第10話 突然の訪問者
「ん……」
ニックは、重い
「あれ……?」
僕は、さっきまで外にいたはずじゃ。ここは、僕の部屋?
まだ、意識がハッキリとしない。だが、体を温かく覆う掛け布団の存在と窓辺から差し込んでくる日の存在は理解できた。体温に温められた毛布をかけていても少し寒いところを見るとどうやら朝のようだ。
ゆっくりと意識がハッキリとしてきて外から聞こえる鳥の鳴き声は目覚ましには丁度良い。
重い体を起こして近くに置いてあった黒いメガネをとってかけ左手で顔を覆う。
「なんか、スッゴい夢を見た気がする……」
銀色の髪を持つ男、魔王シルヴァと黒い
「はぁ~……」
顔から左手を離すと見ちゃいけないものが手首にあった。
それは、夢で見たはずの白い鎖のようなものが一周した模様。シルヴァが契約の
「え……夢じゃ……ない?」
勢いよく体をベッドから出そうとしたが右側に何かを感じてそちらを見る。すると、そこには見知った顔があった。
炎のような赤い髪が腰の辺りまで伸びていて、ベッドの側に椅子を置いてそこに座りながらベッドに腕を組んで枕にしスヤスヤと寝ているリナの姿があった。赤い髪の隙間から見える白い肌のうなじが妙に色っぽく感じられた。一定の間隔で聞こえる寝息。
「すー……」
そんな、リナをしばらく見ていたニックだったが、
「こういうのは、良くないよね……うん」
よく分からないことを自分に言い聞かせ、リナの肩を優しく
「り、リナ? 起きてー? リナー?」
「……ん? ……あ、私寝てた……って、ニック! 目が覚めたんだね!」
さっきまで寝てた人とは思えないほどの元気な声を上げながら椅子から立ち上がった。髪と同じ赤色の瞳がニックを見つめる。
「丸1日も寝てたから本当に心配したんだから。どこか痛いところとかない?」
「えっ、うん。大丈夫。別に痛いところとかは無いけど……。僕、丸1日寝てたの?」
「そうだよ。突然倒れて、シルヴァがここまで運んでくれたんだよ。本当に心配したんだから」
「あ、そうなんだね。……ん? ねぇ、リナ。今なんて言った?」
「え? 本当に心配したんだから」
「もうちょい前」
「シルヴァが運んでくれたってところ?」
し、シルヴァ……。って、あの魔王だよね。本当に夢じゃないんだ。
夢だと思っていたことが現実だと確信し、しばらく動けなくなるニック。そんなニックの目の前で手を上下させるリナ。
「あれ? ニック? おーい」
「……あ、ごめん」
やっと我にかえったニックは、苦笑いして謝る。
本当にシルヴァがいるのだろうか。僕が、本当にシルヴァを召喚したとは思えない。夢だと信じたいがこの左手の鎖の模様といい、リナの言葉といい信じざる得ないのだが……。
「ところで、リナ」
「何?」
「なんで、僕の部屋にいたの? ここ男子寮だよね? リナがいると色々とまずいんじゃ……」
このユートリアス学園の敷地はものすごく広い。それによって学生寮と言うものが存在する。寮というものにしては恐ろしくでかい。ニックとリナもこの学生寮に住んでいる。男子は一階、女子は二階というふうに分かれていてもちろん、二階は男子禁制だ。一階に女子がいるのも色々と問題がある。
それだと言うのにリナは、ニックの部屋寝てしまっていた。恐らく看病してくれていたのだろうがやっぱりそれは、色々とまずかった。
「ニック、何言ってるの?」
「?」
「ここ、私の部屋だよ」
「……へ?」
思わず間抜けな声が漏れる。
ニックは、急いで部屋を見渡す。
その部屋は、ニックの部屋とは違い実に女の子らしい部屋だった。授業の時に使う教科書は本棚にしっかりと整えられていてニックが眠っていたとなりには、茶色のクマのぬいぐるみと白いうさぎのぬいぐるみが仲良く置いてあった。掛け布団とベッドのシーツは薄いピンク色で所々花柄が
