大澤 俊也
早速、入部を決めてしまった私と俊也くんは、他の部活やサークルのブースをまわることはなかった。
自然と、グラウンドの出口へ、何も話さずに二人で向かっていた。
勧誘しようとたくさんの人が話しかけてくる。私は、「あ、大丈夫です」と、適当に答え、彼は、何も聞こえていないかのように、出口に進む。
人混みをかき分けてどんどん進んでいく。
いろんなブースの前を通ったが、アーチェリー以外には興味がなくなっていた。
外に出た。
グラウンドの外での勧誘は禁止されているらしく、人は疎らだ。
彼が立ち止まってこちらに振り向いた。
「あの、一緒に学食でお昼ごはん食べませんか。」
初めて彼をちゃんと見た。優しそうな笑顔だった。黙って歩き続けていた時は、ちょっと冷たい人なのかなと思っていたから、少し驚いた。
「いいですよ。」
彼の名前は、大澤 俊也。彼も、新歓祭には一人で来たらしい。
食堂で、彼はハンバーグ、私はシチューを食べながら、互いのことについて話した。
「僕、大学に入ったら、何かを撃つような部活かサークルに入りたいなって思ってて、ネットで射撃サークルとかを探してたんだけど、見つからなくて。じゃあ、アーチェリーだなって思ったんだ。」
「新歓祭に来る前から決めてたんだね。すごいな……私なんか、何も決めてなかったよ。」
「人それぞれだと思うよ、何かを始めるきっかけなんて。知り合いに勧められてって人もいるだろうし、なんとなくで始める人もいるのは当然だと思う。」
彼は、ハンバーグを頬張って、ゆっくり味わった。私はその様子を眺めた。よく噛んで、飲み込む。
「まあ、僕たち二人とも、ちゃんとアーチェリーを見たことないんだし、何も変わらないよ。」
そうだった。まだ、見たことがないんだ。
入部は決まったものの、5月の中頃になるまで新入生の練習は始まらないらしい。新入生が揃うまで待つというのもあるが、4月はリーグ戦がある大切な時期らしい。そういえば、野崎さんが、新歓とリーグの時期を被らせないでほしいってボヤいてた。
だから1ヶ月以上何もできない、というわけではない。練習はできないけど、見学ならいつでも来てくれて構わないと言われたし、定期的に行う体験会に友達を連れてきてほしいとも言われた。
「大澤くんは、いつ、練習見に行くの?」
「今週の全体練習を見に行こうかなって思ってる。早く見てみたいからね。」
「私も……一緒に行っていいかな?」
「いいよ、一緒に行こう。」
そして、彼はゴソゴソとリュックの中からスマホを取り出した。
「連絡先、教えてもらってもいいかな?」
「も、もちろん!」
嬉しくて、ちょっとだけ声が裏返ってしまった。
知らない場所に一人放り出されたという不安と孤独から、少しだけ、開放された気がした。
彼は、私にとって、初めての大学の友だちとなった。
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