世界は一部ファンタジー化しました

木原

プロローグ

 目の前には有り得ない惨状が広がっている。自衛隊が機銃で掃射をしている様だが全く効いている様子が無い。


 逃げ惑う人々、国防の要の自衛隊の攻撃が効かない状況では為す術もない。


 その瞬間。一本の巨大な光柱が街の交差点を埋め尽くした。その光が収まるまでに数秒であったが数分に感じた。


「余興としてはまあまあかな?」

 

 突然現れたそれに人々は開口するしか無かった。それは毒々しい位に美しく、この世のものとは言えないほどだった。


「おっと自己紹介が遅れましたね。私はエデン。楽園じゃ無いですよ? 私は唯一神です。」

 

 純白のロングヘアーと幼い顔は男でも女でもない、中性的な容姿でおどける様子は子供の悪戯にしか見えない。


「訳が分からないって顔をしてますね? じゃあ教えてあげましょう」


 エデンは一瞬、間を置き語りかけるように話し出す。


「俺はこの世界に飽きたんだ。ちょっと前の世界大戦は面白かった。内紛とか虐殺とか面白かった。だが! 今はどうだ? のほほんと惰眠を貪りながら生き長らえているだけではないか!」


 少し熱が入り過ぎたのを自覚したのか咳払いを挟み、演説もどきを続ける。


「そんな訳で、強制的に戦乱の状況に陥らせる為に、全世界の至る所にモンスターが湧出リポップする様に、勿論家の中とか街中にいきなりポンは流石に可哀想だから、そこら辺は考えてあるよ」


 エデンが軽い口調で言う。そして、ある男が口を開く。


「え、エデン! こんな事して何をしたいんだ!」

「娯楽さ」


 予期してない答えを軽々しく、だが語りかけるように言葉を発する。


「僕は唯一神と言ったけどそれは地球の話で他の星にも唯一神は存在する。太陽系でそれの管轄をしているのは太陽の神ソル。僕の……いや、僕等の上司さ。何だけども最近ソルさんが楽しみが少ないって愚痴っちゃってさ、それでこの催しを企画したわけ」


 エデンは全員の顔を伺うと、もう一言付け加えた。


「この世に平穏なんてありゃしない。僕達が好きなだけ調整メンテナンスするからね」

____________


 それから92年後の2082年。文明は崩壊せずとも地球の人口は約4分の1にまで数を減らした。主にアフリカや南米諸国は大損害を被った。


 その主な原因の一つが、エデンの出す敵には銃の類の武器、火器が効かないことである。従って、剣や刀、サーベルで応戦するしか無かったのでここまで人口を減らした。


 そんな中でも人類はもがき続ける。人類はあの時から数年たったとき、『魔術』なるものを扱うエネミーが現れ、それを国連軍が引っ捕らえて研究したところ、大気中の『魔素』というものを使って、杖等を媒介として魔法を使っていると言う。


 そこからというもの、杖からの魔素への干渉方法、それを剣に移し替えて破刃者ブレイヴァーとなる者や魔素を精霊として認識し、それを媒介とし、身体にアーマーとして纏う者まで現れた。


 結論からすると、人類は滅びない。それこそ、異常事態が発生しても人は打開策と適応力で直ぐに馴染む。


 そんな事を考えながら俺は分厚い文庫本を閉じる。端末を使って本を読めるには読めるがこの本は古本屋のたたき売りで50円で売ってたものなので我ながらいい買い物をしたと思う。


 右手にはすうすうと寝息をたてて眠る義姉のエメラダ=四ツ木が居る。名前から察する通りハーフで日本人の父とアメリカ人の母から産まれたらしくて、俺は養子縁組だと伝えられてきた。


 それで俺は四ツ木 東眞あずま、先述の通り四ツ木家の養子縁組だがそこら辺の記憶は無い。俺が四ツ木家に来たのは一歳の頃だからね。


 大阪から東京間を結ぶリニアモーターカーの静かな車内で一瞬見える富士山に目をやる。そこにはワイバーンや龍の類のモンスターがわんさか居るのが目に見える。


 そう、世界は魔法が使えたり、ハイキングコースにゴブリンが現れたりとファンタジー化してしまったのだ。


 そして直ぐにトンネルに入って行き、窓の外が真っ暗になる。俺は閉じた文庫本に再び目を通す。


 姉のエメラダは四ツ木家の中でも最強の部類に入る。俺はその護衛であり別の役割も果たしている……。


「エメラダ姉エメラダ姉、もうすぐ東京だよ」


 いつもより大分優しい声でエメラダを起こす。エメラダはハーフだけあって身長こそ小さいものの金髪である事やダイナマイトボディである事など随所に特徴が現れている。


「ふぁ~……眠い」

「眠いじゃないよ姉さん! 四ツ木家の実家の人が迎えに来るんだよ! しゃんとしないと!」

「あーはいはい」

「全く……」


 黒色黒目の少し強面の弟と金髪に碧眼の義姉で全く似ていないが、どこか似ている。少なくとも魔法に精通したものなら2人は同じだと言っているだろう。


「あー、本家に行くとか固っ苦しいんだよなー……」

「姉さんは直ぐそうやって愚痴るから『毒素生成機』とか呼ばれるんだぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る