レンジ
全体練習の15分前。スマホでメッセージアプリを開く。
『今、どこにいる?』
俊也くんからメッセージが届いている。
『購買の中だよ。』
『わかった。そっちに行くね。』
私は適当に購買の中を歩いていた。
高校の購買に比べると、やっぱり大きい。PCのアクセサリーや、ヘッドホン、ペンタブなどの電子機器が置いてある。
ヘッドホンの棚の前で立ち止まった。自分のスマホに繋げて試聴ができるらしい。さっそく、適当にスマホの音楽ファイルを開く。
やっぱり、低音がしっかり聴こえるヘッドホンはいいな。
元々音楽をやっていたから、音にはこだわってしまうところがある。
このベースの動きが……
「ひゃっ!?」
肩を叩かれた気がした。
ヘッドホンを外しながら振り向くと、俊也くんだった。
「びっくりさせてごめんね。声かけても聴こえていなさそうだったから……」
「いや、気づかなかった私の方がごめんね。行こっか。」
新歓祭で野崎さんがくれたビラに描いてある簡易的すぎる地図を頼りにアーチェリー場に向かった。アーチェリー場は、キャンパスの一番奥にあったので、簡易的な地図でも、何の問題もなくたどり着くことができた。
フェンスで仕切られており、扉の横には「体育会洋弓部」と書かれた看板が掛かっている。フェンスの向こうのアーチェリー場は、縦に長く、地面は土で、端の方は、草が伸びっぱなしになっている。
まだ、練習は始まってないようで、フェンスの向こうで部員がしゃべっている。
その、しゃべっている人の中にいた野崎さんがこちらに気づいてくれた。ポニーテールを揺らしながら、笑顔で扉に向かって走ってくる。
ガシャン
扉が開いた。
「明日実ちゃん、俊也くん、来てくれたんだね!」
「こんにちは、野崎さん。」
「体育会洋弓部のレンジへようこそ! さぁ、中に入って!」
「失礼します。」
どうやら、アーチェリー場のことを「レンジ」というらしい。
中に入って、見渡してみる。向こうの方に、畳が高く詰まれており、その前に畳が縦に何枚も並べられており、ペグで固定してある。そこに先日見た的が貼ってある。20枚弱といったところだろうか。
「こんにちは。」
気がつくと、私の隣には、やや身長が高めの、エアリーボブの女の人がいた。
「私は、あなたたちが練習に参加するころには女子リーダーになっている、本柳 湊です。」
穏やかな印象を受けた。
なぜ、未来形になっているのかというと、リーグ戦が終わる頃に、私たちと入れ替わりで4回生が引退するかららしい。
「小笠原 明日実です!これから、よろしくお願いします!」
「今から体操とミーティングするから、ちょっと離れたところから見ててくれるかな。」
部員たちが間隔を広くとって輪になった。ぱっと見た感じだと、30人弱。白地に所々青がはいったユニフォームの背中には、「六甲大学 洋弓部」と書かれている。
現在の主将らしき人が掛け声をかけて、体操が始まる。観察していると、普通の体操に比べて、肩周りを意識したものが多い。
「集合。」
主将の周りに皆が集まる。
主将が何かをしゃべり出したが、私たちはちょっと離れたところにいるので、うまく聞き取れない。しかし、あるタイミングで全員がこちらをチラッとみたので、たぶん私たちのことについてしゃべっているのだろう。
ある程度何かをしゃべったところで、全員が突然片足を前にだして頭を寄せた。
なんだ?
「ろくだーーーーいっ ファイッ ファイッ ファーーーーーーイ」
……!?
突然全員で叫びだしたのでびっくりしたが、何か圧倒されるものがあった。
これが、六甲大学体育会洋弓部……
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