ステータス異常【石化】 第11話
宿屋の一室の中で、八年経って成長し、ギマよりも大きくなったぼくは、あの頃のままの姿をしているギマに向かって、深々と頭を下げていた。
「ごめん! ギマがこんなことになってしまったのは、ぼくのせいなんだ。あの時ぼくが嘘を吐かなかったら、こんなことにはならなかった。謝ってすむことじゃないのはわかってる。でもごめん! 本当にごめん!」
ぼくの瞳から涙がぼろぼろ零れだす。この涙はぼくのエゴだ。ずっと謝りたかったという、ぼくの身勝手な思いの発露の涙だ。ぼくは今、泣いちゃいけない。泣く資格なんかない。こんなことになって泣きたいのはギマの方なんだ。ぼくが泣くのはおかしい。だから泣き止め! いくらそう念じても、ぼくの瞳から涙はとめどなく零れ続けた。
「お前は嘘を吐かないやつだと思ってたんだけどな。お前でも嘘を吐くことがあるんだな」
「ごめん、ごめん……」
何度謝罪の言葉を口にしても、謝り足りなかった。
「もう顔を上げろよ。お前は充分謝った。だから許す」
「ごめん、本当にごめん……!」
嘘を吐いたあの時、ギマなら、後になってギマに嘘がバレたとしても、謝ったらほぼ間違いなく、許してくれるだろうということが、ぼくはわかっていた。ギマはそういうやつだって知っていたから。後で謝ったら許してもらえる。ぼくはそんなずるい計算をした上で、あの時嘘を吐いたんだ。ぼくがギマに対してやったことは、卑怯で最低な行為だった。
「馬鹿だなお前。フウリはお前のことが好きだったのに」
ギマがなにを言っているのか理解できず、思考が停止する。
「え? なに言ってるんだよ。フウリがぼくなんかを好きになるわけないじゃないか。好きになるとしたら、ギマに決まってた」
「いいや、そんなことねえよ。だってお前の方が、おれよりもよっぽど強くて格好良い男だからな」
「ぼくがギマより強くて格好良い? そんなわけないじゃないか。ギマは勉強も運動も見た目もけんかだって、なにもかもぼくよりも優れていたじゃないか」
「買いかぶりすぎだ。おれは強くなんかない。おれはおれよりも強いお前に憧れてたんだから」
ぼくは驚いて目を瞠る。
「ギマがぼくに憧れてただって!? 一体なにを言ってるんだよ。憧れてたのはぼくの方だよ」
「お前おれに憧れてたのかよ。ははっ! おれたち、お互い憧れてることに気づいてなかったんだな。おれがお前に憧れてたのは本当だ。デラと揉めた時から、お前はおれより強かった」
「どこがさ。忘れてるみたいだけど、あの時ぼくはデラに殴り倒されて蹴られて蹲ってただけで、デラとけんかして勝ったのは君の方だ」
「忘れてねえよ。確かにお前の言う通りだ。でもおれはあの時、デラにけんかで勝つ自信があったんだ。だからデラを挑発してけんかをふっかけることに、少しの恐怖も感じてなかった。でもお前は違うだろう? お前は自分がデラにはけんかで敵わないと思ってた。違うか?」
「そうだけど、それがどうしてぼくが強いことになるのさ」
「あの前の日にもデラに殴られて脅されてたんだろ? お前あの時デラに殴られて震えてたじゃないか。怖かったんだろ? それでもお前は自分よりも強い相手に立ち向かったんだ。だからお前は強いって言ってるんだよ」
ギマがぼくのことをそんな風に思っていたなんて。まさか、ぼくが憧れていたギマが、ぼくに憧れていたとは思ってもみなかった。
「でもまだわからないよ。どうしてフウリがぼくのことを好きだったと思うの?」
「フウリがプーカバニー族の子供たちに、石を投げられてたのを助けた時のこと、覚えてるか?」
「覚えてるよ。あの時だって、フウリをいじめてたプーカバニー族の子たちを一人でやっつけたのはギマじゃないか。ぼくは見てただけだ」
「そこじゃねえよ。その後、ヴァルチャーに襲われただろ? ヴァルチャーが、転んだフウリを攻撃しようとしたあの時、お前は迷わずフウリを助けに行っただろ? おれも助けに行こうと思えば、助けに行ける状態だった。でもおれは助けに行かなかった。怖くて行けなかったんだ。ヴァルチャーを一目見た瞬間、このモンスターには敵わない、すぐに逃げるべきだって戦意喪失したんだ。おれはあの時恐怖に負けて、フウリを助けに行けなかった。でもお前は、死ぬかもしれなかったのに、身を挺してフウリを助けに行った。大怪我までしてフウリを助けたじゃねえか。あんな格好良い助け方されて、惚れない女がいると思うか? フウリはおれなんかより、よっぽど強くて格好良い、男の中の男に惚れたんだ。臆病者のおれに勝ち目なんてあるわけなかったんだよ」
ギマの言うことに一理あるとは思ったものの、それでもやっぱりぼくはまだ納得がいかなかった。
「今の話を聞いてもまだ信じられないよ。どんな遊びもすぐに上達して、フウリにすごいすごいって言われてたギマじゃなくて、フウリがぼくのことを好きだったなんて」
「お前気づいてなかったのかよ。お前が命懸けでフウリを助けてから、フウリのやつ、いっつもお前の隣にいるようになったじゃんか」
フウリがぼくの横に、よくいることには気づいていた。でもフウリがぼくのことを好きだから、ぼくの隣にいるだなんて思いもしなかった。ギマは放っておいても勝手に上達するけれど、なにを教えても、なかなか上達しないぼくをフォローするために、フウリはいつもぼくの傍に居てくれてるんだと思っていた。フウリのただの気遣い、優しさだと思っていた。ぼくがフウリのことを好きになってからも、フウリのギマを見る瞳は、いつもきらきらしているように、ぼくには見えていた。あの頃のぼくは、ギマに対する強烈な劣等感に苛まれていた。だから、あの頃のぼくの目は、フウリのことを穿った見方でしか見れないようになっていたのか。
「おれはお前がフウリを好きになってたことには気づかなかったけど、フウリのやつはわかりやすかったぞ」
「フウリがぼくのことを好きだと思ってたんなら、どうしてフウリに告白しようと思ったの?」
「フラれるのはわかってたけど、それでも自分の気持ちはきちんと伝えときたかったんだ。おれが本気でフウリを好きだってことをフウリに伝えたかったから、フウリに恋人にしてもいいって認めてもらうために必要だって、お前が言ってたエルファリアの花を摘みに行ったんだ」
「ギマの話を聞いても、ぼくはやっぱりフウリはギマのことが好きだったと思うよ。ギマだって、フウリがぼくのことを好きだって言ってたのを、フウリから直接聞いたわけじゃないんでしょ? ギマがそう思ってるだけで」
「わっかんねえやつだなお前も。よし、だったらフウリに直接訊きに行こうじゃねえか」
「いいよ。わかった」
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