第5話 陸軍士官学校は危ない所
1916年 春
やあ、皆さん。おはようございます、こんにちは、こんばんは。
陸軍士官士官候補生のアドルフ・ヒトラーです。
さて私はこの世界が恐らく進むであろう未来を知っています。その中で元エリートサラリーマンのデグレチャフさんが奮闘を描く物語です。男も女も幼女も駆り出される戦争の中で私は何とか生きていきたいです。
しかしここに入ってから早数ヶ月、非常に不味いことが分かりました。
ここには女性が一人も居ないんだよぉぉお!!
何で居ないんだ!?原作やらアニメでも女性士官が居たじゃないか!
ふざけんじゃねえよ!女性がいないと……いないと……
ベネディクト君がむさいケダモノ共に狙われるじゃねえか!
神様たちに毎日、ベネディクト君の健康と安全をお願いしてるけど不安だ!
「何を変な顔をしながら言っているんだ?お前は?」
「おおヤーコブか」
声がしたから後ろを振り向いたら、ヤーコブがいた。
このヤーコブ・ビーカーはここに来てから出来た友人だ。身長180cm超えの筋肉モリモリマッチョマン、とても俺と同い年とは思えないね!
「我が天使であるベネディクトがここに住んでいる獣どもに襲われそうなんだ!何とかするから手伝ってくれ!」
「お前……」
何かヤーコブの哀れなものを見る目に変わったぞ。
「お前な……俺たちの中で一番強いベネディクトが襲われると思うか?」
「強いけどおつむがちょっと………」
「まあおつむは仕方がない。だが戦闘になったら負けることはないだろ」
「それはそうだけど……」
そうなのである。我が親友ベネディクトは、俺たち同輩の中で一番強い。最も魔力量が多く、航空戦闘技術も素人とは思えないほどに高いのだ。
教官が「あいつは空を飛ぶために生まれてきたに違いない」とまで言うほどの才能を発揮しているのだ!
やったね!ベネディクト!子供の頃からの夢がかなって良かったね!
「まあ危なくなったら俺が守らないとな」
「空戦評価Eがトップを守れるのか?」
「そこは俺とお前とフォルカーで何とかするんだよ!」
そうだよ。俺は空戦評価最下位だよ。飛ぶこともやっとな人間が空戦機動なんて出来るわけないだろ!
でもな………
「地面に足つけたら強いからな!俺は!」
「そうだな。だが俺たち航空魔導師には関係ないがな」
「地面に足つけてスコップあればベネディクトにだって勝てるさ」
「………お前は大人しく歩兵士官になったらどうだ?」
「そう言うヤーコブだって空じゃオレとさほど変わらないだろ?魔力があるのに全然飛べてないじゃねえか」
眼をそらすなヤーコブ。お前は魔道適正Bプラスなのに高いところが苦手で、空に上がったら途端に顔が青くなるのは知ってるぞ。
「……いずれ治る」
「どうだか……」
「あれ二人ともこんなところで何話してるの?」
声の出所の方を向くと眼鏡を掛けた少年が立っていた。
「おおフォルカーか!ちょうど良いところに来たな!お前の狙撃術でベネディクトに近寄ろうとする野獣共を始末してくれ」
「そんなこと言われたって……」
この眼鏡を掛けた少年、もとい青年はフォルカー・ブンゲルト。俺らと同い年の少し小柄な友人だ。こいつはヤーコブとは違い、空高くも飛べる上に狙撃の腕が同輩の中で一番良い飛行している相手を墜とせる腕をもう習得しているからすごい。だが欠点もある。それは……
「人なんて、まして同級生なんて撃てないよ……」
何で軍人になったんだと言うぐらい優しい子なんだよ。まあ、理由は魔力があったから強制的に受験させられ合格したからと言うものらしいけど。
あと狙撃中はピクリとも動かないため接近すれば俺でも墜とせるぐらい、弱い。
「いいかフォルカー、これはベネディクトを護るためなんだ。ベネディクトを狙う奴らは全て殲滅すべき対象なんだよ」
「無茶苦茶だよ……」
頭を思わず抱えるフォルカーだがアドルフは止まらない。それをたしなめるヤーコブだったが、そこに新たな人物が現れた。
