夢
★☆★☆★
風が静寂をみだす。
振りむいた彼女に見入っていたクレアは、
「どうしたの?」
はてしなくひろがるあさく冠水した塩の平原に、高地特有の
さきほどこぼれた涙は錯覚だったのかとおもうほどに、ヴァイオレットの
「もし未来を垣間みることができるとしたら、あなたはなにをしますか?」
質問の意図をはかりかねて答えがおくれ、指揮者のザッツ、合図をのがした奏者の気分で自分の思いをつたえる。そのあとで笑みとともに付けくわえた。
「未来がみえてもみえなくても、私のしたいことはそのひとつだけよ」
「あなたらしい答えだとおもいます、とても」
すんだ、抑揚のない声がかえってくる。本当にそう感じているのだろうかとおもったとき、
ふたたび沈黙がおとずれる。ただし困惑はなかった。なにかをつたえるため、時がみちるのをまっているのだと理解した。託宣をまつ信仰者の忍耐をもって沈黙をたもつ。やがて
クレアは
いきなり引きもどされた現実に違和感をおぼえながら、ようやく日常になじんできた天井をみあげる。かすかな雨音にまじって、睡眠モードに入ったシュリのおだやかな呼吸がきこえて、みじかく吐息をもらした。
五年のあいだ繰りかえしみてそれでもなお、
視点移動によるジェスチャー認識を有効にして、プライベートレイヤーに現在時刻を表示する。夜明けにはとおい時間だ。コマンド入力を検知したシュリが、クレアの方をむいた。
「やや早いようですが、起床しますか?」
「いいえ、まだいいわ。シュリもやすんでおいて、私がおこすまで」
「承知しました」
みっつかぞえてから、首をめぐらせて隣のベッドをみる。シュリは瞳をとじて睡眠モードにもどっていた。
夢のなかでみた透明な
――私たちを焼きつくす炎をおってください。
不意に、夢のつづきでつげられる言葉を思いだす。自由にうごかせたころの手にそえられたやさしい温もりと、
「ねえ、……どうしてあなたは、そんなことをいったの?」
返事はない。しずかな寝息だけがかさなっていく。
「私、ここまできたわ。あとはどうすればいい?」
クレアの言葉は薄明かりのなかを漂いつづけた。
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