第3話 Angelo Sussurro
俺達が軽音楽部の一員としての契約(入部届けの記入)をした後、
「お二人が軽音楽部入ってくれてマジ助かったわ!……おっと、大事なことを言い忘れるとこだった。」
ふと、何かを思い出したように、副会長が言った。
「実は、まだこの軽音楽部はまだ、部として成立してないんだ。だから、まだ部としての活動は行えませーん!」
なんて事を言い出した。
「(はぁ!?ボーカルもギターも、ドラムもベースもキーボードもいんのに何でですか!?理由を説明して下さい!)」
と、思わず思ったことをそのまま口に出してしまった。
「部としての契約するには、部員が最低6人必要なんだよ。でも俺らはまだ、5人しかいないだろ?」
「まぁ、単に部員が足んねぇんだよ。…でも、部員候補は決まってるんだろ?珠凛」
「ああ。…その部員候補君は、
(へぇ…。ツインボーカルになんのか。)
「…あ。ちなみにアイツの歌声は、『angelo sussurro《アンジェロスッスーロ》』…天使の囁きとも言われる程有名だぞ。まぁ頑張れよ、キ・カ・ミ君!」
「はぁ!?」
(俺は、そんなヤツとボーカルやるのか!?)
そんなことを考えていたら、予鈴がなる。
「…ヤバい、教室戻るよ!」
「あぁ」
「輝神!俺達も行かねぇと!」
「うん!」
教室まで走りながら考えた。…俺がそんなヤツと歌う。考えただけで胃に穴が空きそうだった。
翌日の昼休み。
昼食を摂った後、俺が中庭で、トランペットを吹いてたら、ふと何かが聞こえた。気になってその音…声の方に近付くと、1人の少年がいた。
キャラメルみたいな、綺麗な茶色の髪。
その艶やかな髪が陽光を浴びて、光ってる。
白くて、きめ細かい美しい肌。
繊細で、かなり華奢な身体。
それに加えて、この歌声。
…天使だ…
間違いない、彼が祈善院佑唯だ。
別に名前を聞いた訳でもないが、直感的に分かった。
俺は、祈善院さんの実力を目の当たりにして改めて胃がキリキリと痛むのを感じた。
「なぁ、輝神。大丈夫か?顔色悪いし、あんま元気なさそうだけど。しんどいなら、保健室行くか?」
昨日の放課後「明日授業終わったら明日樹君と一緒に第三音楽室に来て!」と先輩に言われてしまったため、しぶしぶ第三音楽室に向かっていると、明日樹が心配して話しかけてくれた。
「大丈夫、大丈夫!…ただ…」
「ただ。何だよ?」
「いやさ、実は今日昼休みにさ、祈善院さんらしき人に会って。」
「らしき人?」
「名前…聞いた訳じゃないから、本人か分からないんだけど、すごい美形で歌もメッチャ上手くって。マジで天使みたいな人だったんだ。」
「へぇ。」
「ただ、そんな上手な人とこれからツインボーカルになると思うと、緊張するし、怖いなって。」
(しまった!正直に話しすぎた…バカにされないかな…?)
バカにされる事を恐れていると明日樹は、
「そっか。でもまだ一緒に歌ってもないし、自信ないならその分あの人に勝てる位努力したら良いんじゃない?大丈夫、大丈夫!」
と、柔らかい口調で初めて喋った時のように頭を撫でてくれた。
(あっ…!)
