第4話 時の流れは早いです

1915年 初夏


 小学生の時に魔導適正を受けた後から、俺はとりあえず体を鍛えることにした。

まぁ、身体はまだまだだったので少し走っただけで体力が無くなり、何回か腕立て伏せしただけで腕が悲鳴をあげた。

 しかしそれをほぼ毎日繰り返していけば身体が慣れていき、より体力が増した。


 それを10年だが11年続けていれば中々良いボディーになった……と思う。


 皆さんこんにちは、今年で16歳になりますアドルフ・ヒトラーです。


 前世の日本で言えば高校生真っ盛りなお年頃ですが、ここは帝国(ライヒ)であるので、教育制度は違います。何よりも軍学校という選択肢があり多くの若者たちがその狭き門を目指して勉学に励んでいます。


 そして私もその一人であります。

 帝国陸軍士官学校に入学を目下、目標としております。

 我が癒しであるベネディクト君と共に!







「アドルフ………まるで分からないぞ」

「ベネディクトよ……ここは昨日教えたはずだが?」


 ヴィーンの街にある市営図書館で向かい合いながら勉学に励む若者が二人、転生者のアドルフ・ヒトラーとその友人であるベネディクト・アーノルドがいた。

 そして彼らの持ち物はノートに鉛筆、そして歴史書である。


「ベネディクト、出来事は年号や大きな出来事で覚えるんだ、その年号や出来事で頭の中に印象を残し、頭の中の引き出しにしまう……分かったか?」

「それは分かるけど、どうも覚えれないんだ。似たような言葉、似たような名前、似たような出来事、似たような人物のせいでごちゃごちゃになるんだ……」


 十年前はあんなに可愛らしかったベネディクトも、立派に成長している。軍人になるために鍛えられ、引き締まった身体、そして十分な身長、口は多少悪いが総じて紳士的。ここまでは良い。

 ベネディクトには他の男たちには無い利点とも欠点とも言える物を持っていた。

それは顔が童顔なのであり、男とも女とも捉えられる程の中性的な顔立ちに成長したことである。

 そのため現在進行形で男にも女にも狙われている。

 性格もよく美少女と間違われる顔だち、引き締まった身体、思春期真っ盛りな彼・彼女らを惹きつけるには十分すぎる要素だった。

 しかも男女関係なく困っている人がいれば助けているため、それを加速させている。またカッコいいからという理由で髪を伸ばして後ろで結ってポニーテールにしているため初対面の人間には大体女子と勘違いされている。

 だからこうして俺が常にベネディクトの近くに居て、悪い虫が付かないようにしているんだが、これは友人として当たり前なことをしているだけである。


「ところでアドルフ、士官学校に入ったらどうなるんだろう?」

「なにが?」

「部屋割りとか、班とか、一緒に訓練できるかな?」

「ん~、成績によって割り振られるんじゃないか?あと魔導適正とかでも決めるかもしれないな」

「そうか……」


 悲しそうな声を出して落ち込むベネディクトだが、こればっかりはどうすることも出来ない。

俺が魔導適正C級、対してベネディクトはA級だ。

 しかも俺のC級はぎりぎりのC級だ。A級であるベネディクトとは魔力量が違いすぎる。A級は少しぐらい座学が出来なくても大抵は航空魔導師になれる。

 貴重な魔力持ちの中でも宝石のように貴重なA級持ちだ。そんな貴重な存在を座学成績が悪いというだけで落とすはずが無い。

 対して俺はC級だ。C級でも下の下だ。飛べるかどうかのレベルなんだから、座学が悪ければ落とされる。大多数いるB級・C級の中でも使えないC級なのだから。それよりも低いD級よりはだいぶましだが………


「まあ、まずは受かるようにしないとな。A級持ちが座学で落ちたら笑い話のネタにされるぞ?」

「分かってるよ!だからアドルフに教えて貰ってるんだろ!」

「じゃあ面倒くさがらずに頑張れ」

「………わかってるよ」


 そっぽ向いて小さな声で呟く。図星ということがなんてわかりやすいんだ!

 でもそこも可愛い!







 あっという間に試験当日になった。

 だが俺には自信がある。この自信はテスト前日になって陥る意味不明根拠無しの自信では無い。努力を重ねに重ねた明確な自信だ。

 そして何よりも………!



 神様達に無事合格しますようにと毎日お願いごとしていたからだ!そのお陰か試験前なのに受かる気しかしない!

 隣にいるベネディクトも自信に満ち溢れた表情をしている。

 そしてその表情を見て顔を赤らめている人間が数人いるが、今はほっとくことにしよう。もしベネディクトに近づこうものなら、航空魔導師になれない身体にしてやるぅぅぅ……!






「懐かしいのではないのかね少尉?昔の自分を見ているようで」


 受験生が試験を受けている講堂の廊下を歩く二つの陰。


「はい。4年前の今頃は彼らのように机を見つめていたでしょう」


 前を歩くカイゼル髭を蓄えた軍人とその後ろを従者のように付き従い歩く眼鏡を掛けた若者。


「私が少尉のような歳だった頃は魔導師という兵科は存在はしていなかったが、今はこうして毎年航空魔導師を目指す若者がいる。時の流れは速いものだと、年を取るほど感じるよ」

「中佐殿、十年後には魔導師が軍の主兵をになっているかもしれませんよ?」

「それは困るな……私のような人間が要らなくなってしまうじゃないか」


 そんな会話をしながら廊下を進む二人だった。

 もしアドルフが二人の姿を見ていたら驚愕して奇声を上げることは間違いないだろう。


 何故なら二人は『幼女戦記』という物語の重要な登場人物なのだから。


 しかし奇声を上げることはできない。

 何故なら―――







「何だ……この問題は……!?」


 試験問題の圧倒的物量に押し潰されそうになっていたからだ。

 想定していた以上に難解で且つ大量の問題。前世で経験した大学入試問題が可愛く思えるほどのものだった。

 しかし諦めるわけにはいかないのだ。

 諦めてしまったら、ベネディクトと共に学生ライフが行えない。士官にならなかったら起こるであろう大戦で名も無き一般兵として最前線送りにされ戦死、そんな未来が待っているのだ。


 そんな生活は送りたくない!神様、俺に力を!


 その一心で問題を解き進めるアドルフだった。









 試験から数ヶ月たち季節は秋。

 俺ことアドルフ・ヒトラーと親友であるベネディクト・アーノルドは帝国ライヒの首都である帝都ベルンに居た。


 軍服を身に纏いながら目的地へと歩みを進める。

 期待と不安、興奮とやる気が入り混じっている心境を胸に大きな建物にたどり着く。

 ここから四年間過ごすことになる学び舎。




 帝国陸軍士官学校に入校するために


「いよいよだな……」

「ああ、あと少しで夢がかなう」


 そう言うと二人は同時に帝国陸軍士官学校の門をくぐった。





アドルフ・ヒトラー 職業 陸軍士官候補生

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