第5話 いざ、王都へ
四人が降り立った場所は、都市からは少し離れた農村であった。その光景は人間の暮らす世界と何ら変わりない。丘陵を小道が貫き、その両側に小麦が植えられている。あたりの様子を見ると植物種もほぼ一緒だと言っていいだろう。最近のアニメなどでも自然は大体人間界と同じだが、異世界を特徴付ける決定的なものがある。それは魔法だ。宗次郎はそこのところを疑問に思った。
「ところでアルベルティーニ。異世界といえば魔法みたいな風潮があるけれども、こっちの世界には魔法はないのか?」
「おう、あるぞ。」
「マジで!?使ってみてくれよ!」
「もう既に使っているぞ!我の魔法は異なる言語を使うことができると言うものだ。我がお主らと会話し、文字を読めるのもこの魔法の力だ。」
なるほど、確かに違和感なく会話が成り立ったのはこのせいか。
「しかし、なんか地味だな。もっとこう、火を出したりとか出来んのか?」
「そんな非科学的なことは無い。」
「異世界もので言ってはならんセリフだろ!」
「その魔法って、私たちも使えないですか?」
会話を遮って、五郎八が入ってきた。
「誰でも使えるぞ!ある程度の教育を受けたものならな。」
そういうと、アルベルティーニは懐からテクストを取り出して、そこにある散文を読むと三人それぞれに呪文を唱えた。
「うわ!アルベルティーニどうしてお前そんなでかくなったんだ!?」
宗次郎たちの目から見るとアルベルティーニが巨大化したように見えた。
「それは、逆だな。お主らが小さくなったんだよ。この魔法は言語を理解できるというよりは、むしろ違うパラダイムを理解できるようにするという効果がメインだ。だから、お前らは我らの世界のパラダイムをより理解しやすいように見えるようになったのだろうよ。」
「確かに、そういえばお前あんまりキモくなくなったな。」
アルベルティーニは最早あの見慣れたゴキブリではなく、熟練の軍人のように見えた。そして、腹ばいではなく直立しており、背丈は175cmくらいといったところだった。
「すごいわね!」
愛衣は素直に関心している様子であたりを見渡している。三人の目にはこちらの世界がより違和感なく感じられるようになり、ゴキブリであるはずのアルベルティーニも、全く嫌悪感なく見られるようになった。
「しかし、御三方ともお気をつけなされ、現在、サヴォッリア領内深くまでカファール軍が浸透していると思われる。ここは、王都にほど近いので、敵兵も集まってくるやもしれん。」
三人を緊張感が包んだ。
「アルベルティーニ。今、サヴォッリアはどういう状況なんだ?」
宗次郎は尋ねた。
「まず、我々の大陸の状況を説明せねばならんな、我々の大陸は遥か昔には、ローチ帝国という帝国によって、ほとんどが征服されていた。しかし、それも1500年ほど前のことだ、今はいくつかの国が富国強兵を果たし、勢力均衡をはかり、同盟と戦争を繰り返している。。ローチ帝国の本拠地は、ルキフィガ半島という地方にあったが、ルキフィガは長い間、小国家が乱立し、統一されていない。サヴォッリア王国は、この半島の付け根に位置している。カファールはサヴォッリアの西側と国境を接する大国なのだが、数年前にクーデタが発生して王政が倒れ、帝政化した。各国はカファールの強大化を恐れ、干渉戦争を発動したのだが、サヴォッリアは反カファール同盟の盟主たるカッケルラーク二重君主国とカファール帝国の勢力の境目に位置したことから、すぐさま戦争に巻き込まれてしまった。という状況だ。」
「それで、カファールに攻められてるってわけか。」
「そうだ、ちょうど三日前、サヴォッリア、カッケルラーク連合軍は6万の兵力を以って、モンテノッテで迎撃作戦を発動したのだが、カファール軍4万5千の軍に破れ、敗走してしまった。モンテノッテから王都トリーノまでは三日あればついてしまう。我々は急ぎ王宮へ向かい陛下を救い出さねば!」
「ここから、王都まではどのくらいの距離なのですか?」
五郎八が尋ねた。
「走って3時間くらいだ。急ぐぞ!」
三人は街道を遮二無二、走った。農村は人気がなく静けさが漂っている。しばらく行くと森に入った、木が生い茂り、中は暗い。どうやら雨が降り始めたようで、周囲の音がかき消される。街道は木に覆われているため、ほとんど濡れていない。