まさかの逆だったのだ。
ニックがいる部屋はニックの部屋ではなく、二階にあるリナの部屋。
なぜ、気がつかなかったのか自分でも不思議である。
「ちょ、ちょっとリナ! 自分が何してるか分かってるの!? 二階が男子禁制なのはリナも知ってるでしょ!」
「うん、知ってるけど」
「なら、なんで僕をここに連れてきたのさ! バレたらまずいでしょ!」
「別に大丈夫だよ。ニックのこと信じてるから」
「そういう問題じゃ……」
深くため息をついてベッドから出る。
「ニック、まだ寝てなきゃダメだよ」
「もう、体は大丈夫だから。それに休むにしてもここじゃ色々と問題だからね」
そう言って扉の方に歩いていく。ドアノブに手をかけながら振り返る。リナは、「どうしたの?」と首を傾げる。
「1日看病してくれてありがと。おかげで良くなったよ」
それだけ笑顔で言ってドアノブを回してゆっくりと扉を開ける。
扉の隙間から顔を出して周りに人がいないかを確認する。
今は、朝だから人がいるかと警戒したがまだ誰も起きてないらしい。これなら、ササッと下に降りれそうだ。
安堵の息をはいてリナの部屋から出る。歩き出そうと一歩足を前に出した瞬間。
「やー、朝っぱらから女子寮である二階に来るとはいい度胸じゃな~。ニック」
後ろから聞いたことのある幼い声だがそれは、皮肉を込めた声だった。
ニックは、ゆっくりと後ろを振り返る。
誰もいない。
なら、下を見よう。
視線を下に向けると魔女がかぶるような、つばの長いとんがり帽子に金髪のツインテール。黒いワンピースの上白い白衣を着た小さな女の子が満面の笑みでニックを見上げていた。
「ろ、ロゼリア……先生」
思わず苦笑いしながら名前を呼んでしまう。
「これには、色々と訳がありまして……」
「ちょっと、わしの部屋まで来てもらおうか。ニック」
「は、はい……」
もはや、断ることなどできまい。
ニックは、黙ってロゼリアについて行った。
ロゼリアの部屋にニックからしたら数時間ぶりなのだが実質、約一日ぶりにニックはそこに来ていた。
前来たとき山積みにされていた本は、本棚に丁寧に片付けられ前とは全然違っていた。あの時より、部屋は広く感じられ薄暗かった部屋もカーテンを開けて朝日が差し込んできているので爽やかさが感じられた。
ロゼリアの部屋にある大きな机の近くでニックとリナは、黙って立っていた。
なぜ、ニックが連れていかれたのにリナも一緒にいるかというと連れていかれる直前にリナも部屋から出て来てついてきたのだ。
そして、ロゼリアは机の側にある椅子に座りニックとある人物を交互にチラチラ見ていた。
ニックもつられてその部屋にいる異様な存在感を放つ男に目を向ける。
魔王シルヴァ。
彼は、そう言っていた。
あの時に身につけていた黒い鎧は消え今は、黒いローブに身を包んではいるがフードは被っておらず銀色の髪が黒いローブによってより一層目立っていた。
シルヴァは、腕を組んで壁に寄りかかりながら目をつぶっている。だが、ニックの視線に気がつき片方の目が開き青い瞳がニックの視線とぶつかる。
「なんだ?」
「あ、いや……なにも」
ニックは視線を反らしロゼリアを見る。
さすがに、何か喋らなきゃだなと思いニックはロゼリアに話しかける。とりあえず、女子寮にいた説明を。
だが、ニックが喋りだす前にロゼリアの方が先に声を出した。
「ニック。本当にあいつはお前が召喚したのか?」
「あいつ、とは?」
だいだい察しがついたが一応聞いてみた。というか、女子寮にいた話ではないのか。
「あいつじゃあいつ。シルヴァじゃよ」
「僕にもよく分からないです。あの人が、言うにはこの手首の模様が契約の証だとかどうとかって言ってましたけど……」
そう言いながら少し汚れた制服の裾をめくってロゼリアに白い鎖の模様を見せる。
