第5話 もしかして認知症では

こんな兄と、前年まで長らく引きこもりの姉を抱えても、前向きに生きてきたおかんは、体も丈夫でした。

70才の時、原付バイクで大きな事故をしました。

足首が完全にへし折れました。

このまま寝たきりになるのではと言う心配もよそに、若い人と変わらない回復力で復帰しました。

戦争を経験し生き抜いた人は、精神的にも肉体的にも本当に丈夫で、おかんは間違いなく、100才まで生きると確信しておりました。

しかしそんなおかんもジワジワと病いが忍び寄っていました。

思えば3年くらい前からでしょうか、時々自分の世界に入ったように、意味不明なことを言うようになりました。

他はとくに変わったことはなく、あまり気にしていませんでした。

しかし、ここ一年くらいから、明らかにおかしくなりました。

一つは非常に怒りっぽくなったことです。

おかんは私に対して滅多に怒ることなどないのですが、おかんの言うことを少しでも否定するとすぐに怒り出すようになりました。

ある時など突然私の家にきて、「お前に言うとくことある」と言って説教じみたことを言い出したので私も訳が分からず、「そんなん聞く必要ない」とつっぱねると、また怒って帰りました。

金使いもおかしくなり、注意すると、わたしを小馬鹿にしたような言い方で、「人の心配するより、自分の心配しとけ」と、完全に別人のようになってきました。

もしかしてこれは認知症かと思いましたが、私も聞いていると腹が立ち、いつも喧嘩ごしになってしまいました。

だんだんと会うのもいやになり、また変わりはてたおかんを見るのもつらく、気になってもなかなか実家に足が向きませんでした。

今となっては、騙してでも病院に連れて行けばと後悔しますが後の祭り。

本当に、私は親不孝者だと思いますし、どこまでおかんは不幸なのかとやり切れない思いになりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る