綿毛の先には火薬

静かにしていたのは

泣き喚いても触れる事ができないと

知っているからです

私のものではないのに

どうして縛りつけられましょう

そこに何が生まれるというのでしょうか

小さな綿毛にぶら下がり

広大な空を飛んでいるようです

ただ流れ行く景色を眺めるように

私には待つことしかできません

いつもこの手に繋ぎとめておかなければ

不安で恐ろしく

静かになどしていられないはずでした

そんなニンゲンが

容易く変わるわけなどありませんのに

ただどうゆう訳か

黙って笑っているふりをしているのです

もしもこの手に黒い墨があり

大胆な線引きから緻密な使いようが

筆の先から吐き出せる生き物でしたら

思いのはけを思う存分叩きつけまして

そして出来上がった墨なるそれを

ひと思いに破りまた破り

いくつもの紙切れが山の頂になりましたら

風に吹き飛ばして

満足げに笑い転げたでしょう

いいですか

私は決して静かなるニンゲンではない

燃え盛る熱情を滾らせながら

ひた隠しにしている愚か者ですから

惑わされてはいけません

日々抑えつけ続けたがために

平然として見えるようになったのです

一度解き放ってしまえば

火を吐くドラゴンのような雄々しさはなくとも

身を焼き焦がす松明のように

己すら顧みることのできない愚かしい真っ直ぐさで

手当たりしだいにぶつかり

あなたも己も

燃やし尽くしてしまうかもしれません

私の息づくこの世界が

もしも人知れぬ望みを許してくれるなら

迷いなくこの身に火をつけまして

密かに製造され続けた火薬の如く

空へと大きな轟と共に

光り輝きながら思いを遂げましょう

そして舞い落ちる灰が

人の柔肌に

いくつもの火傷を赤々とつくる時

ようやく私は安堵するのです

やっとあなたを私の色に染められたと

そうです

これが私というニンゲン

誰にも描きだすことなど出来ない熱情を

ひた隠して笑っている

どうして解き放てましょうか

権利という名の許しが下るとでも言うのですか?

たとえこの腕の中に

儚き体温がうずくまっていたとしても

失うことを恐れて

開きかけた口を閉ざすのです

聞き分けのいいふりして

笑顔という閂で

かたくしっかりと閉ざしておかなければ

燃えさかる炎で

あなたを摑みとり

燃えたぎる熱で

頭から爪先まで

跡形もなく溶かして

呑み込んでしまうでしょう

空は広大だというのに

私の腕の中はちっぽけすぎて

退屈極まりない

どうして縛りつけられましょう

しがみついている綿毛が舞うに任せて

流れ行く景色を眺めていれば

渦巻く思いなど

火がなければ

何も成すことが出来ない火薬のように

ただそこにあるだけなのです

さあ今日も

黙って静かにしていましょう

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