練習見学

 部員達は、50mのラインの後ろに置かれていた弓を持ち、ラインをまたぐ。


 赤、白、黒、青、紫。


 それらは、実にカラフルで、形も異なっている。

 ストップウォッチが押された。


「今始まったのはフリープラクティス。4分間、好きな本数を射つことができるの。その間に、射型を確認したり、サイトを合わせたりするの。」

 私たちのすぐそばのライン上で弓を持った野崎さんが説明してくれる。

「だから、今から射つのはあまり期待しないでね。」

 野崎さんが矢をつがえ、的の方をみる。その表情は、さっきまでの笑顔とは違い、真剣だ。

 赤い弓が上がる。弓を押している手が降りて、そのあと弦が顔のところまで引かれる。唇や鼻に弦があたる。

 そのまま、3秒間。野崎さんが完全に止まったようにみえる。

 私も思わず、呼吸も瞬きも止めてしまう。


 矢の先の何かがカチッと動く。

 次の瞬間、パンっという音とともに矢は放たれ、弓がくるんと下にまわる。


 かっこいい。


 そして、的に視線を移す。


 ……どこに刺さっているんだ?


 遠すぎて何も見えない。


「野崎先輩は、どこに刺さったか見えてるんですか?」

 隣の俊也くんが、ちょうど私が聞きたかったことを聞いてくれた。

 野崎さんがこちらを振り向く。その表情は、射つ前のものに戻っていた。

「うーん、だいたいの位置はわかるけど、ちゃんとは見えてないかなぁ。だから、これを使うの。」

 すぐ近くに置かれた三脚に固定されたスコープを指さす。

「射ったあとに、これで見て、どこに当たったか確認するの。はい。」

 私たちに、スコープを差し出してくれた。

 俊也くんが「先に覗いていいよ」と言ってくれたので、覗いてみる。

 裸眼で見たよりも、かなりはっきり的が見える。

「すごい……ど真ん中です……」

 この距離から……どうやってるんだ……

「あははっまぐれだよ。そのまま覗いてて。」

 言われたとおりに覗き続ける。パンっという音が聞こえ、矢が的の中心に吸い込まれていく。

「すごい……」

 語彙力がなさすぎて、そんなことしか言えない。

 スコープを俊也くんに渡す。

 野崎さんが、数本射つ。

「……」

 俊也くんは口を開けたまま黙っていた。


 あっという間に4分は経過し、弓を置いて、的まで走って矢を取りに行く。

 的の前に到着するまでの時間から、改めて50mという距離を感じさせられる。


「やばい……」

 ようやく、俊也くんがしゃべった。

「僕にこれができるのかな……」

「私も同じこと思った……」

「入る部活間違えたかもしれない……」

「え、そんなこと言われたら、私も不安になってくるよ。」

 そのまま二人で黙ってしまう。

「大丈夫やで。」

 横から声がした。

 ここのユニフォームではない服を着た男の人だった。

 

 

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