第14話 内政改革

「明日のことだが、王城で閣議が開かれるのだが、よければお主らも来ぬか?」

 アルベルティーニは唐突に切り出した。

「別に俺たちは構わないんだが、こんなわけわからん連中を閣議に入れて大丈夫なのか?元帥とかキレそうだが。」

「その辺は大丈夫だ。我らはとにかく出来るだけ多くのアイデアを必要としているんだ。お主らは我らに何度も斬新なアイデアを示しておるからな。ディ=ナターレ参謀長なども歓迎することだろう。」

「そうか、そっちが求めてくれるんなら行くしかないな。ところで、何についての閣議なんだ?」

「我が国は、知っての通り存亡の危機に瀕している。そこで、この危機を打開するために内政の抜本的な改革が必要なのだ。ここ数日はずっと話し合っておるのだが、なかなか良いアイデアが出なくてな。」

「なるほど....まあ、ちょっと夜の間に考えておくよ。」

「期待しておるぞ。」

「任せろよ!」

 宗次郎たちは食卓を後にすると、自分たちようにあてがわれた部屋に戻った。


「それじゃあ、早速三人で会議を行おう!」

 部屋に入るや否や、愛衣が会議を仕切り出した。

「そうですね。」

「何かアイデアがある人、挙手!」

 愛衣は何だか楽しそうな様子である。すると、すぐさま五郎八が手を挙げた。

「はい!五郎八ちゃん!」

「あの、私は物心ついた頃からもっぱら物理と化学の研究ばかりして来たから、政治経済とか文系的な知識は全然ないのです。なので戦力にカウントしないほうが良いと思うです。」

「あ、ははは、、、」

「仕方ないな、それならこの俺に任せなさい。.....って、そう言えば俺たち全員ゴリゴリの理系じゃねーか!!」

 製薬会社の研究者のチームで来ているのだから当然そうなる。三人はたちまち自分たちが、何一つ具体的なアイデアを持ち合わせていないことに気が付いた。

「ううむ。」

 三人はしばらく黙り込んでしまった。そして、ああでもないこうでもないとやり合って、結局ろくなアイデアは出なかった。


「というか、改革と言っても現状をあまり理解していなければ無理ですよね。」

 五郎八が指摘した。全く正しい指摘であった。

「確かにその通りね。」

「ちょっとアルベルティーニに聞いて見ましょう。」

 宗次郎はアルベルティーニを呼びに出て言った。

 ほどなくしてアルベルティーニがやってきた。

「我に我が国の現状を説明して欲しいと?」

「ああ、頼む。」

「よかろう。まず、我が国は古典的な君主制国家だ。君主専制の政治体制をとっており、国家の全ての機関は国王陛下の指揮下にあることになっている。行政は宰相を中心とした官僚が行い、軍事は陸軍元帥が全部門を統括する形になっている。軍上層部、高級官僚は我ら貴族によって担われている。軍人は皆、貴族である職業軍人で、兵士は貴族の所領から徴発した者と傭兵である。官僚も貴族によって構成されている。」

「なるほど...」

「税制はどうなっているんですか?」

 愛衣がすかさず質問する。

「良い質問だ。税は国家の生命線だからな。我が国は貴族が所領を与えられ、その領地で各々が徴税を行うことになっている。貴族が徴税した税を政府に納入するかわりに貴族は納税が免除されている。加えて、教会も納税を免除されている。」

「教会?」

「そうだ。この大陸では共通の神が信仰されているのだが、その中にいくつかの宗派があるんだ。そして、その中で最も古い伝統を持っているのがローチ教会だ。かつては大陸の全ての君主はこのローチ教会の教皇の支配下にあったくらいで、今なお強力な権威を持っている。このローチ教会の支配下にある修道院が各国の国中にあって、人々の生活に根付いているんだが、国民は教会にも税を納めなければならないのだ。」

「私たちの世界のヨーロッパもそんな感じでしたね。」

「ところで軍隊は海軍は無いのか?」

 宗次郎が尋ねる。

「我らの世界では大陸は一つしか無いから海軍の重要性はあまり大きく無い。勿論、あるにはあるがサヴォッリアのような小国は艦艇数も少ないから海軍は独立せず陸軍の管轄下にある。」

「なるほど。」

 こういった感じでサヴォッリアの現状について色々と聞くことができた。四人は深夜まで議論を続け、一応それなりのアイデアがまとまりそうなところまでいった。

「いやはや、もうこんな時間か明日も早いので寝ることとしようか。」

 アルベルティーニが時計を見て言った。四人は寝ることにした。


 翌日。窓の隙間から陽光が差し込んでいる。眩しさから三人は目を覚ました。三人が一階に降りると厨房から料理する音が聞こえてきた。

「フェデリカさん、おはようございます。」

「おう、おはよう!あんたたち今日はお城に行くんだろ?朝飯たくさん食って力つけな!」

「ありがとうございます。」

 フェデリカが朝食を運んできた。机では既にアルベルティーニが茶を飲んでいた。四人は朝食を食うと、着替えて早速出発した。愛衣はいつも出社するときに着ている綺麗目な感じの私服で、宗次郎はサラリーマンらしくスーツ姿で、五郎八は、いつもの白衣を纏って王城に向かった。

 煉瓦造りの通りを抜けて丘の方へ向かう。まだ早朝なので街に人(ゴキブリ)は少ない。数分の徒歩の後に丘上の城にたどり着いた。石造りの厳しい建築でビジュアル無骨さに全振りしたような中世の雰囲気を残す、大きいとは言えない建物であった。衛兵は陸軍大将アルベルティーニ=ダ=スパルヴィエロを見るなり敬礼し門を通した。三人はアルベルティーニについて城内に入って言った。石壁ばかりゴツゴツした殺風景な回廊を歩いていく。一階の中央部分の一際大きな扉を開いて会議室に入る。もともと食堂であった広間が会議室に用いられており、かなり横長い長方形の机に見覚えのある面々が並んでいた。日光が一切入らない部屋で、蝋燭で照らしていたが薄暗く、部屋の隅などははっきりとは見えない。

アルベルティーニは敬礼し着席する。三人もそれを真似て一礼して腰掛けた。会議のメンバーは、行政府の長、宰相ジュゼッペ=ベンソ、陸軍参謀総長のアルマンド=ディ=ナターレ大将、陸軍最高司令官のピエトロ=バデリオ元帥、そして侍従武官長のアルベルティーニ=ダ=スパルヴィエロ大将の四名である。軍人が占める割合が多いが、サヴォッリアにおいては文武に明確な分離が無いので、不自然なことでは無い。

「これはこれは、お三方よくぞ参られた。」

 ディ=ナターレが柔らかな物腰で挨拶をしてくれた。ベンソとバデリオは以前のように三人のことを快くは思っていないようで、不満げな視線を向けている。

「それでは、皆が揃ったところであるので、これより閣議を開始せんと欲す。」

宰相ベンソが進行のもと、いよいよ閣議が始まった。



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