第7話 悪魔

「さて……どうするかな……」


 半壊した町の中心部で男は、まだ壊れていない家の屋根に黒い大剣を担いで立っていた。目の前には、一匹のドラゴン。黒い鱗に殺気の帯びた眼。白い牙を剥き出しにしてうなり声をあげている。

 このドラゴンを男は一度だけ見たことがある。いつだったかは、覚えてないが確かに見たはず。


「邪竜……ファヴニールか……」


 そのドラゴンの名を自然と口に出していた。


「まぁ、そんなことはどうでもいいか……」


 担いでいた黒い大剣をドラゴンに向ける。男の青い瞳がだんだんと殺気に満ちていく。そして、男はゆっくりと口角を上げて言い放つ。


「俺は、ただテメーを殺すだけだ。覚悟しろ……」




********************




 結界の外に出たニックとリナはドラゴンのもとへと走っていた。辺り一面、ドラゴンによって壊された瓦礫がれきの山で普通に走るよりも体力を大きく消費する。


「はぁ……はぁ……」


 呼吸が荒れる。ニックの後ろで必死についてくるリナも呼吸が荒れるのか大きくする呼吸音が聞こえてくる。


「リナ、大丈夫?」


 振り返ってリナの身を案じる。


「だ、大丈夫……」

「なら、良かった」


 前を向いたニックは、目の前にある光景に驚愕きょうがくした。


「なんだ……あれ」

「どうしたの? ニック」


 後ろからリナも前の光景を覗いて口を開けて驚く。


「人が……ドラゴンと戦ってる……」


 そうリナは、小さく言う。目の前に映っているのは、突然ニックの前に現れた銀色の髪の男が黒い大剣を持ってドラゴンと戦っている光景だった。

 ドラゴンが吐く炎の玉を俊敏しゅんびんな動きで男は、かわしていく。


「すっ……すごい」


 ニックは小さく呟くとその声が男にも届いたのか、勢い良くこっちに顔を向けた。

 驚いた顔をしていたが、その顔は遠くから見ても分かるほど怒りに満ちていった。そして、男は一瞬にしてその場から消えた。


「なっ、またか!」


 消えた男にビックリしていると、ニックの後ろでリナが小さく悲鳴をあげる。


「キャ……!」


 それを聞いて振り返ると目の前にいたのはリナではなくさっき一瞬にして消えた男が物凄い剣幕で立っていた。


「……えっ!」

「テメー! 何でここにいんだ! 学園内にいろっつっただろ!」


 黒い大剣を担ぎながらニックの胸ぐらを掴んでくる男。二度目の男の声は明らかに怒った声だった。


「そ、そんなこと言われても……」

「そんなことだと! 誰の為に防御結界を張ったと思ってんだ!」

「えっ! あれ張ったのあなただったんですか!?」

「他に誰がいる!? あんな巨大な防御結界張れるやつなんて俺くらいしかいねーだろうが!」

「いや、あなたのこと知らないですし…」


 チッ、と舌打ちしてリナの方にニックを引っ張りニックは「うわ!」といってリナの方に倒れる。


「大丈夫! ニック」

「なんとか……」


 駆け寄ってくるリナは、心配そうにニックの顔を覗きこむ。ニックは、後ろを振り返るとドラゴンはこちらを向いて大きく咆哮する。間近で聞いたその咆哮にニックとリナは耳を塞ぐ。

 だが、男はそんな咆哮にも微動だにもせずただ巨大なドラゴンを見上げる


「いいか、お前ら。そっから動くなよ」


 そう言って黒い大剣を構える。


「絶対動くなよ……。死ぬぞ……」


 背中から伝わってくる威圧感に体が一気にこわばる。

 また一瞬にして男は、ニックたちの目の前から消えた。


「なんだ、さっきから一瞬にして消えるなんて……」

「ニック! あれ!」


 リナは、声を上げて空高くを指を指す。その方向を見るとさっきの男が黒い大剣を両手で持ち上げていた。

 そして、その剣を男は思いっきり振り下ろす。


「はぁぁぁぁぁぁあああ!!!」


 魔力を帯びた黒い大剣は、そのままドラゴンの翼に叩き落とされドラゴン片翼かたよく深紅しんくの血を撒き散らしながらその翼は、地面に落ちる。


「グキャャャャ!!」


 ドラゴンは、甲高い声を上げて苦しむ。

 男は、その血を浴びながら振り下ろした剣を持って立ち上がる。


「ったく……汚ねーな……」


 顔に付いた血を片手でぬぐいながら男は、冷たく言い放つ。

 その姿にニックは背筋が凍った。


「あ、悪魔……」


 ニックには、目の前にいる男が悪魔のように思えたのだ。



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