第4話 終わりの始まり

専門学校はWEBデザイン系にした。

理由は前からそうだけれど人生なんて

安定も計画もクソ喰らえなのだからハウスワークでも

食えるように知識を叩き込みたかった。


最初は独学だったが、万が一、会社員に戻るとなって

この期間は何をしていましたか?

と問われた場合に言い訳が付く。


学校は渋谷にあった。


ガキの頃、あれだけ憧れた渋谷なのに

大人になると人混みが鬱陶しいだけだった。


そう、人混みと空気の悪さ。

通学中に喘息発作が多発してしまった。


結局学校を辞める羽目になった。

血と汗と涙の金を私は溝に流した。


呼吸がまともに出来ない。

周りからは理解されない。

医者からはステロイド治療しかない、と

言われるばかり。


その後はSNSマーケティングや

モデルなどやってみたがギャラは

たかがしれている。


気づけば29になる。

三十路を目の前にして人生の後悔と失敗を感じる。

反乱だった10年。

親の言う事しか聞かなかった18年。

人生やり直せないか?


私は過去に戻れないか本気で思った。

くだらないと思われるけれど、過去に

タイムスリップする方法を検索していた。


実にくだらないネタばかり出てくる。

幽体離脱の仕方、富士山の頂上を目指す。


10年でもいい。

欲言えば0歳から戻れないか。

記憶だけ残し、過去に戻る。


1つ説得力ある記事があった。


【人生の成功者は一度死んでいる。

理由は人生に失敗してもがき苦しみ自殺を

したところ、記憶だけ残され生まれ変わり

失敗を回避して成功者になった。】


とのことだ。


自殺かぁ。

一大決心過ぎる。


もし豚に生まれ変わったら?

焼き豚人生なんて最悪だぞ。


もしフォアグラなら?

人間に無理矢理運動会をさせられて

無理矢理血を吐き内蔵破裂するまで

餌を喰わされて死後は高級料理となり

金持ちに食われる屈辱。


キツネなら?

毛皮を生きたまま剥がされて死ぬ。


でも自分の人生を見返すと【幸】が

見当たらない。


まるで歴史の教科書を捲るかのように

過去を振り返れば戦争だらけ。


25で一度死にかけているけど

死ぬまでは苦しいが、恐らく意識無くなりかけた時

案外悪くはなかったから試しも有りかも。


私は部屋にある個人情報を全て燃やした。

そして電車とバスに乗り、ダムのある橋まで来た。


もし成功すれば今までの自分の歴史を

全て【不】から【幸】に変えられる自身はある。


橋から真下を観る。

目が眩むような現実離れした高さ。

大丈夫、一瞬だ。

喘息より恐くない。

呼吸が永遠といつ回復するか分からない

あの苦しみと比べたら一瞬で終わる。


橋の外側に来た。

フェンスを手放せば即死決定。

いや、新しい未来が始まる。


言い訳になるけれど、私は人より

人生のスタートラインが遅れてしまった。


次は一番早いところから0からスタートしてやる。

フェンスから手を離した。

涙もない。だってこれから始まるんだ。


フワッと一瞬で今ある自分の世界の歴史が全て消えてしまった。



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