第3話 将来の夢が決まりました

統一暦 1906年 ヴィーン



 皆さんこんにちは。毎日欠かさず神様達に、どうか後方勤務になりますように、とお願いしているアドルフ・ヒトラーです。

 今年で7才になりましたが、今まさに学校でわたしの人生が決まるイベントの真っ最中です。

 そのイベントと言うのはーーーー




「はい、ちょっと頭に機械かぶせるから動かないでね~」

「は~い」


 健康診断と称する魔導適正検査だ。目の前の少年の次が俺の番だがここまで十人ほどやられるのを見ていたが、ターニャ・デグレチャフさんのように物を浮かせるほどの魔力を持っていた者はやはりいなかった。更に魔力を持っていなかったことも医師の表情から分かる。


「はい、ありがとね~」


 前の少年も魔力は持っていなかったようだ。いよいよ俺の人生が決まる。ただの歩兵になって最前線に送られるか、魔導師となって士官となり後方勤務に就くか。

 神様仏様、どうか魔力がありますように……!

 無かったら諦めて、絵描きにでもなろう。


「はい、これ被ってね~」


 アニメで見たような器具を頭に被せられ、測定が開始された。

 でも医師の表情が微妙だ。本当に微妙だ!なんだその中途半端な出来の物を見るような目は!?隣の看護婦さんも微妙な表情になってるけど、俺は、魔力があるの?無いの?どっちなんだ!?


「はい、終わったよ~」


 






 結果は魔導適正C級だった。

 この世界の主人公であるターニャ・デグレチャフさんは魔力適正A級だったはずだが、俺は適正C。しかもぎりぎりC級らしい……

 魔力はあるため魔導師には成れる。しかし航空魔導師に成れるのか………?


 今後の人生に関わることなので検査をしていた医師が帰る前に航空魔導師になれるのか質問したところ、大半の航空魔導師はB級とC級が主体だそうで、A級は少数しかいないので精鋭扱いで戦場での主力とされるのはBとC級。その中でも数が多いC級が最も消耗するようだ。なのでC級魔導師は医療魔導師などを目指すか士官学校に入り後方を目指すか、諦めて徴兵されて消耗品として酷使されるのを待つことが多い。

 そして医師は、「君は魔力量があまり多くはない。だから航空魔導師ではなく医師魔導師を目指した方がいいと思うよ」と言って帰っていた。


 つまり俺は、魔導師になることは出来るが、航空魔導師として活躍するのは難しく、もし活躍する場合があるならそれは精鋭のA級もB級も壊滅してC級だけで正面を張っている末期的状況というわけになる。


 正直に魔力があって良かったと思う。毎日神様にお願いしてきた甲斐があった。それと大戦が始まればC級どころか魔力量が少ないD級だって航空魔導師として徴兵され、戦線に投入される事になるだろう。だから適正についても問題ないし、今の演算宝珠ではC級かもしれないが、エレニウム九七式を使えばB級になるかもしれないし、どちらにしろ科学の進歩によって航空魔導師に成れる幅は広がりC級魔導師こ活躍の場も増えるだろう!

広がると俺は信じているぞ!神様!活躍の場が広がりますようにお願いします!広がらないと昇進できずに前線で死ぬ!


「アドルフ~!」

「どうしたベネディクト?」


 俺が科学と神様にお願いしていると後ろから笑顔で我が友であるベネディクトがやって来た。表情から良い結果だったようだな。


「あのねあのね!おれね!魔力あったよ!」

「そうか!それは良かったね~!適正は何だったの?」

「適正?」

「君はAとか、Bとか言われなかった?」

「言われたよ!えっとね……Aって言われた!」

「そっかーおめでとう」

「ありがとう!」


 ベネディクト君は夢の魔法使いになれるようだ。良かったよかった。ホントウニヨカッタネー。

…………まじかよ。ベネディクト君最前線行きほぼ確定かよ。 

 俺は嫌だ、こんな可愛いベネディクト君が戦場で惨たらしく死ぬ姿を見るなんて嫌だ!神様仏様どうかベネディクト君が万全な職場につけますようにお願いします!


「アドルフは何だったの?」

「し……Cだったよ……」

「じゃあ一緒に魔法使いになれるね!」


 そんな満面の笑みで俺に言わないでくれ!なれるけど、たぶんなれるけど俺は落ちこぼれになるぞ!


「そ、そうだね…なれるね……」


 嘘は言ってない、嘘は言ってない!


「約束だよ?」


 そんな無垢な笑顔で約束を求められたら……!


「約束だ」


 してしまうじゃないか………!






 家に帰って、魔導適正があることを父と母に言うと、二人とも飛び上がって喜んだ。

 確かに嬉しいんだけど、魔導適正があると言うことは兵隊に取られる事がほぼ確定しているんだけど……自分の子どもが死ぬかもしれないんですけど……まあこの国は軍事国家だから兵隊成るのが当たり前という風潮もあるし、我が癒しであるベネディクト君との約束もあるしな!


「よくやったぞアドルフ!お前は父さんの家系で初めての魔導持ちだ!」

「お母さんの家系にも魔導適正がある人は一人もいなかったわ!アドルフありがとう、本当にありがとう……!」


 めちゃくちゃ褒められてるし、父さん泣いてるし、母さん抱きしめが痛いよ!

 一族で俺が初めての魔導適正持ちなのは知らなかったけど、そこまで喜ぶのか!?


「今日はお祝いよ!アドルフ!好きな物食べさせてあげる!何が食べたい?」

「え……じゃあ、目玉焼きが乗ってるハンバーグが食べたい!」

「他には何かある?」

「じゃあ……グヌーテル!」

「分かったわ、じゃあ早速作るわね!」


 母さんが笑顔のまま台所へ向かうと、今度はいつの間にか泣き止んでいた父さんが笑顔で迫ってきた。


「アドルフ、何か欲しい物はあるか?今日は好きな物買ってあげるぞ!」

「えっ?いいの?」

「ああ良いぞ!」

「やったー!」


 と子供らしく喜んでみたものの、欲しいのが無いんですけど、どうしたらいいんだ……




 前世では読書も趣味の一つだったので欲しい本があると信じて本屋に行くことにした。



「どんな本が欲しいんだ?」

「軍隊の本」

「そうか、アドルフもそんなものに興味を持ち始めたか……」


 父さんの表情が少し悲しそうになった。まあ、可愛い一人息子が徴兵されて死ぬかもしれないからね……俺も子供持ったら同じこと思うだろうな……

 とりあえず興味をそそられる本を探さないと。


「陸にすべきか海にすべきか……」


 今、俺は迷っている。陸軍の本にすべきか海軍の本にすべきかを。

 この世界の陸軍は騎兵が花形を未だ務めているが、戦車も存在している。ちょうど第一次世界大戦に登場した車輌達だ。つい最近出来た兵器なため数も少なく、独立した兵科もないようだ。しかしこの『陸軍のすべて』と言う本にはしっかりと戦車のことも書いてあるのだ、真面目に、俺は真面目に出来るだけ細かく書いた作者達に感動している。

 海軍は空母は未だ無く、戦艦こそが海の王者であり、その国の海軍の象徴として君臨している。それでもやはり第一次世界大戦時代の艦艇ばかりだ。この『海軍艦艇紹介本』には戦艦をメインに取り扱っており、ページ数の半分は戦艦で埋まっている。他の艦艇達はちょっとしか載っておらず、戦艦への愛を感じる本だ。

 


「……………こっち!」


俺が選んだのは……






 母さんの豪華手料理を何とか残さずに全てたいあげたあと、俺は自室に戻った。

 机に置いてあった本の表紙を撫でる。


 初めての軍事書だ。大切に出来るだけ綺麗に読まないとな。


『陸軍のすべて』を自分でも分かるぐらいにやつきながら読み始めた。


 なぜこちらを選んだかだって?

 それは簡単だ。

 俺はいずれ陸軍に入るからだよ。

 陸の上で死にたいからね!






アドルフ・ヒトラー

将来の夢 陸軍航空魔導師


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