盾 第10話
旅の途中に立ち寄った村が、ちょうど祭の日だった。豊作を願う、豊穣祭という祭りだ。折角なので祭りを楽しもうということになった。村人によれば、祭りは夜から始まるとのことだった。祭りの日だから宿の部屋が満室になることを危惧したぼくたちは、祭りが始まる前に、先にまず宿に行って部屋を確保することにした。宿に向かって歩いていると、ぼくの前を行く女性陣が、なにやら三人でこそこそと話し合い始めた。どうやら二人は密談する仲間にダータも引き入れたみたいだ。ぼくは三人に歩み寄る。ぼくが近づいてきたことに気づいた途端、三人は話を中断する。ますます怪しい。
「なに話してたのさ」
「別に、なんでもないよ」
「またぼくだけ仲間外れにして密談? また内容教えてくれないっていうの?」
「ちょっと邪魔だから、あっち行っててよ!」
ソプラナが苛立った声でぼくを拒絶する。
「どうしてぼくだけ仲間に入れてくれないのさ? 酷いよ」
ぼくは仕方なく、三人から離れて歩くことにした。またしても邪険にあしらわれて、ぼくは疎外感を感じて落ち込んだ。
日が暮れて、祭りが始まる時間になる。女性陣から準備に時間がかかるから少し待っていてと言われて、ぼくは宿屋の前の通りに立ち、女性陣が来るのを一人で待っていた。暫く待っていると、宿屋の入り口からアシュが一人で出てきた。いつもとは違うアシュの服装に、ぼくは目を奪われる。アシュはこの辺りの地域特有の民族衣装に身を包んでいた。白を基調としているワンピースで、体の前面と背面は青い。金色の腰帯を巻き、衣装の横面には、足首から太ももの付け根にまで、深いスリットが入っており、アシュの健康的な足が覗いていた。顔には化粧もしている。いつもと違う格好の自分の姿を見られることが恥ずかしいのだろう。もじもじしながらぼくの前に出てきたアシュが、ぼくをちらりと見上げる。
「その格好どうしたのさ?」
「昼間の内に買っておいたんだ。お化粧はソプラナとダータにしてもらったの。それで、どう、かな?」
ぼくは笑顔を浮かべて素直な感想を言う。
「アシュにとっても似合ってる。可愛いよ」
「本当!?」
「うん」
ぼくが肯定すると、アシュは嬉しそうに相好を崩した。
「ソプラナとダータは?」
「なんか二人で見に行きたい催し物があるって言って、先に出かけちゃったよ」
「そっか。じゃあ二人で行こうか」
「手繋ごうよ」
ぼくは首肯してアシュと手を繋ぎ、アシュと二人で祭りに出かけた。村の広場が祭り会場になっていて、たくさんの出店や屋台が軒を連ねていた。屋台から様々な食べ物の匂いが漂ってきて、鼻腔をくすぐっていく。祭りを見に来た人たちの多くが、アシュと同じく伝統的な民族衣装を身に着けている。親に連れられて祭りに来た子供たちが、走り回ってはしゃいでいた。祭りを楽しんでいるたくさんの人たちとすれ違う。
「あたしたちってさ。周りからどういう風に見られてるかな?」
「仲の良い兄妹だと思われてるだろうね」
「アセビは? アセビはあたしのこと、どういう風に見えてる?」
「ぼく? 人間になって現れた時は驚いたけど、今では元気で可愛い妹ができたと思ってるよ。アシュとここまで旅をしてきて、ぼくはアシュと本当の兄妹みたいになれたと思ってる。アシュはどう?」
アシュが一瞬だけ真顔になって黙り込む。すぐにまた笑みを浮かべたアシュが口を開く。
「あたしもアセビのこと、本当のお兄ちゃんみたいだと思ってるよ!」
嬉しいことを言われて、ぼくの頬が緩む。
「そっか」
「うん! アセビお兄ちゃん、あたしあれ食べたい」
祭り会場に行けば、その内ソプラナとダータと合流できるだろうと思っていたのだけど、結局二人とは最後まで会えずじまいで、ぼくはアシュと二人で祭りを楽しんだ。屋台で食べ物を買って食べ、出店で様々なゲームを楽しみ。仮装した村人たちと山車によるパレードや、花火を見たり。櫓の上で楽隊が奏でる音楽に合わせて、櫓の周囲をたくさんの人が踊っているのを見たアシュに「あたしたちも踊ろう!」と手を引かれて、二人で踊った。アシュは終始、楽しそうにはしゃいでいた。
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