「おうおうおうおう!お前らこんなところで何やってんだ?」
「エドガーか、お前も手伝え。我らのベネディクトを野獣共から守るんだ!」
「……なんだいつもの持病か」
そう言って呆れた目で俺を見る青年は、エドガー・ベルツ。俺たちと同期であり、ともに勉学と訓練に励む仲だ。少し元気すぎて良く教官に叱られている。背丈は俺と同じぐらいだが実家が農家なので体格は良い。
ヤーコブ同様に高い所が苦手で、毎回飛行訓練で叫びながら飛んでいる上に、戦闘訓練ではほとんど飛ばずに地上から撃ちまくっているという……
「持病じゃないぞエドガー。俺は心配なだけなんだ」
「お前はあいつの母ちゃんか何かか?」
「そこは母ちゃんではなく兄ちゃんにしてくれ」
「……」
エドガーが引きつった表情になったがアドルフは気にすることは無かった。
その後もぎゃあぎゃあと言っていたアドルフだったが、予鈴のベルが鳴り響くと、口を閉じてヤーコブ、フォルカー、エドガーと共に教室へ入った。
そして各自が自分の指定席に座り授業の用意をする。
そしてアドルフは、窓側列の一番後ろに座る。そして隣に座って寝ている人物の分の授業道具も用意する。それが完了すると、寝ている人物をやさしく揺する。
「ベネディクト、起きろ。授業が始まるぞ」
「ん……もう……?」
先ほどとは比べ物にならないぐらいの穏やかな口調でベネディクトを起こす。
目を擦りながら大きくあくびをして眠そうにするベネディクト。
その姿に、教室に居る何人かが見とれるがすぐに目を逸らす。
「………」
アドルフが無表情でこちらを向いているからである。
それも眼孔がとんでもなく開きながら。
そしてアドルフの同輩たちの中には鉄の掟が存在する。
《ベネディクト関連でアドルフを怒らせてはならない。》
そんな掟がいつの間にかできていた。
出来た理由はある出来事がきっかけだった。
空戦トップの成績を入隊してからずっと叩き出していたベネディクト。
それをよく思わない者がいた。貴族の息子たちだった。彼らも優秀だった。しかし同期にベネディクトが居たことでどれだけ自分のベストな成績を出しても、ベネディクトに勝てず、プライドが毎回少しずつ削られていった。
そしてある一人が限界に達してしまった。
彼がやった事はベネディクトの航空補助魔導具に少し細工をしたことだ。
何度も敗北した悔しさと憎しみ任せに細工をしてしまった。
そして次の日、ベネディクトは落ちた。
幸い、木に引っかかり大事には至らなかったがそれでも上空から落下したのだ普通なら死ぬ高さから。
だがベネディクトは無傷で帰還。
ベネディクトの周りには人だかりができ、多くの同輩は喜びほっと胸を撫で下ろした。
しかし細工をした青年は悔しがった。
あともう少しだったのに
そう心の中で言った瞬間、悪感に襲われた。
そして振り向くと
無表情のまま顔だけこちらに向けているアドルフと目が合ってしまった。
次の日の朝、事件が起きた。
中庭にある木に一人の青年が吊るされていたのだ。
全身ズタボロにされ、衣類なども身に着けず、プラカードを首から提げながら、腕を荒縄で縛られ、腰に食い込むように縛られた吊るされていた。
その悲惨な惨状に生徒も教官も絶句した。
プラカードにはこう書かれてあった。
《わたしがアーノルド士官候補生の航空補助魔道具に細工をして殺そうとした犯人です》
とりあえず話を聞こうと木から降ろし、話しかけるが、帰ってくるのは謝罪の言葉だけだった。
壊れたブリキのおもちゃの様に同じ言葉を繰り返すだけだった。
そしてある同期が見てしまったのだ。
哀れみや恐怖、侮蔑の視線ではなくただ一人、笑っている人物を。
被害に遭ったベネディクトの隣で、まるで神か天使にでも褒め称えられた様な、清々しい笑顔を。
アドルフ・ヒトラーの顔を
その日から、鉄の掟が誕生した。
ちなみにこの掟はベネディクトと本人は知らない。
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