盾 第12話


 ぼくはまたソプラナと二人だけになり、旅を続けていた。ぼくたちは今野原の草の上に座り込み、小休憩を取っているところだ。空は気持ちのいい晴れ空である。

 アシュがいなくなったぼくらの旅は、賑々しさが減り、ぼくはそれが寂しかった。いなくなってから、今ここにアシュがいたら、こう言うだろうなあ、等と考えてしまう自分がいた。

「今日は天気がよくて気持ちがいいね、アシュ」

 ソプラナが首から提げているペンダントを持ち上げ、ペンダントに話しかけた。ぼくたちはルグリムさんにアシュの破片を渡して、ペンダントを三つ作ってもらった。そしてそれを一人一個ずつ持つことにした。

「そういうの気持ち悪いんじゃなかったの?」

 ぼくが以前、盾のアシュに話しかけて、会話していると言った時、ソプラナはぼくのことを気持ち悪がっていたはずだ。それを棚に上げ、ソプラナはしれっと言ってのける。

「なに言ってるのよ。アシュはわたしの妹なんだから、アシュに話しかけるのは別にいいの。ねーアシュ」

「そうだね。ぼくたちの妹だ」

 アシュはぼくの妹であり、ソプラナの妹でもある。でもぼくとソプラナは別に兄妹というわけではないという、少々複雑な家族関係だった。

「アシュはアセビのことを兄妹だとは思ってなかったわよ」

「え!? そんなはずないよ。アシュはぼくのことを本当のお兄ちゃんだと思ってるって言ってくれてたよ!?」

「それ嘘だから」

 ぼくはアシュとの間に家族と同等の絆が築けていたと思っていた。ぼくはショックを受けて肩を落とす。

「アシュは初めからアセビのことが好きだったけど、最初の頃は自分の気持ちが恋なのかなんなのか、あの子わかってなかったでしょ? わたしたちがアシュを孤児院に預ける預けないでけんかした時、アシュはあたしたちの怒鳴り合いを聞いてたらしくて、自分のことを一生懸命に守ろうとしてくれたアセビのことが好きになったって、あの時から自分のアセビに対する気持ちが恋なんだって自覚したって言ってたわ。アシュはアセビの妹じゃなくて、恋人になりたがってたのよ。アシュがわたしにアセビに恋しちゃったみたいなんだけど、どうしようって相談してきた時、わたしはアセビには他に好きな女の子がいるって知ってたから、そのことをアシュに伝えたんだけど、それでもアシュはアセビに対する気持ちを抑えきれないから、自分の方に振り向かせたいって言うから、わたしアシュを応援することにしたのよ」

「ちょっと待って! どうしてソプラナはぼくに好きな女の子がいるってわかるのさ? そんなことソプラナに言った覚えがないんだけど」

「そんなの見てたらわかるよ。アセビは――」

「な!?」

 ソプラナにぼくが好きな女の子の名前をずばり言い当てられ、ぼくは赤面する。ぼくってそんなにわかりやすいのだろうか。

「ちょうど豊穣祭をやってる村に行った時、ここがチャンスだと思って、アセビの気を惹くために大人っぽい民族衣装を着て、化粧してみたらって、アシュにアドバイスしたの。それで祭りが始まる前の昼間の内に衣装を買いに行って、できるだけ大人っぽく見えるように、あたしとダータがメイクしてあげたわ。そして仕上げに祭りの時に、アセビとアシュの二人きりにしてあげたんだけど。祭りから宿屋に戻ってきたら、アセビに妹だと思ってるってはっきり言われたって言って、あの子あたしの胸に飛び込んできてわんわん泣いて、慰めるの大変だったんだから」

 あの時ぼくは、アシュの気持ちに気づかずに、アシュのことを傷つけてしまっていたのか。

『あたしもアセビのこと、本当のお兄ちゃんみたいだと思ってるよ!』

 アシュはどういう気持ちであの言葉を口にしたのだろう。一緒に祭りを見てまわってた時、アシュはずっと祭りを楽しんでくれているとぼくは思っていた。あの時本当はどんな気持ちでぼくと二人で祭りを見ていたんだろう。あの時ぼくに振り撒いてくれてたあの笑顔の裏で、本当は泣いていたのかと思うとぼくは胸が苦しくなった。

「ペンダントを大事にしていたら、いつかまたアシュが人間の姿になって、わたしたちの前に現れてくれるって、わたしは信じてる。次に会う時はもしかしたら妖艶な美女に成長してるかもしれないよ?」

 首からペンダントを持ち上げて眺めてみる。ペンダントのアシュは、今もぼくたちの会話を聞いていて『見てろ! いつか見返してやるんだからな!』と言っている気がした。

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