第6話 王都燃ゆ

 四人が城内に入った時、王都は騒然としていた。


 「速く逃げろ!カファールの連中がじきに乗り込んでくるぞ。」

 父親であろうか、男が家族に避難を促していた。あちこちで、虚報と悲鳴が飛び交い、混乱は極まっていた。

 

 「まずいな。この様子では守備軍も指揮が乱れているだろう。」

 アルベルティーニは焦った様子でいう。

 「守備軍というのはどんくらいいるんだ?」

 「平常時は1万だが、カファールとの戦いの為に一部を抽出したから、五千程度だ。見たところ逃亡兵もかなりいそうだ。とりあえず急ぐぞ!」


 その時、歓声とともに街の一角に火の手が上がった。


 「カファール軍がもうここまで来ただと!?」


 カファールの歩兵が一斉に城下になだれ込んで来た。王都は悲鳴に包まれた。多くの市民が逃げ場を失い立ち尽くしている。カファール兵は容赦無く狼藉の限りを尽くした。


 「急げ!」

 四人は走りに走った。王宮の付近まで駆け抜けたが、街は完全に秩序を失っていた。王宮の門にたどり着くと精強そうな近衛兵が守りを固めていたが、その数は数百に過ぎなかった。

 「スパルヴィエロ大将!よくぞご無事で!」

 近衛兵の指揮をとっている様子の男がアルベルティーニに駆け寄った。二人は敬礼を交わす。

 「バルチェリーニ大佐!ご苦労!陛下は何処におわす?」

 「王宮内に未だおわします。」

 「ありがとう。では、後は任せたぞ。」

 「はっ!して、お連れのその者達は?」

 「信頼できる味方だ。詳細は後で話す。」

 アルベルティーニら四人は王の居室へ急いだ。


 王宮内も混乱に包まれている。身分の低いものも高いものも自らの荷物まとめに余念がなかった。四人は廊下を駆け抜け、王の間にたどり着いた。

 

 「国王陛下!アルベルティーニ=ダ=スパルヴィエロ大将で御座います!」

 「なんだと!?かの大将は戦死したのではなかったのか!?」

 「どういうことだ?」

 御前会議を開いていた十数人の忠臣がざわめいた。

 「入れろ!」

 国王ヴィットーリオ=スカラファッジオ2世が一喝した。

 「国王陛下!ご無事で何よりでございます!」

 「わしのセリフじゃ、それは!して、状況を説明せよ!」

 国王は冷静さを失っていなかった。一方、重臣達の間には悲観的なムードが漂っていた。しかし、国王の眼差しは、はっきりと未来を見ていた。アルベルティーニはこの様子に、サヴォッリア王国最後の希望を見た。

 「我らの軍はモンテノッテの戦いに敗北、壊滅しました。カッケルラーク軍はすでに退却しました。現在王都を守る我が軍は過少であります。敵軍はもう目と鼻の先まで迫っております。防衛戦で勝利できる望みは極めてうすうございます。斯くなる上は速やかに開城、陛下は避難なさるべきかと。」

 「何を申すか!?戦わずして降伏するだと!?」

 「勇猛で知られた陸軍大将も臆病風に吹かれたか!?」

 重臣達がアルベルティーニを糾弾した。彼らの目は悲壮感に包まれていた。

 「やめんか。防衛の望み薄なことくらいわかっておろう。国王のわしがすべき事は、国民を守る事である。速やかに降伏の旨を伝える使者を出せ。」

 「はっ!」

 重臣一同は流石に鋼鉄の忠義心を持っている。国王の命が下れば、すぐさま行動を執り行った。

 「国王陛下、こちらへ。我々が無事お逃しいたします。」

 「アルベルティーニ、かたじけない。して、どこまで落ちるのか?」

 「サヴォッリア島まで落ち延びれば、そこで再起を図れるかと。」

 「我らの、王国の根源地か。もう一度、一からのスタートというわけだな。」

 「必ずや捲土重来いたしましょう!」

 アルベルティーニは国王を連れて廊下に出た。廊下で控えていた人間三人はとりあえず恭しく跪いた。

 「この者達は?」

 「敗走し、追い詰められた私を助けてもらった勇士達です。彼らの強さは、私が保証いたします。」

 「そうか、よろしく頼むぞ。」

 「はっ!」

 三人は口を揃えて返事した。国王の放つ覇気に気圧されたのだった。

 「宗次郎くんよ。我々はこれより国王をサヴォッリア島までお送りする。よろしく頼む。」

 「任せろよ!」

 一行は王宮前に出た。

 「バルチェリーニ大佐!こちらへ!」

 「はっ!」

 「我々はこれよりサヴォッリア島まで護送する作戦を発動する。貴官の近衛兵団も同行せよ!」

 「はっ!」

数百の近衛兵が素晴らしい統制のもとで国王の周りを固めた。

 「降伏したといえど、その文書が受理されるまでおそらく数日はかかる。そしてカファールに既に降ったゼノヴァ公国を通過する必要がある。これは非常に危険な任務だが、我々は最後の一兵になるまで陛下をお守りする!」

 アルベルティーニは叫んだ。一同は歓声をあげた士気は十分に高い。


 宗次郎達はこの様子に圧倒された。もはや面白そうなどと言っていられる状況ではなくなった。ここは生と死をかけた戦いの世界である。


 「俺たち、戦うよな?」

 宗次郎は独り言のように呟いた。

 「当たり前です!こんなアツい展開見せられて逃げれるわけないです!」

 五郎八は力強い目で宗次郎を見ながら言った。愛衣も覚悟を決めたようにうなづく。

 「よっしゃあ。行くぞ!」

 この人たち相当肝が座ってるよな?宗次郎は思った。


 王都は夕日と炎で真っ赤に燃えていた。


 

 

 

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