第6話 後輩たちのお陰!

1916年 秋


やあ、皆さんこんにちは。無事に三号生、学校で言う二年生に進級で来たアドルフ・ヒトラーです。今日は俺たちがここに入学もとい入隊してからちょうど一年が経つ。

つまり今日、俺たちにとって初めての後輩たちがやってくる日、そう入学式なのだ!

とは言っても、俺たちはやることは無く、遠くからまだ少年少女の顔立ちをしている子供たちを眺めるだけだが……


「我ながら一年でこんなことを考えるとは思わなかったぜ」

「何だ急に?」

「後輩たちの顔が子供の顔だな~と思ったんだよ」

 

隣に座っているのは、我が親友であるベネディクト。

そう言う君は中性的な顔立ちから、段々とハンサムな男の顔になってきてるね。可愛らしさが無くなってしまうのは大変残念だが、まあ……男らしくなったことで、野獣共に狙われることは多少は減るだろう。減らないと困る。


そんなことをぼんやりとベネディクトの顔を見ながら考えていると、アドルフはあることに気づき、視線をベネディクトから急いで今日から後輩になるであろう集団を見た。


「おお……神よ……」


思わず神様の名前を出してしまった……

女子がいるじゃあねぇかぁぁあ!!!

モテちゃうじゃないか!ベネディクトモテちゃうじゃないか!またヴィーンに居た時のようにストーカー祭りになってしまう!どうすれば!?

 

「どうしたアドルフ?急に黙って?」

「い、いや?何でもないよ?」

「そうか。まああいつらは俺たちじゃなくてⅠ号生が教えるから関係ないか」


そう言うとベネディクトは立ち上がり歩き出した。アドルフもそれに続く。アドルフにはベネディクトがどこに行こうとしているのか手に取るように分かった。


数分歩き階段を下りたりしていると目的の場所へたどり着いていた。


「さーて今日は何を食べようかな!」


そう、食堂である。高い天井のお陰で広々とした空間が更に広く感じる。丁度昼時という事もあり同輩先輩で大変賑わっていた。ちなみに新兵の入学式のお陰でこの時間で朝食を食べる羽目になったのである。

トレーを持ち手前の列に並ぶ。

まずは主食からだ。やはりと言うべきか帝国の主食はパンであるが、アドルフは前世の日本人としての味覚が最近、お米を欲しているためパンが飽きてしまっていた。


「お、今日はジャムが付いてるぞ!」

「はちみつもある!」


しかし今日はイチゴのジャムと、珍しくはちみつが付いてきた。

これは嬉しい。


「おお!今日は豪華だな!」

「目玉焼きを久しぶりに見たぞ!」


主食の次は主菜である。主食もいつもより豪華で、目玉焼きが一つにウィンナーソーセージが四本、ほくほくの芋が二つ、ハムが四枚と多い。ちなみにいつもはウィンナーソーセージが二本、芋が二つと言った具合である。

