アリスに本を薦められる
「また来てしまった」
また俺は図書室に来ていた。
そこにいるとアリスが空中にプカプカと浮かんでいた。
本を読んでいる。
『また来たのね。迷える子供さん』
「なんだその言い方・・・・・・」
『貴方を現した言葉』
「迷える・・・・・・ねぇ。まあ心辺りはあるっちゃあるが」
『それよりも貴方。本は読まないの?』
「悪いが漫画専門なんで」
『そうみたいね。だけど図書室に来てるんだから折角だから読まないとおかしいわよ』
「んな事言われても・・・・・・」
『貴方が言ってる事はファミレスで自炊した弁当を持ち込んで食事するような物よ』
「どう言う例えだおい・・・・・・いや、分かりやすいけど」
確かに彼女の言う通りでもある。
何か本を読んだ方が良いのだろうか。
『とにかく、読みたい本を好きなだけ時間を掛けて読めば良いの。だけど、どれを読めば良いのか分からないみたいね』
「まあそんな感じだな」
周囲を見渡してそう呟く。
本が沢山あってどれから見れば良いのか分からない。
『困ってるわね』
「ああ。初心者にも読める入門編みたいな奴がいい」
『分かったわ。じゃあこれね』
そして一冊飛んで来た。
事典並に分厚い。
「これは――」
『二十世紀と二十一世紀の境目ぐらいの時期に世界中でベストセラーになった小説のシリーズよ。多くの子供達の間に親しまれた本。偉大な魔法使いの血を受け継ぐ少年が虐待されながら育てられて、ある時魔法の世界へと導かれて魔法の学校へと入学する事になる。だけどそれは壮大な物語の始まりに過ぎない。それは第一作目の物語』
「全部見るのか?」
『うん。急いで見なくていいわ。時間を掛けてじっくり読むの。貸し出しの処理は此方でやっとくわ』
「出来るのか?」
少しばかり感覚は麻痺しているが彼女は本の精霊と言う凄い存在であるらしいが、学校の関係者には見えない。
勝手にそんな事出来るのだろうか?
『私は本の精霊。本が多ければ多い程に、図書室や図書館と言う概念がある場所では全能に近い力を発揮できるの』
「成る程――それでここを根城にしてた不良にご退場願ったわけか」
言葉通りに何でもありならその程度造作も無い。
どんな方法を使ったまでかは知らないがきっと想像もつかないような方法だろう。
『あら、意外と物分かりいいのね』
褒めているがクスクスと小馬鹿にするような笑みは止めてくれない。
何か逆に馬鹿にされた気がする。
『ともかく感想待ってるわ。一応貸出期限は一週間だけど好きなだけ延長できるわ』
「ああ・・・・・・で、早速読まないとダメ?」
『本を読む場所で貴方は何をしたいのかしら? 勉強でもするの? それともスマフォでゲームかしら?』
「はぁ・・・・・・分かったよ。やるよ」
諦めて俺は時間いっぱいまで本を読む事にした。
家に帰ってもアレだしな。
そしてアリスは俺のスマフォを取り上げて弄くっている。
「何やってるんだ?」
『私ね。WEB小説って言うのを一度読んでみたかったの』
「そう」
俺はあまりWEB小説も読まない口だ。
クラスの誰かはWEB小説から書籍化デビューを目指すとか言ってたが、そんなんでプロになんか本当になれるのか疑問である。
そして静かな時間が訪れた――
お互いに形は違えど、文章に熱中する。
ある意味これが図書室の本来の姿なのだろう。
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