「この先に十字路があって左手に集落がある。敵襲の可能性もあるので気をつけろ!」
アルベルティーニは軍人らしく号令すると、周辺の茂みに入り、索敵を始めた。
「あっ!あれは!?」
アルベルティーニは驚愕の声をあげた。
「どうした?」
「右側の街道、あれはカファール国境から続いているんだが、ここから2キロほど先の街道上に敵軍あり、一個師団はいる!」
「一個師団だと!?」
「一個師団って、どのくらいですか?」
愛衣はポカンとして聞いた。
「カファール軍の一個師団はおおよそ一万だ。」
「師団が進軍しているってことは、先鋒の部隊がもうこちらに.......」
五郎八がそう言った時、近くで樹々がざわめいた。
「伏せろ!」
アルベルティーニはそう叫ぶと、素早く抜刀した。
「遅い!お前らは既に、包囲されている!ハハハハハ!」
「カファール軍の者か!」
四人の周りを10人ほどのカファール兵が包囲していた。
「くっ!なんて速さだ!さすがゴキブリだぜ。」
「!貴殿は、サヴォッリア陸軍のスパルヴィエロ大将ではありませんか。負け戦の後に一人逃走したかと思えば、こんな珍奇な連中とつるんでおりましたか。なんと滑稽な。」
「己!」
「かかれ!!」
カファール兵は一斉に襲いかかってきた。
「はっ!!」
アルベルティーニは素早い身のこなしで目の前の敵を一気に二体倒したが、敵が多すぎる。その上、3人を保護しながらの戦いなので、防衛に徹さざるを得なくなった。
「さすが、大将なかなかおやりになるな。」
カファール兵の分隊長と思われる敵がアルベルティーニに剣を打ち込む。
「お主も、その舐めた態度もうなずけるなかなかの手練れだな。」
「私たちは、カファール最強の部隊、近衛歩兵軍の者だからな!ここが、お前らの墓場となろう。」
「くっ!」
アルベルティーニは、分隊長との一騎打ちに忙殺されて、3人の守備がおろそかになってしまった。その時!
「宗次郎くん!後ろ!?」
愛衣が叫んだ。宗次郎の後ろから、敵兵が飛びかかってきた。
俺、もう死ぬのかよ。そう思った。
「先輩!伏せろです!」
宗次郎はとっさに伏せた。
「くらえーー!シューーーーーーー」
五郎八は隠し持っていたスプレーを噴霧した。すると、敵兵は這いずり回る暇もなく事切れた。
「五郎八!」
「先輩たちのぶんもありますよ!」
そういうとスプレー缶を二本取り出し、二人に渡した。
「ありがとう、五郎八、あとは任せろよ!」
襲いかかってくるカファール兵。しかし、どうだ?いつも倒してきたゴキブリだろ?そう見ると、いつも見慣れたゴキブリの動きに見えてきた。宗次郎はいつもの華麗なスプレーさばきで敵兵を一体、二体と素早く倒した。
「かかってきやがれ!」
「な!なんだこいつら?」
カファール兵の間に動揺が走る。
「宗次郎くん!我も負けとられんな!うおおおお!」
アルベルティーニは、より一層の気迫を剣に込め、切りかかった。
カファール兵はさすが精鋭だけあって、怯まずに進んできた。そして、ゴキブリなので、とにかく素早かった。
「九戸先輩!右です!」
「きゃっ!こっち来ないで!」
愛衣は、ゴキブリを怖がるごく普通の女の子。みたいなセリフを発してはいたが、セリフを言い終わる頃には、強烈なキックを敵の顔面に入れていた。敵はたちまち潰れてしまった。
「先輩、さすがです!」
「あら!とっさに蹴りを入れてしまったわ。スプレー持ってるのに、うふふ。」
「二人とも、イチャついてる暇があったら、戦ってください!」
そういうと五郎八は、敵に突っ込み、スプレーを浴びせかけた。
「いちゃついてねえよ!」
愛衣は蹴りをかます。
「うるあああ!」
アルベルティーニは最早、3人のことを気にせず、全力を眼前の敵にぶつけた。
アルベルティーニの剣は敵の剣を打ちくだき、その身体を両断した。
これで、周辺の敵は一掃された。
「御三方とも、我はなんと心強いお味方を得たことでしょうか。」
アルベルティーニは嬉しそうであった。
「お前も、すげー強いんだな!びびったよ。」
「かたじけない、それでは、一気に王都に向かおうぞ!」
「おう!」
3人は声を合わせた。森を抜けると、すぐに王都の城壁が見えた。四人の心は興奮で包まれていた。
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