第1話

「2人とも良く来てくれたな。学校への編入手続きは済ませてあるからゆっくりするといい。えっと、始業式は……」

「4月8日です。お爺様」

「おっ、そうだったそうだった」

「これだからお爺は……栄光ある国立退魔学院に編入するんだよ?」


 ガッハッハッと笑い飛ばす赤銅色に日焼けした老人四ツ木 源三は東眞が手渡した資料に目を通す。


 国立退魔学院大学高等部本校


 東京湾の海上に設立された魔物に対する術を学ぶ学校。略称は高校『退魔高校』、大学は『退魔大学』。


 退魔高校、大学は北海道、関東、東北、北陸、東海、関西、中国・四国、九州に分校を持ち、国防の要となる魔術師を養成する。


「お爺様、姉の申す通り退魔高校はただでさえ入学困難な学校、編入するのも相当難しいかと」

「そうそう! 私は16だけど、こいつはまだ15歳なのよ?」


 東眞はエメラダより一つ下の学年で、通常は高校一年生からスタートだが特例として一つ上の学年での編入が許された。


「それでだ、次の調整メンテナンスは年度初めの4月1日に行うと分家の連中から報告が上がったが、詳細は掴めているか?」

「一国につき2・3個ほど不可解な現象が見られます。詳しくはこのUSBに保存しておりますので後程ご覧下さい」


 そう言うと東眞はUSBメモリを源三に手渡した。その中には4月1日にエデン直々に行われる調整の予測が保存されてある。


 先程から調整調整とあるが、調整とはモンスターの強弱、新モンスターの追加等を年に1回エデンが直々行うものである。


 そう、まるでエデンアイツは地球の運営で、神の娯楽の為に人類を踊らせるに過ぎないのだ……。


 春の柔らかな陽射しを受ける応接間でしばし談笑を続ける3人、そこに四ツ木家の使用人、本田がバタバタと入って来た。


「申し上げます! 東京湾沖合の海上にてCクラスの魔物が多数出没、海上自衛隊が応戦している模様です!」

「エメラダ、東眞。お前らが行け。」


 談笑してた時の『気のいいおじいちゃん』の声から『当主』としての声に豹変した。その重圧たっぷりの声と体が相まって萎縮せざるを得ない。


「「承知しました」」


 源三の当主の声に合わせ、2人も『本家の魔法士』として返事をした。


_________________


 東京湾の湾岸に1台の車両が止まる。そこからエメラダと東眞が降り、小さいモーターボートに乗り換え、沖合を目指す。


「姉さん」

「分かってるよ、今のうちから魔力集めとくからあんたも準備しといてね」


 そう言うとエメラダは魔素の収集に乗りだした。東眞はそれをしない。出来ないのだ。


「そんじゃ、あんたの魔力回路借りるよ」

「はいはい仰せのままに。それで俺の魔力回路に魔力つぎ込んでね」


 エメラダ姉が魔力を俺に注ぎこむと不思議と体が暖まってくる。


「はい完了。こっちは持続的に魔力をつぎ込むけどあまり派手に使わないでよね? こっちも魔法を使うから」


 分かったよ。俺は言い、足場に魔法を展開する。内容は『作用・反作用の力を一緒にする』もので、要は加速系の術式である。


 その後も断続的に作用・反作用の概念を壊す足場を生成しつつ魔物も元へ向かう。相手はCクラスの雑魚だがなんせ数が多い。


 Cクラスの魔物、スモールワイバーンの攻撃の特徴はとにかくブレスを集団で吐きまくり時には本物のワイバーンを倒す場面も目撃される。


 ひとまず攻撃を止めさせる為、軽く威圧を与える。魔力を圧縮して周囲に解き放つ。それだけで存在感を示し、敵意を向かせるとこが出来る。


「スモールワイバーンは俺が引き寄せます! その間に負傷者の手当と部隊の再編成を!」


 俺は応戦する海上自衛隊に向かって叫ぶ。


「おい! そこの君! 相手はスモールワイバーンとはいえ、それなりの数だと厄介だそ! 万が一」

「俺は四ツ木の魔法士だ」

 

 男の忠告を遮り、低い低い声で事実を告げる。それには船上の魔法士達がどよめいた。


「とにかく! もうすぐしたら応援も駆けつけます! これ以上の怪我人並びに死人を出したくなかったら、ここは俺に、いや俺達に任せて下さい!」


 さぁ、行こう。さっきも言ったが俺は血が繋がっていないとはいえ、俺も日本で有力な魔法士を輩出する家の門を叩いた者だ。ヘマはしたくない。


 そう心に語りかけると、十匹ほどのワイバーンがブレスを吐いてきた。それを避けると腰にぶら下げてある刀の柄に手をかけ、もう1度足に力場を作り、スモールワイバーンに切りかかる。


 そこからまた力場を作り、方向を変えることに減速という概念を持たない。見る見るうちにスモールワイバーンの首を刎ね、胴体を真っ二つに分け、命を斬り捨ててゆく。


(畜生、ここに来て魔力切れかよ……仕方ない。後は姉さんに頼むか)


 胸ポケットのチャックを開け、極小の1体1専用トランシーバーを取り出す。


「こちら東眞、ちょっと今のままだと厳しいと思うから後はやっちゃって!」


 魔力回路というものは『魔法をどのくらい使えるかのスペック』であり、それが多い程複雑な魔法式をロードし、行使できる。


 しかし、エメラダには魔力回路が一般の魔法士としては少なすぎる。その量約3分の1。


 なので高難度術式をやろうとすると、スペックオーバーとなり、魔力回路が暴発してしまう可能性がある。


 そこで、四ツ木家は人材を漁った。『豊富な魔力回路を保持する者』を。その結果、魔力回路だけが豊富な東眞を養子縁組とした。


 ただ、東眞にも問題はあり、その問題とは、『魔素収集を行えない』こと、『魔法士の酸素』を集められない事である。


 その問題を現当主源三の甥の寿一が、『2人の魔力回路、魔力収集能力を共有する』様に一種の『呪い』をかけることで解決した。


 エメラダに足りない回路を東眞の回路で補填し、東眞に足りない魔素収集能力をエメラダが魔力を注ぎ込む形で。


 その結果、エメラダは複雑な魔法式扱うことが出来、現に『炎渦』という莫大炎を出す術、渦を生成する術、それらを圧縮して指向性を持たせる術の三つを連立させる事が出来て、スモールワイバーンの群れを駆逐する結果となった。

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