神楽坂 優希
初めての練習見学から、約1週間が経った。
いろんな人を誘おうと、俊也くん、将平くんと、話したはずなのに、まだ一人も誘えていない。そして、最初の体験会の日を迎えたのだ。
授業が終わるのが遅く、もう、体験会は始まっているだろうなと思いながらレンジへ向かう。
女の子、誘えなかったな……
学部でできた友達に声をかけたのだが、すでに入りたいサークルや部活が決まっているらしく、アーチェリーに興味を示してくれなかった。
ごめんね、俊也くん、将平くん……
レンジのすぐそばまで来た。申し訳なさを感じながら、レンジの門の方に目を向ける。
誰かが立っている。
レンジを覗いている。中に入ろうかどうか悩んでるようにみえる。
「あの、中に入らないんですか?」
「ひゃうっ!」
突然話しかけられてびっくりしたようだ。
その人は、私よりもちょっと背の高いすらっとした女の子だった。袖や上の方が白く、腰から下が黒い、フリルのワンピース。さらさらで、つやつやの黒髪をツーサイドアップにしている。秋葉原にいそう(行ったことがないので、完全なる偏見だが)。でも、女の私からみても、明らかにかわいい。
「えっと、あの、なんか入りづらくて……」
モジモジしている。
声も澄んでいて、かわいい。(語彙力の無さを許していただきたい)
「私と一緒に入りませんか?」
ぱあっと表情が明るくなった。
「うん!」
中に入ると、やはり、すでに始まっていた。15人ほど集まっており、3カ所にわかれて、新歓祭と同じように、近距離から的に向かって射っていた。
「明日実ちゃん、お友だちつれて来てくれたんだね。」
本柳さんが声をかけてくれた。
「あ、そこで、たまたま出会っただけなんですけどね。」
女の子の方をチラッとみると、かわいく「えへっ」と笑った。
「来てくれてありがとう。お名前は?」
「ボク、神楽坂 優希って言います。」
ボク?
この子は所謂「ぼくっ娘」というやつなのだろうか。アニメの世界にしか存在しないと思っていた。
「優希ちゃんは、明日実ちゃんと一緒に、あそこの列で体験してくれるかな。」
優希ちゃんと一緒に体験の列に並んだ。
「優希ちゃんは、元々アーチェリーに興味があったの?」
「うん。あのね、『魔法少女☆まりる』の主人公の武器がね、弓なの! それでね、弓かっこいいなぁって。すごく憧れてたの!」
なるほど。本当に、何かを始める理由って人それぞれなんだなと改めて思う。
「ボクもね、まりるみたいに、しゅぱって射ってみたいな!」
優希ちゃんの目がきらきらしている。少女漫画の様だ。
「この髪型はね、まりるをイメージしてるんだ!」
『魔法少女☆まりる』をあまり見たことがないので、なんとも言えないが、似合っているとは思う。
「弓、上手になりたい。だから、ボクね、この体験会の後、入部するって言うんだ。」
「本当に!?」
「うん。」
嬉しくて、飛び跳ねたい。
「良かった! 本当に良かった! 女の子が入部したいって言ってくれて!」
思わず、優希ちゃんの手を取ってしまう。
「うーん、ボク、男だよ?」
「え? ちょっと待って? え? 今っ、だって、え?」
混乱して、何も理解できなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます