押し手を返す
「みんな、肩落とせたかな? 肩はこれで補強されたけど、腕自体が曲がったりしないようにする必要もあるのね。」
肩はしっかり固定されても、肘で曲がる可能性は残っている。これを少なくするために、「押し手を返す」らしい。
「押し手を返す」とは、弓を押す側の腕を右射ちの場合は時計回り、左射ちの場合は反時計回りに回すことだ。このときに、手首は一緒に動かしてはいけない。押し手を返すと、上を向いていた肘の内側が、横を向くようになる。手を開いて小指が上になるように腕を持ち上げると、肘の内側が横を向くが、そのような感じだ。
教わったように、手首はそのままに、腕を返すが、肘がおかしくなりそうだ。
野崎先輩が、私のそばに来た。
「壁とか、フェンスを掴みながらだと、やりやすいかもね。肘だけを動かすというよりは、腕全体っていう感じかな…このときに肩も一緒に斜め前にひねる感じ?」
そして、手本を見せてくれる。きれいに肘が横に向いているが、手の甲は上を向いている。もちろん、肩は落ちている。どうして、そんなことができるのか不思議に思えてくる。
「難しいよねー。実は、押し手を返すこと自体、意見が分かれてるらしいよー。ま、みんなにはやってもらうけど。」
にこっと野崎先輩は笑う。
「でも、変な形で無理やりやろうとしないでね。私が1回生のとき、肘を返すのが苦手で、無理やりやろうとしたら、肘を痛めて、病院に通うことになったからね。ほら。」
野崎先輩が、前に両腕をのばしてみせる。右腕と比較すると左腕が伸びきっていない。
「こんなことになってるのは、私だけだと思うけど、まあ、普段から準備体操とかストレッチを怠らないことね。特に弓を引き出したら、筋肉に負荷がかかるからね。」
辛うじて、押し手をやや返せるようになったところで、グリップについても少し教えてもらった。
アーチェリーでは、弓を握らない。手のひらで押すらしい。厳密に言うと、ピボットポイントなるものがあるらしいが、それについては、ベアボウを使うようになったときに教えてくれるらしい。とにかく、掴まずに押すのだ。掴まなかったら、射つときに弓が落ちるのではないかと思うが、紐のようなもので、落下を防いでいるらしい。
「押し手の練習をするときは手の角度を意識してくれるかな。手を軽く握って、45度くらいに立たせてくれるかな。寝かせすぎたり、縦にしすぎないようにね。それと、自分から見て、人差し指から小指までの関節をつないだラインがだいたい45度になりようにね。何も持たずにやると、イメージしにくいと思うけど。」
今できる押し手の基本的なことは、これですべてらしい。
左腕だけで、こんなにも気をつけることがあるのか。これは、実際に射てるようになるまで、かなり時間がかかりそうだ。
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