似てる。…やっぱりコイツの手は父さんの手に似てる。大きくてゴツゴツした、あったかい手ですげぇ落ち着く。
「そうだよな、まだ始まってすらないもんな。…ありがとう。すげぇ安心した。」
「それなら良かったよ。」
と礼を伝えていたら、第三音楽室が見えてきて、しかもその前に祈善院さん(?)がいた。
「祈善院さん。」
「えっ!?」
「今第三音楽室の前にいる人、あの人が祈善院さんらしき人なんだよ。」
「マジか!…確かに凄い美形だな…。あっこっちに来る。」
明日樹の言った通り、祈善院さん(?)は俺達の方へ来た。そして、
「すみません、第三音楽室は此処で合ってますか?」
そう言って、第三音楽室…もといサボり部屋を指した。
「あっはい合ってますよ。」
そう答えると、祈善院さん(?)は「ありがとう」と微笑んだ。
その姿に見惚れてると、サボり部屋から、珠凛先輩と鍵夜先輩が出てきた。
「よっ、一年コンビ」
「なんだ、佑唯も一緒だったのか。なら話が早い。まぁ、中入れ三人とも」
中ヘ誘導された俺達は第三音楽室もといサボり部屋ヘ入っていった。
「わざわざ呼び出して、一体何の用だ?珠凛、鍵夜?」
「いやぁ…実は君にお願いがあって…。」
「佑唯、頼む。」
「「俺達の作る軽音楽部に入って下さい!お願いします!」」
そう言って、会長と副会長が頭を下げる。俺はその姿が、あまりにも滑稽で笑いを堪えるのに必死だった。
でも祈善院さんは、真顔で
「じゃあ、各自の実力を見せてもらっていいかな?」
「ヘ?」
「珠凛と鍵夜の実力はなんとなく分かるけど、一年生達の実力がどれくらいか、知りたいんだ。」
と言って、黒川を指差す。
「まずはキミから。担当は…ドラムか。最近やってる曲何かある?」
と夏博に問う。
「最近は、Rave《レーヴ》のRainbow Worldを練習してます。」
「そうか。じゃあ、早速叩いてくれ。」
夏博がドラムを叩き始める。
Raveは、
やがて、夏博の演奏が終わると、夏博の演奏を初めて聞いた三人は驚きを隠せなかった。…夏博の演奏は正直高校生とは思えないほどのクオリティだった。
「…素晴らしい!キミのドラム、最高だよ!もちろん合格点は楽々越えてるよ!」
と佑唯さんも頬を染めて、美しいと褒めていた。
「じゃあ、次はキミ!」と興奮した口調で、明日樹を指差した。
「一応、ベースは持ってきました。夏…黒川が叩いている間に軽ーくチューニングだけ終わらせました。あの、聞いてもらっても良いですか?」
「分かった。…でもキミ、Rainbow World弾いたことある?」
「いえ、ないです。」
「そっか…じゃあ弾き慣れた曲とかある?」
「えっと…RaveのSun Shineですかね。」
「じゃあ、それ弾いて!」
「分かりました。」
そう言って、弾き始める。
…コイツもかなり上手いな…。
「すごいね。合格したよ!でももう少しテンポ安定すると、良いかなとは思う。」
「あっ、はい!」
と明日樹も合格点。コレ、プレッシャーが尋常じゃない…。
「じゃあ、次はキミ!…キミは僕と同じボーカルか。Rainbow World知ってる?」
「は、はい!…ちゃんと歌えますし、大丈夫です。」
「じゃあ、早速歌ってみて。」
「はい。」
(この曲、忙しいはずの父さんがいつも歌ってくれたな…。)
暗い所が苦手で、夜も眠るのに時間のかかる俺に父さんはいつも優しく歌ってくれた。
この曲は、落ち着いた本当の子守唄のように安心感に満ちている訳じゃないけど、俺にとっては、この曲は子守唄で、暖かい父さん達がいつも俺に優しくしてくれた大切な思い出の象徴だ。
俺は父さんを思いだし、できるだけ父さんに歌いかたを寄せた。
「「「「「……。」」」」」
歌い終わったら、皆が驚いていた。
(あ、あれ、俺下手だったかな?)
と不安にかられると同時に目の前が一瞬で真っ暗になった。そして、明るくなったと思ったら、俺の体は前に倒れていった。
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