「確かに、これは使い魔と契約した証じゃ。じゃが、ニック。お前に魔王を召喚できる魔力があったとはな……いや、そもそも使い魔召喚というものは獣やらそういった
僕もそうだと思っていた。だが、召喚された本人がそういうのだがらたぶんそうなのだろう。未だに信じがたいが……。
「まぁ、それは追々調べるとして……まずは、昨日現れた
「本物の
思わず繰り返してしまった。
「そうじゃ。と言うよりは、|もう(・・)本物ではないという方が正しいかの」
「どういう事ですか?」
「あれはな、もう死んでいた
そう言って小さい骨の欠片を机の上に置く。
「これは、その骨の一部じゃ。恐らくは、これを使って
「召喚……って、あれも使い魔なんですか!?」
「あぁ、この骨に使い魔召喚を
「つまりは、あれもシルヴァと同じってことだね!」
突然リナがニックの視界に入ってきて上目遣いでそう言ってきた。
「う、うん」
少しドキッとしたニックは、一歩後ろに下がる。なんだか、顔が熱くなってきた。
「まぁ、ともかく色々と調べることだらけじゃ。あの
「あぁ、扉開かなくなったんでしたね。そういえば」
「全く、いい迷惑じゃ。
ロゼリアは、シルヴァを
そして、鼻で笑いながら椅子の背もたれに寄りかかる。
「シルヴァがいなければこの街は、跡形もなく消えておったろうな」
ロゼリアの部屋にいるニック、リナ、ロゼリアは、静かにシルヴァを見た。その視線には気がついているだろうが、シルヴァは腕を組んで壁に寄りかかったままだ。
だが、ここでニックはあることに気がついてシルヴァに話しかける。
「シルヴァ」
「……」
「自己紹介してなかったね。僕の名前は、ニック・ハーヴァンス。よろしくね」
「……あぁ」
両目を開けて一言返事をしたシルヴァは、また目を閉じて黙った。
まぁ~、とりあえず色々な事が起きすぎてまだ頭が混乱中だが後で色々整理しよう。そう思ったニックだった。
ニックは、ロゼリア先生に使い魔召喚のことを聞こうとロゼリアの方に体を向けた。
「あの、ロゼリア先生ちょっと───」
聞こうとしたニックの声は突然謎の音によって自然と止まる。
がしゃがしゃ。金属の擦れる音がロゼリアの部屋の扉の外から聞こえてくる。それは、徐々に大きくなっていく。
「なんじゃこの音は……鎧か?」
確かに、この音は鎧を着ながら歩く音に似ている。音は一つではなく、たくさんの音が不協和音を奏でていた。
そして、扉の近くまで来たのかその音は止まり扉をノックをしてから扉はゆっくりと開かれる。
「失礼する」
野太い声が部屋にいた四人の耳に届く。
扉から出てきたのは白い鎧を身に付けた人たちだった。数は十人、いや、二十人くらいだろう。その白い鎧に腰にぶら下げた白い
そのエンブレムを見てニックは、この人たちが誰なのかを一瞬で察した。
「
誰にも聞こえないような声でそう漏らした。
その聖王騎士団の先頭に立つ、
「ここにニック・ハーヴァンスは、いるか?」
しっかりとした大きな声でニックの名前を口にした。ニックは、小さく手をあげる。
「ぼ、僕がニック・ハーヴァンスですが……」
顔だけをニックの方に向けてニックと目を合わせる。
「本当に貴様だな?」
「は、はい」
「そうか……」
何がそうか、なのか分からず眉間にシワを寄せ少し首をかしげて直接ニックは、その男に聞いてみる。
「あの、何か用ですか?」
その言葉で男は体ごとニックの方に鎧が擦れあう音を出しながら向く。
「ニック・ハーヴァンス。貴様を
「……」
「なお、すでに貴様の死刑は確定だ」
「え……ええええぇぇぇ!!!」
ニックの声は学園内に全体に大きく響き渡った。
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