とある文芸部の部室にて
長芦ゆう
第1話 そうだ、文芸部に入ろう!
短髪で目つきのよろしくない男子生徒が、なにやら独り言を呟きながら、廊下を行ったり来たりしていた。
同様に、漫画研究部というものも、この高校には存在しない。
「いったい、どうしたらいいというのだ」
中島は、何か部活に入りたいと思っていた。およそ、アニメの登場人物というものは、なにか部活に入っているものである。彼もまた、アニメのキャラクターたちに習って、部活に入ろうとしていたのだ。
「清志、お前は何の部活に入るの?」
「ああ、僕は文芸部に入るよ」
「文芸部?清志、お前は小説家になるのか?」
「分厚い本を執筆しようだなんて、そんなことは考えていないよ。文芸部というのは、文化祭なんかで、部員の作品をまとめた冊子を配布するんだけど、それでもこのくらいの薄さなんだよ」
そう言って、柊は空中で数センチの幅をつまむようにしてみせた。
「なんだかなぁ。文芸部って、文字だけの地味な部活じゃないか?俺はゲームとかアニメとか漫画とか、そういう世界に憧れるなぁ」
「春人。お前、本とか読まないだろ。本っていうのはな、ゲームやアニメなんかと、なんら変わらないんだぞ。画面に描かれるか、想像力で描き出すかの違いがあるだけで、な」
眼鏡男は、語る。
「それに、だ。これは不思議なことなんだが、学校では漫画を読んではいけないというけれど、本を読むことは推奨されているんだ。どちらも同じエンターテイメント(娯楽)だというのに、だ。世間体というものを
「確かに……。どうりでアニメ部もゲーム部も漫画部も無かったわけだ。それに、思い出したんだが、アニメというのは漫画を原作にしたものばかりじゃなくて、『ライトノベル』っていう形式の本を原作にしたものが、けっこうあるみたいなんだ。ゲームだって、RPGはシナリオが重要だし、アドベンチャーゲームっていう、テキスト主体のものも人気らしいよね。イラスト付きではあるけど」
話の途中で、急に中島は黙り込んだかと思うと、ゆっくりと前方の天井を見上げた。
白い天井には、黒い粒のようなパターンが描かれていた。
柊は、中島の次の言葉を耳にするまで、彼がそのパターンに秘められた暗号を読み取っているのではないかと心配していた。
「そうだ、文芸部に入ろう!」
こうして、中島春人は、文芸部の門を叩くのであった。
とある文芸部の部室にて 長芦ゆう @nagaashi
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