Middle 4-1 悪意の強襲

 学校を終えた泉と速人が支部へ歩き出して10分余り。

 角を曲がれば支部が見えてくる頃に異変は起こった。


 耳鳴りのような感覚。胸の真ん中が重く、息が苦しい。

 強烈な重圧プレッシャーに本能が警鐘を鳴らす。


「これ…って…!」

「《ワーディング》…!?でもこの圧力プレッシャーは…!」


 微量のレネゲイド因子を周囲に放出、拡散するエフェクト《ワーディング》。

 非オーヴァードの一般人が晒されれば、心身への負荷によって無気力や昏倒に至る。

 オーヴァードである2人ですら身がすくむほどの《ワーディング》…それは、目の前の白スーツの男から放たれていた。


『やっと見つけたわ。少し出かけてる間にいなくなってしまうんだもの…。

 あの子たち、見張りひとつ満足にこなせないとはね…。』


 朱色のネクタイに仕込まれたスピーカーから女性の声が響く。


「風間…先生?」

『あら坂木さん。ちょうどよかった、あなたも一緒に連れて行きましょうか。

 女の子の方も捕らえなさい、“ディアボロス”…くれぐれもトドメを刺してしまわないように。』


 虚ろな目のまま、白スーツの男…“ディアボロス”が2人に歩み寄る。


「逃げて!」


 初めて出逢う「敵」の前に、速人は動けない。

 叫んだのは泉だった。


「私が時間を稼ぎます!氷見川君は支部まで走ってください!」

「そんな…。」

「まだ能力を使えないあなたよりは戦えます!早く支部長たちを!」


 背後に庇った速人に、泉が意識を向けた一瞬、“ディアボロス”が動く。

 素早く間合いを詰め、無駄のない軌跡で首を狙う。

 確かに速人よりはマシでも、後方支援タイプの泉では数秒の時間稼ぎすらも叶わない…はずだった。


ァッ!」


 “ディアボロス”の身体が鈍い打撃音と共に弾かれ、後ずさる。


「『あの子たち』ってのは…アイツらの事かよ?」

「大丈夫ですか?泉チャン。なんとか間に合ったようで。」


 “ディアボロス”との間に姿のは響真。

 続けて炭井も駆け寄ってきて、泉と速人を庇って並び立つ。


『あら、揃っちゃったのね。“バレルマイスター”に…“フラッシュ・バック”。』

「春日恭二は貴女の操り人形、って訳ですか。

 よく支配下に置けましたね~、あの“ディアボロス”を。」


 炭井の言葉に、スピーカーの向こうで女の声が高くなる。


『そうでしょうそうでしょう?

 ≪投薬≫で自我を10%未満まで抑制。毒素をウィルスタイプにすることで、成分の血中濃度は半永久的に維持可能!私の命令にだけ従う兵隊を注射の一刺しで量産できるの!

 しかも兵隊コマは私にしか動かせない。奪還さうばわれても私の命令以外は受け付けないし、私が死ねば動きを止める!私だけの力、私だけの軍団!』


 スピーカーを越しになお伝わってくる歓喜と狂気。

 人を人と思わぬ研究の成果を、“インジェクター”が大声でまくしたてる。


「それはそれは…。

 で、貴女は速人クンと泉チャンを攫いに来たようですが…ボクらも揃った今、どうするおつもりで?」

『愚問ね。ここにいるのは私の最強の兵隊コマ

 …“ディアボロス”、戦闘よ。まずは全力で叩き潰しなさい。』


 その一言で、響真たちを牽制していた“ディアボロス”が臨戦態勢に入る。


『息があったら、連れ帰って新しい兵隊コマにしてあげるわ。』

「クズが…。」

「…先生の、思い通りにはさせません。氷見川君も、私たちも!」


 《ワーディング》のとばりとざされた、街の一角。

 常人にはり得ない白昼の戦場で、異能の者たちはその力を交える。


 >SCENE WILL CONTINUE…>

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