はニックの顔に当たらず止まる。エバンは、小さく舌打ちして胸ぐらを掴んでいた手を離して教室を出るため足早に出口に向かって教室を出た。
エバンの出た出口にいたのは炎のような赤い髪を腰まで伸ばした赤い瞳を持つリナだった。
「に、ニック……エバンと何かあったの?」
リナは、心配そうに近寄ってくる。
「い、いや、何もないよ」
「え? でも、今エバン、ニックのこと──」
「ほ、本当に何にもないから!」
ニックは、苦笑いしながら誤魔化す。
「そ、そう? なら、良いんだけど……」
とりあえず、リナは納得してくれたのか持っていた鞄を自分の席に掛けに行く。
ニックは、胸ぐらを掴まれたところを直して自分の椅子の背もたれに寄りかかる。
「エバン……どうしたんだろ……」
いきなり怒りだして、今まで一度も暴力に出ることのなかったエバンが今日初めて殴りかかろうとしてきた。
いきなりの事で少しパニックになっていたニックは、小さく息を吐く。
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