そして次は―――


「………」

「………ここは変わらないんだな」


副菜である。そしてその副菜の名はザワークラウト。

酸っぱい。


飲み物はあの伝説の空の魔王、対戦車の神様、破壊神などと言う異名を持つ某大佐も大好きな新鮮な牛乳。

これで二人の朝食は完成した。


「さてどこに座ろうか?」

「どこも混んでんな~」

「お~いお二人さん、こっちこっち」


声のする方を向くと手を振るエドガーにヤーコブ、フォルカーがいた。


「おはよう!」

「おはよう三人とも」

「おう!おはよう!二人とも!」

「アドルフ、ベネディクト、おはよう」

「おはよう、アドルフ君、ベネディクト君」


朝の挨拶を交わした後、席に着いた二人。五人揃ったところで朝食を口にする。


「いや~今日の朝飯は豪華で朝からいい気分だな!」

「もう昼だけどな」

「まあ確かにもう少し早くしてほしいよね」

「いもうまい!」


日常的な話や料理の感想を話しながら、朝食を進めていく。

がここで悲しいを知らせをフォルカーが告げる。


「そう言えば、さっき教官たちが言ってたんだけど、今日は朝ごはんと昼ごはんを一緒にしてるって」

「え…?つまりこれは、朝昼兼任?」

「聞いた話だとそうなるね」

「なんだって!?じゃあなにか?この量で晩飯まで持たせろっていうのかよ!?腹が持たないぜ?」


エドガーが大声を上げる。アドルフも最初はエドガーと同じ気持ちだったが冷静に今日の予定を思い出すと解決した。


「エドガー、安心しろ」

「これが安心できるか!航空演習とかどうするんだよ?」

「今日は休みだ」

「……え?」

「入学式のお陰で授業も訓練も休みだ」


そう今日は入学式、教官たちは新兵の相手でいっぱいだ。だから今日は授業が休み。訓練も休み。自由に遊べるのだ!


「ああ!なるほど!そいつは良いな!」

「ああ!遊び放題だ!」

「何して遊ぶ!?」


と、呑気に喜ぶアドルフ、エドガー、ベネディクトの三人。それを見て、まだまだガキだな、と思うヤーコブと、楽しそうだな~と思うフォルカーだった。




朝食兼昼食を食べ終えると五人は食堂を出た。貴族や富裕層出身のものは食後のコーヒーや紅茶を嗜んでいるところだが、彼らに言わせれば苦い飲み物を飲む時間があったら体動かして鍛えようぜ、となる。


「とりあえず練兵場にでも行くか。今日は何も無いから自由に使えるはず」

「いいね!」


そう考え練兵場へと向かうが


「お~う……」

「わ~お……」

「人がいっぱい……」


アドルフの同じ考えを持つ者が大量に居た。だが揉めている様子はなくそれぞれが和気あいあいとしているのでこの中に加わっても問題はなさそうだった。


「でもあんまり広く使えねえな……」

「フットボールがやりたかった……」


落ち込んでいるベネディクトとエドガーを見てアドルフは考える。そして思いついた。


「じゃあ全員でやればいいじゃないか!」






「と言うわけで、全員でフットボールをやりたいと思います!賛成の方は挙手!」


踏み台の上に立ち、そう群衆に大声で問いかけるアドルフ。そして群衆は挙手によって答える。この場には野郎しかいない。そして健全なる帝国男児の小さい頃からの遊びと言えば、軍隊を真似ての遊びがフットボール。

つまりここに居る全員がフットボールを必ず一度はやり、簡単なルールも知っているという事になる。


「じゃあ好きにチームに分かれろ!」

『オオォォォーーーー』


一斉に野郎どもが動き出す。普通は11人でやるものだが今日は特別ルールで50対50になった。チームに入ることなく審判役も16人となっている。


「主審はアドルフ・ヒトラーが務めさせていただきます」


気の利いた奴が持ってきてくれたボールを練兵場の中心に三つ置き、そこから離れる。

そして肺に目いっぱい空気を入れ、これまた気の利いた奴が持ってきてくれた笛を口にくわえ、吹く!


ビィィィィィィィィィ!!!


「突撃いぃぃぃ!」

「突っ込めぇぇえぇぇ!」


特別ルールでキックオフは無くなった!

なので両軍の前衛が一斉にボールに向かって群がる。

少し離れた所から見ていると、ごちゃごちゃしてるだけにしか見えないが、やっている本人たちは、本気で遊んでいるので激しく動いている。そして輝いた表情を浮かべ楽しんでいる。


「楽しんでくれてよかったよかった」


とひとり呟き嬉しそうに笑うアドルフは、主審としての使命を果たすために走り出した。





なおこの後、盛り上がりすぎて騒がしかったため教官たちが来てこっぴどく叱られた。

特に言い出しっぺであるアドルフは一ヶ月便所掃除という名誉ある特別任務が与えられた。





なお一カ月後アドルフは教官が絶賛する程のトイレ掃除マスターになっていた。



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