アリスと人生相談

 アリスには不思議な魅力がある。

 人を小馬鹿にする態度で、自分が気にしている事をズケズケと言う。

 だが同い年の中学生にはない、魅力や教師からは感じられない大人らしい雰囲気があった。


 何だかんだで放課後、また足を運んでしまった。

 

 家にあまり帰りたく無いと言う理由もある。


 認めたくはないが彼女に興味が湧いたと言うのもあった。


『貴方あんなイヤな思いをしたのにまた来るなんて変わってるわね』


「ほっといてくれ。ここはこの中学で唯一の安らぎの場なんだ」


『みたいね。ここの学校の子供達も大人達も皆屑ばかり。見ていて嫌になるわ』


「へぇ。話が合うな」


『そうね』


 クスクスと宙を浮かんで周囲を本をクルクルと遠隔操作しながら図書室中の本を整理する。正直異様な光景だ。


「何か知らず知らずのウチに薬物でも決めたのかな・・・・・・一回病院行った方がいいのかな?」


『じゃあ診て貰えばいいじゃない』


「やめとく。めんどい。それに――幻覚でも何でも良いから話し相手が欲しかったところだし、深く考えないでおく」


『面白い人ね』


「褒めてんのか貶してるのか・・・・・・」


『ねえ? どうして貴方は図書室で本を読まないの?』


「一々痛いところ突いてくるな。見たいと思う本が無いんだよ」


『私が出て来てなかったら延々と独り言言いながらこの図書室で好きなだけ寛いで卒業してそうね貴方』


「俺だって好きでそんな人生歩んでないんだよ」


『それはそうね。部活とかはしてないの?』


「面白そうな部活が無いんだよ。バスケ部もぶっちゃけ親の機嫌取りで入って、ユニフォームやら何やら買って貰って部活変える踏ん切りも付かなくて。だからと言って他にやりたい部活もなくて幽霊部員なんだよ」


『こうして話してみると大変なのね。現代の子供達は』


「何だ? 他人のせいにするんじゃねえとか言う場面だろここは」


『ううん。大人の都合を押し付けられて押し潰されそうになってる可哀想な子供だもん、碇君は。私は子供の味方。碇君は子供。例えどんな人間でも私は貴方を肯定するわ』


「・・・・・・」


 不思議な気持ちだった。

 アリスと呼ばれた青いドレスの少女に対する憎しみが消えていく。

 何故だか涙が出て来た。

 

『辛かったのね。貴方だけじゃない。今の世の中の、豊かな国の子供ですらもまだまだ苦しみを抱えている。それが無くならない限り、私は消滅できない』


「なに・・・・・・いってんだよ・・・・・・ひくっ!」


『アリスは子供達の願望の象徴だから。その願望がなくならない限り消えることはないの』


「・・・・・・呪いじゃねーのかそれ」


『かもしれない。けど私は望んでそうなった。それが私の正体。今ならエゴイストの一言で片付けられるわね』


 暫くの沈黙。

 そして俺はふとこんな事を言ってしまった。


「・・・・・・そう言えばエゴイストの言葉の意味ってしらねーな」


 シリアスな空気が崩壊。

 アリスは大笑いした。


「そんなに大笑いする事かよ!?」


『だってあんなシリアスな話な後で普通そんな事言う? そんなんだと彼女はできないわよ?』


「ほ、ほっとけ! 俺だってその気になれば彼女の一人や二人ぐらい」


『一人はともかく、二人も三人も作ったら人として最低よ』


「そ、そりゃそうだけど・・・・・・」


『貴方ここに通いなさい。少なくとも私ぐらいの少女を口説き落とせるぐらいじゃないと彼女は作るなんて夢のまた夢。まあセックスの道具と見ている男にできた所で長続きはしないでしょうけど』


「ほっとけ! てか本当に独り言ずっと聞いてきたんだな!?」


 そりゃ「セックスしたい」とかほざいた事あったけどさ。

 あえて言わないのが礼儀ってもんでしょアリスさん。


『子供だからといって甘やかしちゃダメなのは貴方が一番よく知ってると思うけど?』


「それは――」


『私は子供の味方だけど、子供のやる事成す事、全てを肯定する気はないわ。悪い事をしたらメって叱り付けなきゃダメ。その果てがこの学校みたいな有様でしょ?』


「確かにそれはそうだけど・・・・・・てかメッとか言う人初めて聞いた」


『ふふふ、それもそうね。笑いの取り方が上手いのね貴方』


「それは褒められてるのか? 貶してるのか?」


『さあどうかしら?』



 俺は帰路についた。

 そこで図書室での不思議な出会いについて思いを馳せる。

 図書室のアリス。

 むかつく時もあるけど、悪い奴ではない。

 見た目は子供なのに中身はとても大人。

 

 少女がクラスの担任だったならば学校生活は多少はマシになっただろうか?


 そう思いつつ俺は帰路につく。

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