図書室のアリス

MrR

アリスとの出会い


 アリスとの出会いは本当に偶然だった。

 中学生になってはや一年が経過しようとしていて、小学校の頃から何も変われず、自分の夢どころか将来どうしたいのかも分からず。漠然と中学時代を過ごしていた。

 

「大震災でも戦争でも何でも起きてくれないかな」


 ポツリとそう呟いた。

 僕は中学と言う現実に疲れ切っていた。

 まるで発情期の動物の様に授業中でも口うるさいクラスメイト達。

 裏で行われているイジメの横行。

 そんな環境にいるせいか勉強する意義も見いだせず、ダラダラと親のご機嫌取りのためにバスケ部に入ったが今では幽霊部員。


 今では昼と放課後にこの図書室に入り浸るのが学校でのが唯一の癒しの時間となったのだ。


 家では兄が親とケンカばかりしていて、その影響か自分にもきつく当たる。兄のようにしたくのないだろうと思った。

  

 ふと何気なしに本を見渡す。

 最近の図書室ではラノベも置いてあるがそれを読もうとは思わなかった。

 ラノベ読んだらオタク扱いされて馬鹿にされるからだ。


 漫画やエロ本は良くてラノベやアニメ雑誌はアウトらしい。

 どうしてなのかはよく分からなかったが、オタク扱いされたらアニメオタクだけでなくアイドルオタクでメイドオタクにされるからだ。認定された本人が否定しても周囲がそう言ったらそれが真実なのである。

 理屈的には犯罪者の身内がいたら一族郎党犯罪者と一緒である。


「たく、PTAも教育委員会も碌に仕事しやがらねえ。教師もなにやってんだ。対応が手温いんだよ」


 愚痴りながら小説を見まわしていく。

 周囲は難しそうな小説ばっかりで読みたいと言う本は何も無い。


「・・・・・・タバコとか落ちてるし、ここ不良の溜まり場かよ」


 隠れて誰かが吸ってたのだろう。

 ふとタバコを見付けてしまった。

 不良は社会のゴミだ。死んだ方が良い。法律で許されるのなら殺すとまではいかなくても半殺しにして回りたいぐらいには思っている。

 それぐらい不良は嫌いだ。


「て、ちょっと待て。タバコがあるって事はあのクソどもがいるって事だよな?」


 ふと慌てて周りを見渡す。

 タバコがあると言う事は自由にタバコを吸える環境だと言う事だ。

 つまり不良の溜まり場と言う事になる。実際夏場の昼休みの図書室は酷いもんだった。図書室のクーラー目当てに不良が溜まってくっちゃべって犯罪暴露祭をするのだ。


「・・・・・・いないのか?」


『ふふふ、おかしな人。さっきから見てたら誰もいないのに一人でブツブツ言って・・・・・・』


「ッ!?」


 声がした。

 幼い少女の声。

 クスクスと笑って僕を見下ろしていた。

 

 その少女は青いドレスを身に纏い、青くて丸い帽子を被り、赤いリボンを後頭部に付けていた。

 とにかく可愛いとしか言いようがない美少女の顔。

 背丈は小学生ぐらい。

 

 中学校でこんなファッションしていたら普通じゃない。

 間違いなくイジメの対象になる。イジメはやる奴に責任があるのではなく、される方に責任がある。

 

 だが宙に浮かび温かかな緑の粒子を撒き散らし、複数冊の本がプカプカと浮かんでいる。


『よろしければそのタバコ捨てて置いてくださる?』


「あ、ああ」


 ニコッと笑みを浮かべた。

 クソみたいな女に囲まれてきたせいか、この表情に何故だかキュンとしてしまった。ロリコンになる奴のキッカケとは現実のクソみたいな女に疲れた奴が超絶美少女と出会う事で誕生する一種の化学反応かもしれない。


『あら、驚かないのね?』


「いや――十分、驚いてる。驚いてるんだけど、上手く言葉が・・・・・・」


『嘘付くのが下手なのね。将来苦労しそうだわ』


「そ、そう?」


『何時も貴方の事見てた。図書室に来て何もせずダラダラブラブラとして時間を持て余しているようだった。だからちょっとこっちから歩み寄ってみたの』


「全部見てたの?」


 再び彼女はニッコリと笑みを浮かべる。


『うん。全部全部。見てて飽きなかったわ。今考えてる事とか全部口に出しているもの』


「そ、それは――」


 そう言われて恥ずかしくなった。


『私はアリス。貴方の名は?』


「え?」


『ほら名前。礼儀通りに相手が自己紹介したら自分も名乗り帰すのが礼儀よ』


「あ、その、い、碇 リョウト・・・・・・」


『そう。いい名前ね』


「名前で褒められたのは初めてだ」


『ほら、やっぱり考えてる事が口に出てる。探偵とか警察とかには向いてないわね』


「そ、そう――」


『それに性格も屑ね』


「え?」


 突然屑認定されて俺は驚いた。


『独り言で『大震災でも戦争でも何でも起きてくれないかな』とか言う奴を屑じゃなかったら何だと言うのかしら?』


「そ、それは――」


 確かに言われる通りだ。

 客観的にどう考えても屑である。


『余程退屈で羨ましい人生を歩んでるのね。知ってる? 世の中には小学生ぐらいの年齢には傭兵にならないとマトモな暮らしが出来ない子友達が沢山いるの。それに比べたら貴方の悩みなんて贅沢にも程があるわ』


「んな事言われても・・・・・・わかんねえよ。他所は他所、ウチはウチだろう」 

 

『ふふふ、そうね。この倫理だと豊かな国の人間は皆、間接殺人者になるわね。ごめんなさい。ちょっとからかってみたかったの』


「からかってみたかったって・・・・・・お前なぁ、大体何なんだ? 突然現れておちょくって?」


 少し頭に来て話しかけた。

 それでもアリスは態度を崩さない。ただただクスクスと笑い続けるだけだ。


『意外とせっかちさんなのね。それにキレやすい。一度立場が下だと思った相手には付け上がって日頃の鬱憤をぶつけるタイプね。屑の鏡だわ』


「ケンカ売ってるのかお前!?」


『真実を指摘されて逆上する辺り屑さに拍車を掛けてるわね』


「~~~~!! 何なんだお前は!?」


 大人げないと分かっていても碇がこみ上げてくる。

 人を小馬鹿にした態度がとても尺に触った。


『さっきも紹介したはずよ。私はアリス。今はこの図書室の主をやってるわ』


 これがアリスと俺との出会いの物語だ。



 



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