はじめてのアーチェリー
野崎さんが案内してくれた。
グラウンドの隅の小さな人の集まりのところには畳が縦に何枚か置かれており、そこに的が2枚貼られていた。
私の身長の半分くらいの大きさ。80cmといったところだろうか。意外とカラフル。外側から白、黒、青、赤、そして、中心が黄色。
「樫村、この二人、お願いね。」
「了解です!」
樫村と言われたちょっとチャラそうな男の人(偏見)が、木の弓を持ってやって来た。
「私は、ブースの方にいないといけないから、この樫村って人に教えてもらってね!」
そう言うと、野崎さんはブースへ帰っていった。
「……じゃあ、やってみますか!二人とも、僕が教えますね!」
「よろしくお願いします。」
俊也くんと私はお辞儀した。
私たちは、的から数メートル離れたところに立たされた。
「二人にはこのベアボウを使ってもらいます。」
「ベアボウ?」
渡された木の弓は、先程ブースの前で見た弓に比べると、とてもシンプルだった。
「サイトとか、スタビライザーが付いてない弓のこと。」
樫村さんの言ってることがわからない。
「二人とも、右利き?右射ちでいいよね。それと、このタブを手につけてくれる?」
革でできたこれが、タブというのか。
紐テープのようなものがついており、輪っかになっている。そこに、右手の中指を通すと、人差し指と中指の間に、プラスチックの何かが、人差し指、中指、薬指の前に革がくるようになっている。これで、弦を引く指を保護するらしい。
「実際に射つ前に、素引きしてみようか。左手で弓を持って、右手で弦をこういうふうに引いてくれる?それと、素引きのときは、絶対弦を離しちゃダメだからね!危ないからね!」
樫村さんが、弓を引く動作をしてみせる。かなりアバウトだが。
見様見真似で的に向かって垂直になるように立ち、左手で弓をギュッと握り、右手で革の上から弦を引いた。思い切り。私の出せる力の全てで……のはず……なのに……?
樫村さんのアバウトなジェスチャーは、右手が顎にぴたっとひっついてる。
それに対して、私は左肩くらいまでしか引けない。
すごく、重い。
すぐに戻した。
「ぜん……っぜん…………引けま…せん……」
「女の子でそれは、引ける方だと思うよ。となりの男の子見てみて。」
俊也くんも私と同じくらいしか引けていなかった。
「普段の生活でつかう筋肉とは違うところを使うからね、力がありそうに見える人が全然引けないことも珍しくないよ。じゃあ、次は実際に射ってみようか。」
樫村さんに矢をつがえてもらい、さっきと同じように全力で引き、右手を離す。矢がピョンと放たれフラフラと飛び、ポンと的にささる。赤色。
何本かさらに射たせてもらったが、刺さるところは青や、黒などバラバラ。矢の向きもバラバラ。
最後の1本は、黄色だった。
すごく下手くそ。でも、何か楽しい。
すごく頼りない。でも、矢が私の元から飛んで、的に刺さってる。
その感じがなんとなく良かった。
「さっきブースで言われた時間に来てくれたら、僕たちの練習風景が見られるから、もし、興味を持ってくれたのなら、来て…」
「入部します!」
私と俊也くんは、同時にそう言っていた。気づいたら言っていた。たぶん俊也くんも、同じものを感じたのかもしれない。本物のアーチェリーは、まだ見たこともないのに、何故か、私たちはこの部に入るべきなのかもしれないと思った。
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