利き目とスタンス

「そういえば、自分の利き目マスターアイって把握してる?」

 野崎先輩が私たちに尋ねる。

 利き目について、昔どこかで聞いたことがある。


 人間は、どちらか片方の目を中心に生活しているらしい。中心となっている目を利き目という。これが、左右の視力に差がでる原因だ。基本的に、利き手と利き目は一致するが、たまに、一致しない場合がある。確か、利き手が右、利き目が左の人は8%、利き手が左、利き目が右の人は2%しかいないと誰かが言っていた。野球やダーツなど、様々なスポーツにおいて、利き目を把握することは重要らしい。どうやら、アーチェリーも利き目が関係してくるようだ。


「利き目の調べ方は、まず、手で輪っかを作って、両目を開いたまま、その輪っかの中心に、ちょっと離れたところにある目標物がくるようにするの。そのあとに、片目を瞑ってみるの。たぶん、どちらかの目を瞑ったときに、目標物が輪っかの外にずれるはず。」

 言われたとおりに、手で輪っかを作り、遠くの的を目標にしてやってみる。左目を瞑ったときは、両目の時と何も変わらないが、右目を瞑ると、目標が外にずれてみえる、というよりは、手が右に移動したように見える。

「ずれたときに瞑ってた方が利き目ね。」

 ということは、私の利き目は右なのか。利き手と一致している。

「利き目と利き手が一致していない人いる?」

 全員一致しているようだ。

「よかった。利き手と利き目が一致してなかったら、利き目を利き手側に矯正するか、普通は利き手で弦を引くけど、それを逆にするかのどちらか選ばないといけないんだよね。私は、利き目を矯正したけど。たまに、眼帯をつけて射つ人もいるかな。」


 利き手(利き目)に合わせて、右射ち(右手で弦を引く)と左射ち(左手で弦を引く)に分けられる。利き手、利き目、共に右の、私を含めるほとんどの人は右射ち、優希くんと千裕ちゃんは左射ちだ。


「どっちで射つか決まったね。じゃ、まずは、立ち方からね。『スタンス』って言うの。ストレートスタンス、オープンスタンス、クローズドスタンスといった様に、種類があるんだけど、とりあえず、最初のうちはみんな基本的なストレートスタンスね。」

 野崎先輩曰く、ストレートスタンスというのは、身体が的に対して垂直になるようにする立ち方らしい。つま先を結んだ線上に的のゴールド(中心の黄色のところ)がくるようにして、足を肩幅に開くらしい。

「この部活の多くの人がストレートスタンスだけど、オープンスタンスの人もいるんだよ。ほら、あれ。」

 50mで射っている人の中に、身体をねじるような射ち方をしている人がいた。的に近い方の足をやや後ろに引いて、斜めになるような立ち方をし、腰から上は、捻ることでストレートスタンスと同じように的に垂直になるようにしている。

 優希くんが手を挙げた。

「オープンスタンスにすると何がいいんですかー?」

「良い質問だね。身体を捻ることで、安定性が増して、横風に強くなったり、矢筋を通しやすくなったり、正しい重心の位置を意識しやすくなるんだよね。でも、筋力がないと、押し手の肩が負けるから、最初のうちは、やめておいた方がいいかなー。」

 ちょっと何を言ってるのかは、わからないが、筋力がないうちは避けるべきということはわかった。優希くんも完全には理解できてなさそうだ。

「ま、とりあえず、みんな、あっちに的があると思って立ってみて。」

 利き手の逆側が的にくるように立つ。

「で、重心が上がらないように、胸を反らさずに、しっかりお腹のしたを意識して。」

 「重心が上がらないように」というのがいまいちよくわからないが、言われたとおりにお腹の下を意識した。

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