ダシェラ
★☆★☆★
雑居ビルのエントランスをでた途端、クレアたちは大音量の洗礼をあびた。
見物客でごったがえす通りの中央では、ほそい立ち襟でゆったりとした仕立てのクルタとよばれる服をきた男性たちの一団が、かずかずの打楽器で
突然あらわれた光景に
ダニエルのぼやきが、現実の音に左右されない拡張現実で共有された。
『これは……、車までもどるのもひと苦労だな』
『まとまって動くのは無理よ。おのおの駐車場にむかいましょう』
クレアの声にニーナが応じる。
『大丈夫なの?』
『シュリがいるから大丈夫。さっさといきましょう。時間がもったいないわ』
またたく間に一行はちりぢりになり、
軽率な判断を後悔しかけたときに、
『ディラン・ベンソン氏を襲撃した男をみつけたわ! 追跡する!』
『おい、お嬢ちゃん。無理するな』
『みすみすみのがせないわ、私の位置をトレースして!』
ダニエルの返答を無視して、となりをみる。
「シュリ、あの男をおうわ!」
「承知しました」
クレアの接近をたしかめてから、男は歩きだした。一定の距離をたもちながら、なれた足取りであるき、角を数回まがる。仮装の一環だとおもわれているのか、男の仮面を気にする人はいない。
男は次第にあるく速度を速めていく。一度降りむいてから、不意に走りだした。雑居ビルの隙間にある道に駆けこむ。
クレアの車椅子は男をおって路地に入った。ロボット工学と生物工学の結晶である目が、一瞬で暗がりに適応する。うすよごれた細道に男の姿はなかった。
「どうしますか?」
「ゆっくりすすみましょう。にがさないわ、絶対に」
息をころして、ふたりは慎重におくへとすすんだ。祭りのにぎわいがとおざかっていく。やがて道は、唐突におわりをつげた。三方を壁にかこまれた袋小路だ。
「……どういう、こと?」
「わかりません。ですが見落としはなかったはずです」
周囲を確認していたシュリがうえをみた。音もなく仮面の男がふたりのきた道に降りたつ。壁を背にしたクレアの視線のさきで、幽鬼のごとき男の手にした蛮刀が、にぶい
『男と遭遇。してやられたわね。追いこまれたみたい』
『すぐにいく。すこしだけ持ちこたえてくれ』
焦りのにじんだダニエルの言葉に透明な声音が応じた。
『クレアに危害はくわえさせません。この身にかえても』
シュリが両腕をひろげて、クレアと男のあいだに立ちふさがる。
「だめよ、シュリ! あなたは人に手をあげられないの!」
「しっています。ですが、時間をかせぐことならできるはずです」
「……おねがい、やめて!」
「選択の余地はありません」
シュリが
「駄目ーっ!」
悲痛な叫びがひびく。かろうじてシュリは、蛮刀をもった右腕を両手で受けとめた。表情をかえることなく、だが懸命にあらがう
「シュリっ!」
あきらかに常人のものではない力をふるった男は、シュリを
「もういいの! もういいのよ、シュリ。やめて、おねがい!」
「いいえ。その指示は受託できません」
ふたたびの打撃。一切の
懇願するクレアに刻みこもうとするかのように、一方的な暴力が冷徹に繰りかえされた。何度打ちたおされてもシュリは無表情に立ちあがりつづけ、そのたびにひどい
数えきれないほどの打撃ののち、クレアの足元に倒れこんだシュリは、白金の髪を泥にまみれさせ、力のほとんどをうばわれてもなお、起きあがろうと必死にもがいていた。どれほどの絶叫ののちにもまだ、機械仕掛けのクレアの
はげしい
蛮刀がふるわれようとしたその瞬間、髪が引きちぎれることもいとわず渾身の力で束縛を振りほどいたシュリは、背後の車椅子めがけて飛びついた。男の手に数本の毛束をのこし、クレアを抱えこんで押したおす。虚をつかれた襲撃者の背後から超音速で飛来するものがあった。
本来であれば肉体に
うつくしい射撃姿勢をたもって攻撃をつづけるニーナのとなりで、緊張した顔でトラヴィスも引き金をしぼる。無数の火花につつまれた男は、両腕で頭をかばうとふたりにむかって駆けだし、はるか頭上を飛びこえて夜の街に消えていった。
クレアたちのところまで後退したニーナは、自身は警戒体制を解かぬまま、トラヴィスにふたりの様子をたしかめるよう指示した。
トラヴィスがおそるおそる声をかける。子供のように泣きじゃくるクレアをその身にかばったまま、シュリはかたく
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